第18回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

シンポジウム

[SY4] 一歩進んだPICSケア -患者が入院前の生活を取り戻すために私たちができること-

2022年6月11日(土) 13:10 〜 14:50 第8会場 (総合展示場 E展示場)

座長:木下 佳子(日本鋼管病院)
   卯野木 健(札幌市立大学)
演者:高橋 健二(山口県立総合医療センター)
   春名 純平(札幌医科大学附属病院)
   古厩 智美(さいたま赤十字病院 高度救命救急センターHCU)
   對東 俊介(広島大学病院 診療支援部リハビリテーション部門)
   江尻 晴美(中部大学生命健康科学部保健看護学科)

14:30 〜 14:50

[SY4-05] PICSアセスメントツールの開発と活用

○江尻 晴美1 (1. 中部大学生命健康科学部保健看護学科)

キーワード:PICS、アセスメントツール、早期発見

集中治療後症候群(post intensive care syndrome: PICS)の概念が提唱され、ICUで治療を受け た患者は,長期的なアウトカムも重視されるようになった.集中治療を受けた患者のICU退室後や退院後にも持続する運動機能低下や精神症状に対して,諸外国では多職種による継続的な支援が行われている(Egerod, 2013;Huggins, 2016).しかし,国内ではまだこのようなシステムは構築されていない.さらに,国内では看護師の部署交代が定期的に行われることなどにより,ICU看護師のPICSに対する認知度は十分でないことが推察され(江㞍,篠崎, 2019),PICSが見逃されている可能性がある.そこで我々は,ICUで治療を受けた患者が入院前の生活を取り戻すための継続的な支援システムの第一歩として,ICUで患者のPICSを早期発見するPICSアセスメントツールの開発を行った. まず国内外の文献検討を行い,アセスメントツールの構成と項目を明らかにした(江尻,篠崎,2020).その後, ICU看護の専門家を対象者とした調査で,項目ごと・項目全体の内容妥当性の検討を行い,内容妥当性(CVI)を高めた.項目ごとの妥当性(I-CVI)は,肯定的な回答の割合を算出して0.78以上を妥当とし,ツール全体の妥当性(S-CVI)は0.90以上とした(Polit & Beck, 2008).I-CVIを満たさなかった7項目を削除して,PICSのリスク9項目,PICS症状のチェック30項目,PICSへの対処32項目を採用した結果,S-CVIは0.902と内容妥当性が確認できた(江尻, 篠崎, 2021).次に,評価者間信頼性と判定結果の一致度を検証した.看護師経験1年以上の看護師を対象に,動画と紙上事例患者をPICSアセスメントツールで評価して評価者間信頼性を検証した結果,κ係数(範囲)は0.58(0.48-0.64)であり,判定基準(平井,2018)に基づき中程度の一致度が確認できた.一致度が低い項目は削除した(江尻, 篠崎, 2021).最後に,実用可能性の検証として,4施設のICU にて48時間以上気管挿管をした昏睡でない患者を看護師が観察して,PICSアセスメントツールによる患者の評価を行った.評価の所要時間は8.2±5.0分で,96.6%が項目数は妥当であると回答し,87.9%は日常的に使用できそうであると回答した.カルテ記載及び研究協力者からの情報提供内容とアセスメントツールの記載の一致を確認したが,特に精神障害の確認ではカルテ記載や情報提供がなかった場面でも,患者の抑うつや不安症状についてPICSアセスメントツールへの記載が行われていた.以上より,本PICSアセスメントツールは信頼性と妥当性を確認したうえで実用可能性が確認できたツールである. 段階的な開発過程を経たPICSアセスメントツールは,48時間以上気管挿管しており鎮静スケール-1以上の患者を対象とし,看護師が入院後と毎日9時・21時にPICSのアセスメントを行う.PICSアセスメントツールの中で看護師が患者の情報や症状からチェックを入れる項目は,初回アセスメントとして6項目,毎回のアセスメントとして細項目を含めて32項目の計38項目とした.豆知識として,入院時・治療のリスクとPICS予防と悪化など43項目を示した. 現在は1施設で試用中であり,看護師からの意見等をいただき,日常的に活用できるツールの作成を目指している.この機会に関心を持たれた方は是非ご連絡をお願いしたい.