一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

講演情報

口頭講演

S2: 岩石-水相互作用 (スペシャルセッション)

2023年9月14日(木) 14:00 〜 16:30 821 (杉本キャンパス)

座長:土屋 範芳

14:50 〜 15:05

[S2-04] 陸上掘削試料の微量元素・Sr-Nd同位体組成から導かれたオマーンオフィオライトに記録された2つの地球化学的プロセス

*芳川 雅子1、柴田 知之1、片山 郁夫1、Asyraf Aminuddin2、仙田 量子3、森下 知晃2 (1. 広島大学・院先進理工系、2. 金澤大・院理工学域、3. 九州大・院比較社会)

キーワード:オマーン掘削試料、Sr-Nd同位体比、微量元素組成

地球表面の約7割を占める海洋プレートの実体は,系統的に試料を直接採取することが困難で,未だ不明点が多い。このため,構造運動で地表にもたらされた海洋プレートの断片と考えられているオフィオライト岩体の詳細な観察から,海洋プレートの断面やその物理学・化学的特徴が推定されている。アラビア半島南東部に位置するオマーンオフィオライトは,世界最大級(400 ㎞以上)かつ保存状態の良い海洋プレートの断面とされている(例えば, Nicolas et al., 1988)。オマーンオフィオライトでは,国際陸上科学掘削計画のもと,2016年12月から2018年3月に複数の地点で掘削が行われた。南部Wadi TayinブロックのCM1A・CM2Bサイトでは地殻-マントル境界を含む連続試料が回収された(Kelemen et al., 2020)。本研究で対象とするCM1Aサイトで採取された掘削試料は全長404.15mで,構成する岩石層の特徴から上位から下位へと次の4層に区部されている。第I層:層状斑レイ岩卓越層,第II層:ダナイト層,第III層:斑レイ岩を伴うダナイト層,第IV層:ハルツバーガイト卓越層。このうち第II・III層が地殻-マントル遷移層とされる(Tamura et al., 2018; Takazawa et al., 2019)。 第I層の斑レイ岩は,下位のダナイトやハルツバージャイトと比べ,かんらん石や2次的な脈が少なくSr同位体比が低い(87Sr / 86Sr =0.7031~0.7033)。一方かんらん石を主要構成鉱物とする,第II・III・IV層のダナイトやハルツバージャイトは変質度が高く(蛇紋岩化度80~100%)Sr同位体比が高い(87Sr / 86Sr =0.7038~0.7040)。この結果から,芳川ほか(2021)は,(1) CM1A掘削試料のSr同位体比は全岩の変質度に依存すること,(2)ダナイト・ハルツバーガイト中を循環した熱水のSr同位体比(87Sr/86Sr =0.7039~0.7042)はKawahata et al. (2001)がオマーンオフィオライトで求めた海水由来の高温熱水流体の値(87Sr / 86Sr =0.70413)と一致することを報告した。 第IV層のハルツバージャイト4試料から新たに分析されたNd同位体比は,LaCN/SmCN(CNはコンドライトで規格化したことを表す)比と負の相関を示す。オマーンオフィオライトの露頭試料で観察されるハルツバージャイトやダナイトの中希土類元素(例えばSm)に対する軽希土類元素(例えばLa)のエンリッチメントはメルト・流体と溶け残りマントルの相互作用の結果と解釈されており(たとえばGodard et al., 2000),CM1A・CM2Bサイトの試料からも報告されている(Kourim et al., 2021)。従って,CM1Aサイトの試料において,Nd同位体比はメルト・流体-固相相互作用のプロセスを,Sr同位体比はメルト・流体-固相相互作用後の高温熱水流体循環のプロセスを記録していると推測される。