日本地質学会第128年学術大会

講演情報

ポスター発表

R13[レギュラー]沈み込み帯・陸上付加体

[3poster39-46] R13[レギュラー]沈み込み帯・陸上付加体

2021年9月6日(月) 16:00 〜 18:30 ポスター会場 (ポスター会場)

16:00 〜 18:30

[R13-P-7] (エントリー)検層比抵抗画像による変形構造を用いた古応力解析-スリップテンデンシー・ダイレイションテンデンシーの深度分布と応力サイズの制約-:ニュージーランドヒクランギ海溝

*妹尾 侑香1、橋本 善孝1 (1. 高知大学)

キーワード:沈み込み帯、国際海洋掘削計画、古応力、ヒクランギ海溝

2011年に発生した東北地方太平洋沖地震の震源域では,地震発生後に正断層型の地震が多くなっていることが確認されているが,これは水平方向の圧縮応力が伸張応力に変化したことを表している.このような地震サイクルに伴う応力変化は,過去の付加体である陸上四万十帯とニュージーランド・ヒクランギ海溝先端部における小断層古応力解析で確認されているが,厚さ数mmスケールの小断層のみを対象としているため,局所的な応力の影響を強く受けている可能性がある.本研究では,ニュージーランド・ヒクランギ海溝の比抵抗画像による断層を用いて,より大きいスケールの断層を対象に古応力解析を行い,地震サイクルに伴う応力変化の有無を明らかにし,広範囲の応力の変化を見ることを目的とした.本研究では,IODP第375次航海によって得られた海溝先端部に位置するU1518と前孤海盆に位置するU1519の検層データを使用した.検層比抵抗画像で決定された構造であるconductive fracture(CF),resistive fracture(RF),faultの3つを対象とした.本研究では,伸張クラックの極の方向から,その形成時の応力を推定する岩脈法(Yamaji et al., 2010)を用いて応力解析を行った.次に個々の断層面に推定された応力を与え,差応力で規格化された剪断応力と垂直応力を得る.この剪断応力と垂直応力から各断層のすべりやすさを示すslip tendency(Ts)と断層の開きやすさを示すdilation tendency(Td)を求めた.そして,水平最大応力および水平最小応力の空間で,逆断層,横ずれ断層,正断層を示す領域から構成されたストレスポリゴンで,復元されたそれぞれの古応力の大きさの取り得る範囲と応力状態を推定し比較した.このとき,垂直応力は300 mの深度, 2.0 g/の密度と流体圧比を変化させて求めた.また,摩擦係数を0.6とした.岩脈法のソフトウェアGArcmB(Yamaji et al.,2010)を用いる際、クラスター数を1~4に変えて解析を行った.ソフトウェアの判定パラメータを用いた結果,今回の解析で最適な応力の個数は,CFでは1つ,RFでは1つあるいは2つが最適解であることが分かった.応力解析で得られた最小主応力と最大主応力の方向の結果から, 主応力軸は一定で,一部σ1とσ3が交換されているものがあることが分かった.また,水平方向の圧縮応力が水平方向の伸長応力に変化したことを示しているので,地震サイクルに伴う応力変化であることが示唆される.Ts,Tdの深度分布と方位分布についてはっきりとした傾向は見られず,不均質な分布であった.このTsおよびTdの不均質分布は,応力の不均質か物性の不均質の2つの可能性が考えられる. Yamaji et al.(2010)の岩脈法は自動的に複数の応力場を分離しようとする手法にもかかわらず,今回得られた結果では、最適な応力の数が1つまたは2つであり,かつ2つのとき応力が交換される関係にあり軸方向は一定なので,不均質な応力ではなく広域応力であると解釈できる.このことから,深さ方向にクラック方向が不均質にバラバラであっても,応力は一様であったと考えられる.よって応力の不均質は考えにくく,物性の不均質がTs, Tdの不均質分布に影響している可能性が高いと考える.ストレスポリゴンを用いて地震前後の応力サイズの変化を見た結果, 主応力が交換されたペアのそれぞれの応力サイズの条件の線分は途中で交差しており,どちらの応力も地震前あるいは地震後になりうる.すなわちどちらが地震前あるいは地震後と決定することができないことを示している.これは,主応力が交換されたペアの一つの応力を応力1,他方を応力2としたときに,応力1から応力2へ地震サイクルに伴って変化するシナリオとその逆がありうる.それぞれの制約された応力サイズの条件のうち,地震前の初期条件を与えることで,地震後の応力サイズの変化量がより制約できる.いずれにしても,およそ最大で1-3MPa程度の最大剪断応力の変化が期待できる.この値は最大値であり,シナリオによってはより小さい最大剪断応力の変化もあり得る.この結果は,通常地震やスロー地震の両方を含んでいることを意味し,どちらかを制約することには至っていない. 謝辞:検層構造データはDavid McNamara氏から提供いただいた。引用文献:Yamaji, A., Sato, K. and Tonai, S., 2010, Journal of Structural Geology