日本地質学会第128年学術大会

講演情報

ポスター発表

R10[レギュラー]炭酸塩岩の起源と地球環境

[1poster51-55] R10[レギュラー]炭酸塩岩の起源と地球環境

2021年9月4日(土) 16:30 〜 19:00 ポスター会場 (ポスター会場)

16:30 〜 19:00

[R10-P-2] (エントリー)富山県の下部白亜系手取層群中にみられる古土壌から推定される堆積環境と古気候

*黒島 健介1,2、藤田 将人3、柿崎 喜宏4、狩野 彰宏4、白石 史人2 (1. 広島大学総合博物館、2. 広島大学、3. 富山市科学博物館、4. 東京大学)

キーワード:古土壌、炭酸塩ノジュール、古環境、東アジア

前期白亜紀の東アジアは,恐竜の多様性や進化を考える上で重要な地域である.恐竜の多様性を生む原因の一つに気候があり,それを理解するためには東アジアの古気候の正確な推定が必要である.
土壌の化石である古土壌からは,その構造や組成などを用いた定性的な古環境推定が可能であると共に,主要元素組成を用いて形成当時の気温や降水量といった定量的な古環境推定が可能である[1].さらに古土壌中にみられる炭酸塩ノジュールからは,古土壌形成当時の水化学組成やCO2濃度などの定量的情報も得られることが知られている[2].古土壌と炭酸塩ノジュールは,日本の前期白亜紀の陸成層中から複数報告されており[3][4],これらを用いることで,陸域の古環境を定性的かつ定量的に推定することが可能になると考えられる.そこで本研究では,富山県の上市・立山地域に分布する下部白亜系手取層群中にみられる古土壌と炭酸塩ノジュールを用いて,堆積環境と古気候を推定した.
本研究では綿密な地質調査を行い,上市地域(セクションK5:白岩川層)と立山地域(セクションT1:白岩川層)にみられる古土壌の記載とノジュールの密なサンプリングを行った.また持ち帰った試料を用いて以下の検討を行なった.
(1)肉眼・薄片観察,(2)粉末X線回折(XRD)分析による鉱物同定,(3)蛍光X線分析(XRF)による全岩の主要元素組成分析,(5)軽元素質量分析計(IR-MS)を用いた炭素・酸素安定同位体比分析,(6)誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)による炭酸塩鉱物中の主要・微量元素組成分析.
本研究で検討を行った2つのセクションでは,年平均気温(MAT)と年間降水量(MAP)の推定値はそれぞれ約10~12℃と約1000~1500 mmとなり(低温〜中温かつ湿潤),ほとんど差はみられなかった.一方で,古土壌の色合い(セクションK5で赤色層,セクションT1で灰色層が卓越)や内在する炭酸塩ノジュール中の炭酸塩鉱物種(セクションK5でドロマイトとシデライト主体,セクションT1でドロマイトとカルサイト主体)には違いが見られた.これは降雨の季節性や水はけの良し悪しなど,局所的な環境条件の違いを反映していると考えられる.一方で,炭酸塩鉱物の酸素同位体比はセクションK5で有意に低く,これはモンスーン気候での雨季における降水の量的効果を反映していると考えられる[5].すなわち,両セクションではMAPとMATが同程度であるにも関わらず,降水の量的効果・雲の輸送距離や局所的堆積環境の違いによって形成される古土壌や炭酸塩ノジュールの特徴に差が生まれたと考えられる.これらの結果から,前期白亜紀の東アジアの手取層群堆積場は低温〜温暖な湿潤気候であり,モンスーンの強弱があったと推定される.炭酸塩ノジュールと赤色層を含む古土壌であっても低温〜温暖な湿潤気候が示されたことは,赤色層の存在などをもとに,白岩川層を含む手取層群最上位層形成時に気候が高温・乾燥へと移行したとするこれまでの解釈[4]とは対照的である.
本研究のように詳細な検討を他地域・他年代の古土壌に対して網羅的に行うことで東アジアの古気候,そして恐竜をはじめとする生物相の多様性を生む原因が明らかになるだろう.

【引用文献】[1] Tabor and Myers (2015) Annual Reviews of Earth Planetary Science, 43, 11.1-11.29. [2] Sheldon and Tabor (2009) Earth-Science Review, 95, 1-52. [3] Lee and Hisada (1999) Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology 153, 127-138 [4] 茂野ほか (2004) 福井県立恐竜博物館紀要, 3, 1-22. [5] Cerling (1984) Earth and Planetary Science Letters 71, 229-240.