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[R18-P-1] (エントリー)鹿児島県北西部における地下水の特徴から見た地下構造
キーワード:温泉、ラドン、出水断層
1. はじめに
温泉水を含めた地下水にはさまざまな成分が溶存しており, それらを用いて地下の状況について議論を行うことが可能である. ラドン濃度を用いたその掘削深度における母岩や断層に関する研究やLi-やCl-を用いたスラブ起源深部流体に関する研究(風早他,2014)などをはじめとしてこのような研究は世界中で数多く行われている. 本研究は鹿児島県北西部で温泉水採取を行い,それらの分析結果における特徴をまとめ, その周辺の断層などの地下構造との関係を議論した.
2. 方法
鹿児島県北西部に位置する出水断層帯, 市木断層帯の周辺から温泉地をランダムに選定し,それぞれ10箇所ずつ程度試料の採取を行った.採取に用いる必要な容器を用意し,全て気泡が入らないように採取した.採取した試料は研究室に持ち帰り, ラドンと溶存イオンの分析を行った(川端他,2019). 水素同位体と酸素同位体の分析は昭光サイエンス株式会社に依頼した.
3. 結果と考察
出水断層帯と市木断層帯の各周辺地域でラドン濃度が最も高かった地点は花崗岩帯の直上または近傍に見られることから, 花崗岩帯または花崗岩体を起源とする地下水ではラドン濃度が非常に高くなることが推定される(歳弘他,1996). またKGW_20_01, 02, 03は断層近傍に位置しているがラドンは低濃度であることに加え, KGW_20_12でもラドンは低濃度であることから, これらの地点は堆積岩からなる四万十層群に達していることがそのラドン濃度の要因の一つと考えられる. 加えてKGW_20_01, 02, 03の結果と市木断層帯の活動記録を照らし合わせると, この断層帯があまり活動的ではなく亀裂や歪みが少ないことが考えられる(脇田,1996). 水素酸素同位体の分析結果では天水線から大きく外れている地点は見られないことが, 市木断層帯周辺の試料は出水断層帯周辺よりもプラス側に位置していることから, 海水の混入が多いことが考えられる. また溶存イオンを用いた水質分析では市木断層周辺の試料の多くはNa-Cl型に位置しており, Br/Clについても海水に近いものが多い(今橋,1996).
4. まとめ
本研究ではラドン, 溶存イオン, 水素酸素同位体を用いて温泉水と地質構造の関係について考察を行ったが, このような研究でよく用いられる3He/4Heなど希ガスの分析を行い, 火山との関連も見る必要がある。またサンプル数が充分とは言えないため, さらに多くの試料の分析が望まれる.
引用文献
今橋 正征 (1996) : 天然水の臭化物イオン含量, 安全工学, 35(5), 328-336
風早 康平・高橋 正明・安原 正也・西尾 嘉朗・稲村 明彦・森川 徳敏・佐藤 努・高橋 浩・北岡 豪一・大沢 信二・尾山 洋一・大和田 道子・塚本 斉・堀口 桂香・戸崎 裕貴・切田 司 (2014) : 西南日本におけるスラブ起源深部流体の分布と特徴, 日本水文科学会誌, 44, 3-16
川端 訓代・北村 有迅・冨安 卓滋 (2019) : ポリエチレン保存容器から大気への拡散を考慮した水中ラドン濃度推定法の開発, 分析化学, 68, 333-338
木村 重彦 (1978) : 水中ラドン濃度の測定とその応用 (Ⅰ)水文学, RADIOISOTOPES, 27, 740-746
歳弘 克史・藤原 美智子・畠中 啓治 (1996) : 山口県における地下水中のラドン濃度, 山口衛生研業報, 17, 22-25
脇田 宏 (1996) : ラドン観測と地震予知, 保健物理, 31(2), 215-222
温泉水を含めた地下水にはさまざまな成分が溶存しており, それらを用いて地下の状況について議論を行うことが可能である. ラドン濃度を用いたその掘削深度における母岩や断層に関する研究やLi-やCl-を用いたスラブ起源深部流体に関する研究(風早他,2014)などをはじめとしてこのような研究は世界中で数多く行われている. 本研究は鹿児島県北西部で温泉水採取を行い,それらの分析結果における特徴をまとめ, その周辺の断層などの地下構造との関係を議論した.
2. 方法
鹿児島県北西部に位置する出水断層帯, 市木断層帯の周辺から温泉地をランダムに選定し,それぞれ10箇所ずつ程度試料の採取を行った.採取に用いる必要な容器を用意し,全て気泡が入らないように採取した.採取した試料は研究室に持ち帰り, ラドンと溶存イオンの分析を行った(川端他,2019). 水素同位体と酸素同位体の分析は昭光サイエンス株式会社に依頼した.
3. 結果と考察
出水断層帯と市木断層帯の各周辺地域でラドン濃度が最も高かった地点は花崗岩帯の直上または近傍に見られることから, 花崗岩帯または花崗岩体を起源とする地下水ではラドン濃度が非常に高くなることが推定される(歳弘他,1996). またKGW_20_01, 02, 03は断層近傍に位置しているがラドンは低濃度であることに加え, KGW_20_12でもラドンは低濃度であることから, これらの地点は堆積岩からなる四万十層群に達していることがそのラドン濃度の要因の一つと考えられる. 加えてKGW_20_01, 02, 03の結果と市木断層帯の活動記録を照らし合わせると, この断層帯があまり活動的ではなく亀裂や歪みが少ないことが考えられる(脇田,1996). 水素酸素同位体の分析結果では天水線から大きく外れている地点は見られないことが, 市木断層帯周辺の試料は出水断層帯周辺よりもプラス側に位置していることから, 海水の混入が多いことが考えられる. また溶存イオンを用いた水質分析では市木断層周辺の試料の多くはNa-Cl型に位置しており, Br/Clについても海水に近いものが多い(今橋,1996).
4. まとめ
本研究ではラドン, 溶存イオン, 水素酸素同位体を用いて温泉水と地質構造の関係について考察を行ったが, このような研究でよく用いられる3He/4Heなど希ガスの分析を行い, 火山との関連も見る必要がある。またサンプル数が充分とは言えないため, さらに多くの試料の分析が望まれる.
引用文献
今橋 正征 (1996) : 天然水の臭化物イオン含量, 安全工学, 35(5), 328-336
風早 康平・高橋 正明・安原 正也・西尾 嘉朗・稲村 明彦・森川 徳敏・佐藤 努・高橋 浩・北岡 豪一・大沢 信二・尾山 洋一・大和田 道子・塚本 斉・堀口 桂香・戸崎 裕貴・切田 司 (2014) : 西南日本におけるスラブ起源深部流体の分布と特徴, 日本水文科学会誌, 44, 3-16
川端 訓代・北村 有迅・冨安 卓滋 (2019) : ポリエチレン保存容器から大気への拡散を考慮した水中ラドン濃度推定法の開発, 分析化学, 68, 333-338
木村 重彦 (1978) : 水中ラドン濃度の測定とその応用 (Ⅰ)水文学, RADIOISOTOPES, 27, 740-746
歳弘 克史・藤原 美智子・畠中 啓治 (1996) : 山口県における地下水中のラドン濃度, 山口衛生研業報, 17, 22-25
脇田 宏 (1996) : ラドン観測と地震予知, 保健物理, 31(2), 215-222