一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

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S1: 火成作用のダイナミクス (スペシャルセッション)

2023年9月16日(土) 12:00 〜 14:00 83G,H,J (杉本キャンパス)

12:00 〜 14:00

[S1P-01] 妙高火山のマグマ溜まりへのK2Oに富むマグマの注入

*浜田 盛久1、Rose-Koga Estelle2、Koga Kenneth2、清水 健二1、牛久保 孝行1、原田 英男3、Auer Andreas4、山口 佳昭3 (1. JAMSTEC、2. ISTO, CNRS-Universite d'Orleans、3. 信州大学、4. 島根大学)

キーワード:妙高火山、メルト包有物

研究目的
 妙高火山や立山火山などの中部日本背弧の火山の火山岩には,K2Oに富む数十ミクロンサイズの領域を含む不均質な石基が観察される。信州大学の山口佳昭や原田英男らは,妙高火山の火山岩の観察に基づき,妙高火山のマグマ溜まり中にK2Oに富むマグマバッチが注入することにより不均質メルトが形成される,と議論した(例えば,山口ほか,日本鉱物科学会2014年年会)。我々は,山口・原田らによる先行研究を発展させるため,妙高火山のメルト包有物の主成分元素と揮発性元素を局所分析した。本発表では,現在までに得られた知見を報告する。

試料と分析手法
 妙高火山は,約30万年前から活動している活火山である。それぞれ数万年の寿命を持つ4つの独立した成層火山が,活動休止期を挟みながら,ほぼ同じ位置で古い火山体の上に重なるように活動・成長している。4つの活動期は,いずれも玄武岩マグマの噴出で始まり,デイサイトの噴出で終わる。現在の妙高火山の活動は噴気活動で特徴づけられ,第4活動期の末期に位置づけられる。 本研究で分析に用いた試料は,妙高火山の第4活動期・先カルデラステージ最初期の関山火山(43 ka)及び貫ノ木噴火(41 ka)の玄武岩質スコリア中のメルト包有物である。これらの試料は急冷されてガラス化している。本研究では,メルト包有物の主成分元素と揮発性元素(H2O, S, F, Cl)を,それぞれ電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)と二次イオン質量分析計(SIMS)を用いて局所分析した。

分析結果と議論
 
関山噴火(43 ka)のメルト包有物は玄武岩から流紋岩までの組成バリエーションを示し,カルクアルカリ系列の分化トレンドを示す。メルト包有物の組成バリエーションは,妙高火山からこれまで噴出した火山岩の全岩化学組成のバリエーションとも一致する。メルト包有物は最大で5 wt%のH2Oを含み,SiO2の増加に伴ってH2Oが減少する傾向を示す。このような組成バリエーションは,H2Oに飽和したマグマが200MPa以下の圧力条件下で減圧・脱ガスしながら玄武岩マグマから流紋岩マグマまで結晶分化し,噴火に至ったと考えることにより説明可能である。一方,貫ノ木噴火(41 ka)のメルト包有物は玄武岩からデイサイトまでの組成バリエーションを示す。メルト包有物は最大で5 wt%のH2Oを含み,SiO2の増加に伴ってH2Oが減少する傾向を示すことから,H2Oに飽和したマグマが200MPa以下の圧力条件下で減圧・脱ガスしながら玄武岩マグマからデイサイトマグマまで結晶分化し,噴火に至ったと考えられる。関山噴火と貫ノ木噴火は,H2Oに飽和したマグマが減圧・脱ガスしながら結晶分化して噴火したと考えられる,という点に関しては共通している。  
 一方,関山噴火と貫ノ木噴火は,メルト包有物のSiO2量のバリエーション及び化学組成のトレンドに違いがある。すなわち,関山噴火のメルト包有物(50wt%≤SiO2≤80wt%)がカルクアルカリ系列のトレンドを示すのに対して,貫ノ木噴火のメルト包有物(50wt%≤SiO2≤65wt%)はソレアイト系列のトレンドを示す。このような化学組成のトレンドの違いを生じる理由として,結晶分化作用が起こる圧力条件に違いがあった可能性が考えられる。貫ノ木噴火のマグマは,関山噴火のマグマと比較して,より深部のマグマ溜まりにおける結晶分化作用が卓越したため,メルトのSiO2の増加が抑えられたままFeOT/MgOが増加し,ソレアイト系列の組成トレンドが得られたと考えられる。
 関山噴火のスコリアが清澄な斑晶のみを含むのに対し,貫ノ木噴火のスコリアは清澄な斑晶に加え,ピジョン輝石のリムを持つカンラン石や汚濁帯を持つ単斜輝石を含むことが特徴的である。貫ノ木噴火の汚濁帯を有する鉱物中のメルト包有物はK2O及びClに富んでおり,上述した妙高火山の火山岩の不均質な石基中に見られるK2Oに富む領域に相当するメルトであると考えられる。
 K2Oに富むメルト(包有物)はなぜ,関山噴火(43 ka)の噴出物には認められず,貫ノ木噴火(41 ka)の噴出物に認められるのかについては,検討中である。K2Oに富むメルトの起源についても,交代作用を受けたマントルの部分溶融や地殻物質の部分溶融などが考えられ,今後明らかにしていく予定である。