09:15 〜 09:30
[R13-O-6] 南海前弧海盆の分水嶺 -紀伊半島沖隆起帯の成因と南海地震発生帯の分割-
キーワード:付加体、南海トラフ、前弧海盆、地震発生帯、沈み込み帯
はじめに
南海トラフは、地球上で最もデータが蓄積され、研究の進んだプレート沈み込み帯である。研究が進むほどに事象の十桁以上にわたる時空間を繋げた精度で、基本問題への回答の試みが続けられている。
数百〜数十万年の時間スケールと列島規模の空間スケールの事象の理解を通して、はじめて答え得る一般問題は多々あるが、その中で今回は、新たな地震反射法探査と深海掘削の具体的データ解析を総合し、以下の問題に迫りたい。
1)巨大地震発生帯を含めたプレート境界の形状の時間変化と上盤プレートの内部構造形成との関係、2)表層地形、堆積盆地形成に記録されている事象と沈み込み帯ダイナミクスとの関係、3)プレート境界巨大地震発生帯の上下限、水平方向の境界を決める地質学的要因(構造・岩石物質・物性・状態)
紀伊半島沖隆起帯の位置
具体的研究対象は、紀伊半島潮岬南東沖40~50kmに伸びる北東南西方向の隆起帯である。この隆起帯の東西で種々のコントラストがある。①東側が熊野海盆であり、西側が紀伊水道沖に広がる室戸海盆である。②この隆起帯の東側のプレート境界が昭和および安政地震の東南海地震破壊領域であり、西側が南海地震のそれである (Ando, 1975)。③現在のプレート境界の形状は、この隆起帯の西側が北へ低角に傾斜し、東側がより急角度になっている(Nakanishi et al., 2002)。④隆起帯近傍の上盤プレートは潮岬や半島東部を構成する火成岩地殻からなると推定されている(Kodaira et al., 2006; Kimura et al., 2014;Tsuji et al., 2015)。
紀伊半島沖隆起帯、熊野海盆、室戸海盆の地質と構造
北東南西方向に伸びる隆起帯に関しての新たなデータは以下である。① 隆起帯は、上盤プレート地殻の異なる地質基盤(火成岩類と付加体)の境界部に形成されている。② 熊野海盆側の基盤岩は後期中新・鮮新統付加体、室戸海盆の基盤岩はより古い四万十帯南帯(始新〜前中期中新統)を含む付加体の可能性が大きい。③ 熊野海盆内には、約六百万年以降の数回の不整合が認められている(Moore et al., 2015)。今回、室戸海盆でも新たに確認された。④ 隆起帯北部でのIODP#358C0025地点での掘削の結果、550m以上に及ぶ堆積物下部の年代は2.58~4.13Maと判明。CCDより浅い海溝斜面での堆積と推定。C0009の掘削の結果による約5.6Maの熊野海盆形成開始推定(Moore et al., 2015)と矛盾しない。
結論
以上の結果、紀伊半島沖隆起帯には、南海トラフにおけるフィリピン海プレートの、現在につながる沈み込み開始(約6Ma)以降の全テクトニクスの歴史が記録されていることが判明した。そのような時間スケールで見た時、南海トラフでの地震発生帯地域分割の原因やプレート相対運動変化をめぐる議論の当否などが見えてくる。講演ではその点も議論したい。
文献
Ando, 1975, Tectonophysics, 27(2), 119-140.
Nakanishi et al., 2002, Journ.Geophys. Res. 107(B1), EPM-2.
Kodaira et al., 2006, Journ.Geophys. Res. , 111(B9).
Kimura et al., 2014: Tectonics, 33(7), 1219-1238.
Tsuji et al., 2015; Earth,Planet. Science Letters, 431, 15-25.
Moore et al., 2015: Marine Petroleum Geology, 67, 604-616.
南海トラフは、地球上で最もデータが蓄積され、研究の進んだプレート沈み込み帯である。研究が進むほどに事象の十桁以上にわたる時空間を繋げた精度で、基本問題への回答の試みが続けられている。
数百〜数十万年の時間スケールと列島規模の空間スケールの事象の理解を通して、はじめて答え得る一般問題は多々あるが、その中で今回は、新たな地震反射法探査と深海掘削の具体的データ解析を総合し、以下の問題に迫りたい。
1)巨大地震発生帯を含めたプレート境界の形状の時間変化と上盤プレートの内部構造形成との関係、2)表層地形、堆積盆地形成に記録されている事象と沈み込み帯ダイナミクスとの関係、3)プレート境界巨大地震発生帯の上下限、水平方向の境界を決める地質学的要因(構造・岩石物質・物性・状態)
紀伊半島沖隆起帯の位置
具体的研究対象は、紀伊半島潮岬南東沖40~50kmに伸びる北東南西方向の隆起帯である。この隆起帯の東西で種々のコントラストがある。①東側が熊野海盆であり、西側が紀伊水道沖に広がる室戸海盆である。②この隆起帯の東側のプレート境界が昭和および安政地震の東南海地震破壊領域であり、西側が南海地震のそれである (Ando, 1975)。③現在のプレート境界の形状は、この隆起帯の西側が北へ低角に傾斜し、東側がより急角度になっている(Nakanishi et al., 2002)。④隆起帯近傍の上盤プレートは潮岬や半島東部を構成する火成岩地殻からなると推定されている(Kodaira et al., 2006; Kimura et al., 2014;Tsuji et al., 2015)。
紀伊半島沖隆起帯、熊野海盆、室戸海盆の地質と構造
北東南西方向に伸びる隆起帯に関しての新たなデータは以下である。① 隆起帯は、上盤プレート地殻の異なる地質基盤(火成岩類と付加体)の境界部に形成されている。② 熊野海盆側の基盤岩は後期中新・鮮新統付加体、室戸海盆の基盤岩はより古い四万十帯南帯(始新〜前中期中新統)を含む付加体の可能性が大きい。③ 熊野海盆内には、約六百万年以降の数回の不整合が認められている(Moore et al., 2015)。今回、室戸海盆でも新たに確認された。④ 隆起帯北部でのIODP#358C0025地点での掘削の結果、550m以上に及ぶ堆積物下部の年代は2.58~4.13Maと判明。CCDより浅い海溝斜面での堆積と推定。C0009の掘削の結果による約5.6Maの熊野海盆形成開始推定(Moore et al., 2015)と矛盾しない。
結論
以上の結果、紀伊半島沖隆起帯には、南海トラフにおけるフィリピン海プレートの、現在につながる沈み込み開始(約6Ma)以降の全テクトニクスの歴史が記録されていることが判明した。そのような時間スケールで見た時、南海トラフでの地震発生帯地域分割の原因やプレート相対運動変化をめぐる議論の当否などが見えてくる。講演ではその点も議論したい。
文献
Ando, 1975, Tectonophysics, 27(2), 119-140.
Nakanishi et al., 2002, Journ.Geophys. Res. 107(B1), EPM-2.
Kodaira et al., 2006, Journ.Geophys. Res. , 111(B9).
Kimura et al., 2014: Tectonics, 33(7), 1219-1238.
Tsuji et al., 2015; Earth,Planet. Science Letters, 431, 15-25.
Moore et al., 2015: Marine Petroleum Geology, 67, 604-616.