日本地質学会第128年学術大会

講演情報

シンポジウム

S1.[シンポ]球状コンクリーションの科学–理解と応用-(一般公募なし)

[2ch101-09] S1.[シンポ]球状コンクリーションの科学–理解と応用-(一般公募なし)

2021年9月5日(日) 09:30 〜 12:30 第1 (第1)

座長:勝田 長貴、吉田 英一、長谷川 精

10:00 〜 10:15

[S1-O-3] (招待講演)玄能石コンクリーションの産状と成因

*村宮 悠介1、吉田 英一2、南 雅代3、三上 智之4、小林 寿宣5、関内 幸介6、勝田 長貴7 (1. 公益財団法人深田地質研究所、2. 名古屋大学博物館、3. 名古屋大学宇宙地球環境研究所、4. 東京大学、5. 福島県教育委員会、6. いわき地域学会、7. 岐阜大学)

キーワード:コンクリーション、玄能石、初期続成、海底堆積物

玄能石は、長さ数cm~十数cmの双角錐型、またはそれが複数組み合わさってできるX字型や金平糖型をした、イカイト(ikaite: CaCO36H2O)の方解石(CaCO3)仮晶である。海底堆積物中では、低温(<7℃)かつ高リン酸イオン濃度の条件下で、イカイトは双角錐型などの結晶を形成する。この条件が崩れると、イカイト結晶は安定に存在することができず、粒状方解石の集合体へと変化し、その結果、玄能石が形成する。イカイトが持つこの特徴から、玄能石は特に低温環境を示す指標として用いられ、古環境復元に活用されてきた。 玄能石は、地層中に直接胚胎されることもあれば、球状~長球状の方解石質コンクリーションに内包された状態(=玄能石コンクリーション)で産することもある。玄能石および玄能石コンクリーションは、ともに、世界中の様々な時代の堆積岩から産出する。また、国内では、玄能石は始新世~更新世の少なくとも35の地層で確認され、玄能石コンクリーションのタイプは、そのうち少なくとも19の地層から産出する(村宮・吉田, 2020, 深田地質研究所年報, 21号, 47–58.)。このように、玄能石および玄能石コンクリーションの分布は時間的にも空間的にも広く、このことは決して特殊な地質現象ではないことを示している。しかし、その形成プロセスは、未だ不明な点が多く、特に次のような疑問が残されていた。(1)イカイトとコンクリーションの炭素源は何か。(2)なぜ、ある時点でイカイト結晶の形成から方解石質コンクリーションの形成に切り替わるのか。(3)なぜ、玄能石の周囲にコンクリーションが形成する場合としない場合があるのか。本研究では、この疑問を解決し、玄能石および玄能石コンクリーションの形成プロセスを明らかにするため、国内の複数の地層を対象に、両者の産状調査・断面観察・薄片観察・各種分析を行った。 その結果、多くの玄能石コンクリーションには合弁の二枚貝化石、スナモグリ化石、Chondrites様の生痕化石群集が含まれることが分かった。また、合弁の二枚貝化石を含む玄能石も発見された。二枚貝化石が含まれる玄能石および玄能石コンクリーションでは、二枚貝の殻口部がちょうど玄能石の中心部に位置し、この部分から形成が始まったことを示唆する。玄能石コンクリーションには親生元素であるリン(P)が周辺母岩の数倍以上濃集している。玄能石内部を詳しく調べると、リンはイカイトに由来する粒状方解石には含まれず、粒状方解石の間隙を埋める方解石セメント部分にリン酸カルシウムとして濃集していることが分かった。また、玄能石およびコンクリーションは、ともに負の炭素同位体比(δ13C)で特徴づけられる。 この一連の証拠は、玄能石の先駆物であるイカイト結晶とそれを覆うコンクリーションの両方が、生物遺骸起源の炭素がソースとなり形成されたことを示している。これに加えて、玄能石の微細な構造と、元素分布の特徴から、玄能石コンクリーションは次のようなプロセスで形成したと考えられる。1)堆積物中に埋没した生物遺骸が分解し、周辺堆積物中に重炭酸イオンとリン酸イオンを供給する。この時、分解に伴う腐食酸の生成によって間隙水pHが低下し、リン酸イオンは間隙水に溶解する。2)この高リン酸イオン濃度環境下で、生物遺骸起源の重炭酸イオンからイカイトが形成する。3)分解の進行に伴って腐植酸の生成量が低下し、間隙水pHが上昇すると、リン酸イオンがリン酸カルシウムとして沈殿して間隙水から取り除かれる。これ以降は、生物遺骸起源の重炭酸イオンは方解石としてイカイトの周辺に沈殿して、コンクリーションが急速に形成される。4)その後の埋没・続成過程でイカイトは粒状方解石に変化し、玄能石となる。この玄能石コンクリーションの形成プロセスは、コンクリーションを伴わない玄能石および、玄能石を伴わないコンクリーションの形成も矛盾なく説明できる。つまり、2)の段階までにすべての炭素がイカイトの形成に消費されると、コンクリーションは形成せず、イカイトのみが形成する。こうしてコンクリーションを伴わない玄能石が形成する。一方、間隙水のpHが十分に低下せず、高リン酸イオン環境が整わなかった場合、あるいは間隙水温度がイカイトの沈殿には高すぎた場合、すべての炭素は方解石として沈殿し、結果として玄能石を伴わないコンクリーションが形成される。本研究で明らかになったこの一連の形成過程は、玄能石コンクリーションの産状が、初期続成過程における間隙水pHの指標になりうることを示している。(引用文献:村宮・吉田, 2020, 日本の玄能石と玄能石コンクリーション:産出地層の堆積環境.深田地質研究所年報, 21号, 47–58.)