一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

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R3:高圧科学・地球深部

2023年9月16日(土) 12:00 〜 14:00 83G,H,J (杉本キャンパス)

12:00 〜 14:00

[R3P-01] NanoSIMSおよびIRMSを用いた高圧実験合成ダイヤモンド/グラファイトの炭素同位体分析

川村 英彰1、*大藤 弘明1、Satish-Kumar M.2、Sasidharan Kiran2、石田 章純1、笹木 晃平3、高畑 直人3、白井 厚太朗3、鈴木 昭夫1 (1. 東北大学・院理、2. 新潟大学・院自然、3. 東京大学・大気海洋研)

キーワード:ダイヤモンド、C-H-O流体、NanoSIMS、炭素同位体

1.はじめに
ダイヤモンドの起源と形成場の解明は,地球深部における炭素循環を解明する重要な糸口になると期待されるが,マントル深部由来のダイヤモンドの起源に関する統一的な見解は未だ得られていない.本研究では,地球深部でのダイヤモンドの形成と密接な関連があるとされる炭酸塩鉱物と還元的な流体(C-H-O流体)の2つの炭素源物質に着目し,現実的な地球内部条件を再現した高温高圧実験を行うことで,マントル深部のダイヤモンド形成場で想定される炭酸塩―流体の相互作用の解明を目指す.第一段階として,高圧実験で使用するC-H-O流体の炭素同位体組成δ13Cを把握するために,流体源物質のステアリン酸が高圧下で熱分解(C-H-O流体と固体炭素を生成; Yamaoka et al., 2002)した際の炭素同位体分別を調査した.次に,地球深部環境を再現した炭酸塩-C-H-O流体共存系での高圧実験によって合成した微小なダイヤモンドの炭素同位体組成をNanoSIMSを用いて分析した.

2.実験手法
高圧実験にはマルチアンビル装置を使用し,圧力温度条件は10 GPaおよび17 GPa,800~1600℃で実施した.ステアリン酸の熱分解により生成した固体炭素のバルク同位体分析は同位体比質量分析計(新潟大学設置),炭酸塩-C-H-O流体共存系で合成した微小なダイヤモンドの同位体分析はNanoSIMS (東京大学大気海洋研設置)を用いて実施した.

3.結果と考察
ステアリン酸の分解を調べた実験では,分解によって生じたダイヤモンド/グラファイトのδ13C値が出発物質のステアリン酸の値(δ13C=-28.3‰)を概ね引き継ぐことが分かり,間接的に見積もられたC-H-O流体のδ13C値が,今回行った実験条件の範囲内においてほぼ一定であることが示された.つまり,高温高圧実験において有機物起源の12Cに富むC-H-O流体を試料室中で再現したい場合,ステアリン酸は有用な出発物質であるといえる.
次に,δ13C=-2‰の組成を持ったマグネサイトを共存させた実験を行い,固液共存系におけるダイヤモンド合成実験を行った.実験で生成したダイヤモンドは最大でも3μm程度と非常に細粒であったため,その炭素同位体組成をNanoSIMSで分析することを試みた.本研究の回収試料は共存流体の影響により極めて脆く機械研磨はほぼ不可能であるため,試料の汚染や物理ダメージを最小限に抑えつつ研磨断面を作成できるAr+イオン研磨を用いた.しかし,イオン研磨ではイオンビーム照射による微細な切削痕が試料表面に残るため.試料の表面状態に極めて敏感なNanoSIMS分析においてどの程度分析値へ影響を及ぼすかは未知数であった.そこで,試料調整から試行錯誤を繰り返し,NanoSIMSでの分析条件について検討を行った.その結果,δ13C値で5~10‰程度の比較的大きな誤差が伴われる場合あるが,それよりも優位に大きな同位体組成の変化を追跡する場合,例えば,本研究のような炭酸塩(約-2‰)とC-H-O流体(約-28‰)共存系におけるダイヤモンド生成反応を追跡するようなケースでは,NanoSIMS分析は十分有効であることが分かった.今後,分析条件や補正方法に最適化の余地はあるが,イオン研磨を併用した微細な高圧実験試料のNanoSIMS分析はおそらく世界初の成功例であろう.これまで同位体分析が難しかった微細な高圧実験回収試料の分析において,新たな可能性を提示する結果であるといえる.