16:00 〜 18:30
[R5-P-12] (エントリー)神奈川県南足柄市矢倉沢周辺の平山断層に沿った地質
キーワード:足柄層群、平山断層、神奈川県、南足柄市、箱根ジオパーク
日本中央部の神奈川県西部から静岡県東部にかけての地域には,本州弧と伊豆-小笠原弧の衝突帯が位置しており,多くの活断層が分布する.このうち, 平山−松田北断層帯は, 神奈川県南足柄市から足柄上郡山北町,開成町,松田町,大井町にかけて分布する断層帯である.本断層帯が一つの区間として活動する場合,M6.8程度の地震が発生する可能性があるとされる.また,今後30年の間に地震が発生する確率が,日本の主な活断層の中ではやや高いグループに属する(地震調査委員会,2015).
平山断層は,平山-松田北断層帯を構成する断層の一つであり,山崎(1971)により,神奈川県山北町平山の酒匂川右岸の露頭において最初に報告された.その後,Ito et al. (1987)は,平均垂直変位速度が約1 m/ky.であること,5回のイベントの年代と変位量を明らかにした.しかし,この平山の露頭以外では,運動像に制約を与えるようなデータが得られていない.一方で,天野ほか(1984)や今永(1987)は,平山断層南部の方がより変位量が大きいと推察しており,その詳細な実態について課題が残されている.
本研究では,平山断層の南部が分布する南足柄市矢倉沢周辺地域にて地質調査を行い,その層序や地質構造及び平山断層南部の運動像を明らかにすることを目的とした.地質調査と試料分析より以下の結果を得た.1)南足柄市矢倉沢周辺における平山断層,定山断層,内川断層の位置を厳しく制約した.内川断層のすぐ北側には内川断層と調和的な軸面を有する背斜を認め,内川断層の活動に伴う断層関連褶曲と推定した.2)定山断層以南,狩川支沢に分布する足柄層群畑層における石灰質ナノ化石分析より,CN13b帯 (1.73~1.04 Ma)の年代が得られた.この結果は先行研究と比較すると,Imanaga (1999)の結果とは概ね調和的であるが,Huchon and Kitazato (1984)の結果(CN14a帯)よりやや古い.これは調査対象としたルートが異なることによる可能性がある.3)畑層上部でNonionellina labradoricaが卓越する上部漸深海帯の底生有孔虫群集を認めた.上位の塩沢層では,内側陸棚〜潮間帯を指標する貝化石 (松島,1982のLoc.7;Imanaga,1999のLoc.I)および生痕化石が産出するため,層厚との比較から,この地域では畑層から塩沢層にかけて堆積基盤が隆起に転じていたことが示唆された.
謝辞:本研究は令和元年度箱根ジオパーク学術研究助成により実施された.島根大学 向吉秀樹博士には断層岩試料の処理及び観察方法をご教授いただいた.以上の関係する方々に御礼申し上げます.
引用文献:天野ほか(1984),箱根古期外輪山を切る平山断層.地質雑,90, 849-852; Huchon and Kitazato (1984),Collision of the Izu block with central Japan during the Quaternary and geological evolution of the Ashigara area.Tectonophysics, 110, 201-210; 今永(1987),山北町日向付近の地質と地質構造.神奈川自然誌資料,8, 23-26; Imanaga (1999), Stratigraphy and Tectonics of the Ashigara Group in the Izu Collision Zone, Central Japan. 神奈川県博研報(自然科学)28, 73-106; Ito et al. (1987), Analytical method for evaluating superficial fault displacements in volcanic air fall deposits: case of the Hirayama Fault, south of Tanzawa Mountains, central Japan, since 21,500 years B.P. Jour. Geophys. Res., 92, 10683-10695; 地震調査委員会(2015), 塩沢断層帯・平山−松田北断層帯・国府津−松田断層帯(神縄・国府津−松田断層帯)の長期評価(第二版); 松島義章(1982),足柄層群中部・上部層の貝化石群集について.国立科学博専報,no15, 53-63; 山崎(1971),山北から洒水の滝へ.神奈川県地学のガイド,コロナ社,67-72.
平山断層は,平山-松田北断層帯を構成する断層の一つであり,山崎(1971)により,神奈川県山北町平山の酒匂川右岸の露頭において最初に報告された.その後,Ito et al. (1987)は,平均垂直変位速度が約1 m/ky.であること,5回のイベントの年代と変位量を明らかにした.しかし,この平山の露頭以外では,運動像に制約を与えるようなデータが得られていない.一方で,天野ほか(1984)や今永(1987)は,平山断層南部の方がより変位量が大きいと推察しており,その詳細な実態について課題が残されている.
本研究では,平山断層の南部が分布する南足柄市矢倉沢周辺地域にて地質調査を行い,その層序や地質構造及び平山断層南部の運動像を明らかにすることを目的とした.地質調査と試料分析より以下の結果を得た.1)南足柄市矢倉沢周辺における平山断層,定山断層,内川断層の位置を厳しく制約した.内川断層のすぐ北側には内川断層と調和的な軸面を有する背斜を認め,内川断層の活動に伴う断層関連褶曲と推定した.2)定山断層以南,狩川支沢に分布する足柄層群畑層における石灰質ナノ化石分析より,CN13b帯 (1.73~1.04 Ma)の年代が得られた.この結果は先行研究と比較すると,Imanaga (1999)の結果とは概ね調和的であるが,Huchon and Kitazato (1984)の結果(CN14a帯)よりやや古い.これは調査対象としたルートが異なることによる可能性がある.3)畑層上部でNonionellina labradoricaが卓越する上部漸深海帯の底生有孔虫群集を認めた.上位の塩沢層では,内側陸棚〜潮間帯を指標する貝化石 (松島,1982のLoc.7;Imanaga,1999のLoc.I)および生痕化石が産出するため,層厚との比較から,この地域では畑層から塩沢層にかけて堆積基盤が隆起に転じていたことが示唆された.
謝辞:本研究は令和元年度箱根ジオパーク学術研究助成により実施された.島根大学 向吉秀樹博士には断層岩試料の処理及び観察方法をご教授いただいた.以上の関係する方々に御礼申し上げます.
引用文献:天野ほか(1984),箱根古期外輪山を切る平山断層.地質雑,90, 849-852; Huchon and Kitazato (1984),Collision of the Izu block with central Japan during the Quaternary and geological evolution of the Ashigara area.Tectonophysics, 110, 201-210; 今永(1987),山北町日向付近の地質と地質構造.神奈川自然誌資料,8, 23-26; Imanaga (1999), Stratigraphy and Tectonics of the Ashigara Group in the Izu Collision Zone, Central Japan. 神奈川県博研報(自然科学)28, 73-106; Ito et al. (1987), Analytical method for evaluating superficial fault displacements in volcanic air fall deposits: case of the Hirayama Fault, south of Tanzawa Mountains, central Japan, since 21,500 years B.P. Jour. Geophys. Res., 92, 10683-10695; 地震調査委員会(2015), 塩沢断層帯・平山−松田北断層帯・国府津−松田断層帯(神縄・国府津−松田断層帯)の長期評価(第二版); 松島義章(1982),足柄層群中部・上部層の貝化石群集について.国立科学博専報,no15, 53-63; 山崎(1971),山北から洒水の滝へ.神奈川県地学のガイド,コロナ社,67-72.