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[R24-O-6] 南鳥島レアアース泥に含まれるマイクロマンガンノジュールの地球化学的特徴とレアメタル資源ポテンシャル
キーワード:海底鉱物資源、レアアース泥、マイクロマンガンノジュール、南鳥島
南鳥島周辺の日本の排他的経済水域 (EEZ) には極めて高品位なレアアース泥が分布しており [1],特に有望なEEZ南部の海域 (約2,500 km2 × 海底面下10 mまで) には,世界の年間需要の数百倍に達するレアアースが胚胎されている [2].他方,レアアース泥はレアアースのみならず,Co, Ni, Moなどのレアメタルも比較的高濃度で含むことが知られている [3].深海堆積物中におけるこれら遷移金属の主要なホストは,Fe-Mn酸化水酸化物である.太平洋やインド洋の深海掘削コア試料および南鳥島周辺で集中的に採取されたピストンコア試料を用いた先行研究により,レアアース泥にはFe-Mn酸化水酸化物が一般的な構成成分として含まれることが示され,堆積物の全岩化学組成からもその影響が確認できる [4, 5].
本研究では,南鳥島レアアース泥に含まれるマイクロマンガンノジュールを分離回収し,誘導結合プラズマ質量分析を用いて化学組成分析を行った.その結果,南鳥島レアアース泥中のマイクロマンガンノジュールは最大でCoを約3,000 ppm,Niを約39,000 ppm含むことが分かった [6].また,海底Fe-Mn酸化物の起源判別図から,これらのマイクロマンガンノジュールは続成起源であることが示された [6].
さらに本研究では,塩酸リーチングによりレアアースを抽出した後のレアアース泥残渣に対して,還元剤 (亜ジチオン酸ナトリウム) を用いたリーチング実験を行った.その結果,南鳥島周辺のレアアース泥中に含まれるMn, Co, Ni, Moの概ね80%以上が抽出された [6].このことは,レアアース泥の開発にあたり,これらの金属をレアアースの副産物 (co-product) として回収できる可能性を示唆する.そこで,南鳥島周辺におけるレアアース泥の開発対象として最有望とされる海域について [2],実験により得られた各元素の抽出率を考慮して単位面積あたりのCo, Ni, Moの資源ポテンシャルを推定した.その結果,1 km2 × 海底面下10 mまでのレアアース泥に含まれるCoは (9.3 ± 0.6) × 102 t,Niは (1.6 ± 0.1) × 103 t,Moは (2.8 ± 0.2) × 102 tと見積もられた [6].これらはそれぞれ,世界全体における現在のCo, Ni, Mo生産量の0.66 ± 0.04%,0.061 ± 0.004%,0.097 ± 0.007%に相当する.一方,同海域 (1 km2 × 海底面下10 mまで) のレアアース資源ポテンシャルは酸化物換算で1.1 × 104 tと見積もられ [2],特に産業上重要なY, Eu, Tb, Dyの資源量は現在の世界生産量の60%,45%,30%,50%にそれぞれ相当する.すなわち,年間世界生産量に対する比率で見ると,南鳥島レアアース泥のレアアース資源としての影響力は,Co, Ni, Moといった副産物レアメタルの資源としての影響力に比べて2桁程度大きいといえる.レアアース泥の開発時にこれらの副産物レアメタルを実際に回収すべきかどうかは,レアアース回収後の残渣から各元素を抽出・製錬するための追加的なシステムにかかるコストと,当該メタルの市場価格および世界的な需要の伸びに基づいて判断されるであろう.
[1] Iijima, K. et al. (2016) Geochemical Journal 50, 557-573.
[2] Takaya, Y. et al. (2018) Scientific Reports 8, 5763.
[3] Kato, Y. et al. (2011) Nature Geoscience 4, 535-539.
[4] Yasukawa et al. (2016) Scientific Reports 6, 29603.
[5] Yasukawa et al. (2019) Geochemistry, Geophysics, Geosystems 20, 3402-3430.
[6] Yasukawa et al. (2020) Ore Geology Reviews 172, 103805.
本研究では,南鳥島レアアース泥に含まれるマイクロマンガンノジュールを分離回収し,誘導結合プラズマ質量分析を用いて化学組成分析を行った.その結果,南鳥島レアアース泥中のマイクロマンガンノジュールは最大でCoを約3,000 ppm,Niを約39,000 ppm含むことが分かった [6].また,海底Fe-Mn酸化物の起源判別図から,これらのマイクロマンガンノジュールは続成起源であることが示された [6].
さらに本研究では,塩酸リーチングによりレアアースを抽出した後のレアアース泥残渣に対して,還元剤 (亜ジチオン酸ナトリウム) を用いたリーチング実験を行った.その結果,南鳥島周辺のレアアース泥中に含まれるMn, Co, Ni, Moの概ね80%以上が抽出された [6].このことは,レアアース泥の開発にあたり,これらの金属をレアアースの副産物 (co-product) として回収できる可能性を示唆する.そこで,南鳥島周辺におけるレアアース泥の開発対象として最有望とされる海域について [2],実験により得られた各元素の抽出率を考慮して単位面積あたりのCo, Ni, Moの資源ポテンシャルを推定した.その結果,1 km2 × 海底面下10 mまでのレアアース泥に含まれるCoは (9.3 ± 0.6) × 102 t,Niは (1.6 ± 0.1) × 103 t,Moは (2.8 ± 0.2) × 102 tと見積もられた [6].これらはそれぞれ,世界全体における現在のCo, Ni, Mo生産量の0.66 ± 0.04%,0.061 ± 0.004%,0.097 ± 0.007%に相当する.一方,同海域 (1 km2 × 海底面下10 mまで) のレアアース資源ポテンシャルは酸化物換算で1.1 × 104 tと見積もられ [2],特に産業上重要なY, Eu, Tb, Dyの資源量は現在の世界生産量の60%,45%,30%,50%にそれぞれ相当する.すなわち,年間世界生産量に対する比率で見ると,南鳥島レアアース泥のレアアース資源としての影響力は,Co, Ni, Moといった副産物レアメタルの資源としての影響力に比べて2桁程度大きいといえる.レアアース泥の開発時にこれらの副産物レアメタルを実際に回収すべきかどうかは,レアアース回収後の残渣から各元素を抽出・製錬するための追加的なシステムにかかるコストと,当該メタルの市場価格および世界的な需要の伸びに基づいて判断されるであろう.
[1] Iijima, K. et al. (2016) Geochemical Journal 50, 557-573.
[2] Takaya, Y. et al. (2018) Scientific Reports 8, 5763.
[3] Kato, Y. et al. (2011) Nature Geoscience 4, 535-539.
[4] Yasukawa et al. (2016) Scientific Reports 6, 29603.
[5] Yasukawa et al. (2019) Geochemistry, Geophysics, Geosystems 20, 3402-3430.
[6] Yasukawa et al. (2020) Ore Geology Reviews 172, 103805.