08:45 〜 09:00
[R13-O-4] 房総半島東部に分布する第四紀堆積岩の圧密異方性
キーワード:圧密、異方性、前弧海盆、引張強度、弾性波速度
南海トラフの熊野海盆では付加体形成に起因した正断層が確認されており(Moore et al., 2013),付加体だけでなく前弧海盆もプレートの沈み込み運動を記録している可能性が示唆され,プレート境界に位置する日本列島の成り立ちの解明の一助になると期待されている.房総半島には,沈み込み帯に特徴的な一連の構造が陸上に露出し,南から順に付加体,隆起帯,前弧海盆で構成される.これらのうち前弧海盆堆積物では,圧密試験により堆積岩の圧密降伏応力を算出することでその地層の最大埋没深度の推定ができる.この手法により,房総前弧海盆の圧密特性を検討する研究が行われ,形成過程に関連した圧密特性が明らかにされているほか,側方圧縮による圧密の進行が指摘されている(Kamiya et al., 2017).しかし側方圧縮応力がどの程度,圧密に影響を与えるのかといった,圧密異方性についてはよく分かっていない.本研究では,圧密異方性を明らかにすることを目的として,房総前弧海盆東部に分布する堆積軟岩の圧密試験を行い,堆積構造に対する圧密降伏応力の違いについて検討した.さらに,試料の堆積構造と各種物性値の関係を明らかにするために,岩石の基本的な物性値である引張強度および弾性波速度の異方性を検討すべく,圧裂引張試験および弾性波速度測定を行った.
房総前弧海盆東部に分布する上総層群は第四紀に連続的に厚く堆積した前弧海盆堆積物であり,本研究では,上総層群のうち上位から順に梅ヶ瀬層,大田代層,黄和田層,大原層,勝浦層の泥質岩を試料として用いた.圧密試験では載荷方向が堆積面に対して直交方向と平行方向の2方向で試験を実施した.圧裂引張試験はコアリング方向が堆積面に対して直交と平行の2方向に加えて,平行方向をさらに破断面が堆積面に対して平行か直交かで区別した3方向で行い,弾性波速度測定は,波動伝播方向に対して直行と平行の2方向で試験を行った.
圧密試験の結果,直交方向と平行方向の圧密降伏応力はそれぞれ,梅ヶ瀬層では約1.1MPa,約1.5MPa,大田代層では約5.6MPa,約6.9MPa,黄和田層では約5.6MPa,約5.0MPa,大原層では約8.4MPa,約10.2MPa,勝浦層では,約8.3MPa,約10.7MPaとなり,平行方向の圧密降伏応力は直交方向と比べてほとんど同じか大きくなることが分かった.水平方向の応力が作用しないと仮定した状態では,K0値(直交方向に対する平行方向の応力の比)は動ポアソン比を用いて求められ,K0=0.64~0.80となる.一方,本研究で得られた圧密降伏応力の直交方向に対する平行方向の比より得られたK0値の過去最高値K0MAXはK0MAX=0.90~1.33であり,動ポアソン比から求めたK0値よりも大きな値をとる.また圧裂引張試験の結果,破断面と堆積面が平行な方向は他の2方向に対して著しく強度が低下しており,圧密降伏応力よりも顕著に堆積構造を反映した異方性を示した.
引張強度は,破断面と層理面が平行な方向で弱く直交な方向で強くなる異方性が確認された.一方,圧密試験の結果からは,層理面に対し平行方向の圧密降伏応力が直交方向と同等か,それ以上となる異方性が明らかになり,層理面に平行な方向に対しても,圧密作用を受けている可能性が示された.これらから,堆積層理面は乱されていないものの,圧密異方性は過去に経験した側方圧縮応力を反映していると考えられる.
引用文献
Moore, G.F., Boston, B.B., Sacks, A.F. & Saffer, D.M. (2013). Analysis of normal faultpopulations in the Kumano Forearc Basin, Nankai Trough, Japan: 1. Multiple orientations and generations of faults from 3-D coherency mapping. Geochemistry Geophysics Geosystems, 14, 6,
Kamiya, N., Yamamoto, Y., Wang, Q., Kurimoto, Y., Zhang, F. & Takemura, T. (2017). Major variations in vitrinite reflectance and consolidation characteristics within a post-middle Miocene forearc basin, central Japan. Tectonophysics, 710–711, 69–80
房総前弧海盆東部に分布する上総層群は第四紀に連続的に厚く堆積した前弧海盆堆積物であり,本研究では,上総層群のうち上位から順に梅ヶ瀬層,大田代層,黄和田層,大原層,勝浦層の泥質岩を試料として用いた.圧密試験では載荷方向が堆積面に対して直交方向と平行方向の2方向で試験を実施した.圧裂引張試験はコアリング方向が堆積面に対して直交と平行の2方向に加えて,平行方向をさらに破断面が堆積面に対して平行か直交かで区別した3方向で行い,弾性波速度測定は,波動伝播方向に対して直行と平行の2方向で試験を行った.
圧密試験の結果,直交方向と平行方向の圧密降伏応力はそれぞれ,梅ヶ瀬層では約1.1MPa,約1.5MPa,大田代層では約5.6MPa,約6.9MPa,黄和田層では約5.6MPa,約5.0MPa,大原層では約8.4MPa,約10.2MPa,勝浦層では,約8.3MPa,約10.7MPaとなり,平行方向の圧密降伏応力は直交方向と比べてほとんど同じか大きくなることが分かった.水平方向の応力が作用しないと仮定した状態では,K0値(直交方向に対する平行方向の応力の比)は動ポアソン比を用いて求められ,K0=0.64~0.80となる.一方,本研究で得られた圧密降伏応力の直交方向に対する平行方向の比より得られたK0値の過去最高値K0MAXはK0MAX=0.90~1.33であり,動ポアソン比から求めたK0値よりも大きな値をとる.また圧裂引張試験の結果,破断面と堆積面が平行な方向は他の2方向に対して著しく強度が低下しており,圧密降伏応力よりも顕著に堆積構造を反映した異方性を示した.
引張強度は,破断面と層理面が平行な方向で弱く直交な方向で強くなる異方性が確認された.一方,圧密試験の結果からは,層理面に対し平行方向の圧密降伏応力が直交方向と同等か,それ以上となる異方性が明らかになり,層理面に平行な方向に対しても,圧密作用を受けている可能性が示された.これらから,堆積層理面は乱されていないものの,圧密異方性は過去に経験した側方圧縮応力を反映していると考えられる.
引用文献
Moore, G.F., Boston, B.B., Sacks, A.F. & Saffer, D.M. (2013). Analysis of normal faultpopulations in the Kumano Forearc Basin, Nankai Trough, Japan: 1. Multiple orientations and generations of faults from 3-D coherency mapping. Geochemistry Geophysics Geosystems, 14, 6,
Kamiya, N., Yamamoto, Y., Wang, Q., Kurimoto, Y., Zhang, F. & Takemura, T. (2017). Major variations in vitrinite reflectance and consolidation characteristics within a post-middle Miocene forearc basin, central Japan. Tectonophysics, 710–711, 69–80