12:00 〜 14:00
[S2P-03] 愛媛県西部、頃時鼻超苦鉄質岩体の蛇紋岩類
「発表賞エントリー」
キーワード:蛇紋岩、超苦鉄質岩
【はじめに】
蛇紋岩は超苦鉄質岩であるかんらん岩や輝岩が熱水変質をうけることで形成され,主にプレートの沈み込み帯や海嶺,海洋底に分布している.また蛇紋岩化作用に伴う反応として,蛇紋岩化過程を経験した熱水が斑レイ岩や玄武岩と反応することでロジン岩,CO₂流体との反応にて炭酸塩鉱物が形成される.
愛媛県八幡浜市の三瓶超苦鉄質岩体は東部の鴫山超苦鉄質岩体と西部の頃時鼻超苦鉄質岩体から構成され,島弧環境下で生成された様々な枯渇度を持つマグマから形成されたキュームレートの一部であったと考えられている(Ichiyama 2015).鴫山超苦鉄質岩体はダナイトやウェールライト,輝岩,頃時鼻超苦鉄質岩体はダナイトやウェールライト起源の蛇紋岩から構成される.頃時鼻超苦鉄質岩体は蛇紋岩化した後,400~500 ℃で脱水したといわれているが蛇紋岩化の過程やその多様性については明らかになっていない.本調査地域である頃時鼻海岸では頃時鼻超苦鉄質岩体と隣接する北部秩父帯の連続した露頭が見られ,蛇紋岩が広く分布している.本研究では蛇紋岩の多様性を明らかにし,それらの形成過程について考察を行う.
【研究手法】
調査地域における22地点で野外調査と観察できた岩相ごとに55サンプルの採取を行った.RIGAKU製 Ultima Ⅳを使用して粉末X線回折実験(XRD)と,偏光顕微鏡にて組織観察を行った.また代表的な蛇紋岩の試料に関してはOxford製エネルギー分散型X線分析装置EDSを装着したJEOL製 走査型顕微鏡(SEM)JSM-6510LVを用いて分析を行った.
【結果・考察】
本調査地域では蛇紋岩が最も多く見られ,輝岩,ロジン岩,緑色片岩が共存している.蛇紋岩は片状と塊状のものが見られ,透輝石脈,灰鉄ザクロ石脈,炭酸塩鉱物脈,クロム鉄鉱脈を含む.輝岩は塊状~片状を呈しており,断面では粗粒な結晶の劈開が発達していた.輝岩の一部に灰鉄ザクロ石脈を含んでいた.蛇紋岩や透輝石脈は比較的全域に分布しているが,ロジン岩や緑色片岩,灰鉄ザクロ石脈は北部,輝岩,炭酸塩鉱物脈やクロム鉄鉱脈は南部で特に多く見られた.蛇紋岩試料を蛇紋石・苦土かんらん石・透輝石の含有量から3タイプに分類した.いずれのタイプでも蛇紋石のほとんどはアンチゴライトであり,一部の試料でクリノクリソタイルが見られた.タイプAは主にアンチゴライトから構成され,苦土かんらん石や透輝石を含まない.アンチゴライトは主に短冊状結晶として産し,タイプAのものが他の2タイプに比べ粗粒であった(図).タイプADは主にアンチゴライトと少量の透輝石から構成される.透輝石は0.5mm~1.0mmの粗粒な結晶として産する.タイプADと輝岩は透輝石と蛇紋石の量比で区別しているが,両者の間には大きなギャップがあり中間的なものは見られなかった.タイプAFは主にアンチゴライトと苦土かんらん石から構成され,一部の試料は少量の透輝石を含む.苦土かんらん石は0.2mm~0.6mmの粗粒な結晶と細粒な再結晶かんらん石が見られた.本調査地域ではタイプA,タイプADは普遍的に分布しており,タイプAFは南部に分布していた.蛇紋岩はタイプごとに蛇紋石のFeの含有量や磁鉄鉱・クロム鉄鉱のコア部分のCrやAlの含有量に差が見られ,タイプAF,タイプAD,タイプAの順に蛇紋石中のFeが増加していた(0.03-0.06 apfu, 0.08-0.12 apfu, 0.22-0.28 apfu).透輝石脈,炭酸塩鉱物脈は全てのタイプの蛇紋岩で観察され,灰鉄ザクロ石脈はタイプAとタイプAD,一部の輝岩,クロム鉄鉱脈はタイプAFでのみ見られた.透輝石脈と炭酸塩鉱物脈は比較的直線的な亀裂を充填するような産状を示したが,灰鉄ザクロ石脈は破砕された蛇紋岩の角礫の間を埋めるような産状であった.一部の試料にて炭酸塩鉱物脈が透輝石脈や灰鉄ザクロ石脈を切っている様子が見られた.
タイプごとの蛇紋石の割合やその化学組成の傾向からタイプAFが最も変質の程度が弱く,タイプAとタイプADは強い変質を受けていると考えられる.タイプADと輝岩の蛇紋石の割合に大きなギャップがあることからタイプADは輝岩ではなくタイプAFのうち少量の透輝石を含むものが変質して形成された可能性が高い.これらのことから,調査地域における蛇紋岩と輝岩の原岩はダナイト~ダナイトよりのウェールライトと単斜輝石岩であり,透輝石よりも苦土かんらん石の方が優先的に蛇紋石へと変化したと考えられる.また脈の前後関係を示す組織などから,超苦鉄質岩が蛇紋岩化作用を受けたのちにCaに富む(あるいはロジン岩のようにCaの活動度が高い)流体によって透輝石脈,灰鉄ザクロ石脈が形成され,その後,CO₂に富む流体によって炭酸塩鉱物脈が形成されたと考えられる.
蛇紋岩は超苦鉄質岩であるかんらん岩や輝岩が熱水変質をうけることで形成され,主にプレートの沈み込み帯や海嶺,海洋底に分布している.また蛇紋岩化作用に伴う反応として,蛇紋岩化過程を経験した熱水が斑レイ岩や玄武岩と反応することでロジン岩,CO₂流体との反応にて炭酸塩鉱物が形成される.
愛媛県八幡浜市の三瓶超苦鉄質岩体は東部の鴫山超苦鉄質岩体と西部の頃時鼻超苦鉄質岩体から構成され,島弧環境下で生成された様々な枯渇度を持つマグマから形成されたキュームレートの一部であったと考えられている(Ichiyama 2015).鴫山超苦鉄質岩体はダナイトやウェールライト,輝岩,頃時鼻超苦鉄質岩体はダナイトやウェールライト起源の蛇紋岩から構成される.頃時鼻超苦鉄質岩体は蛇紋岩化した後,400~500 ℃で脱水したといわれているが蛇紋岩化の過程やその多様性については明らかになっていない.本調査地域である頃時鼻海岸では頃時鼻超苦鉄質岩体と隣接する北部秩父帯の連続した露頭が見られ,蛇紋岩が広く分布している.本研究では蛇紋岩の多様性を明らかにし,それらの形成過程について考察を行う.
【研究手法】
調査地域における22地点で野外調査と観察できた岩相ごとに55サンプルの採取を行った.RIGAKU製 Ultima Ⅳを使用して粉末X線回折実験(XRD)と,偏光顕微鏡にて組織観察を行った.また代表的な蛇紋岩の試料に関してはOxford製エネルギー分散型X線分析装置EDSを装着したJEOL製 走査型顕微鏡(SEM)JSM-6510LVを用いて分析を行った.
【結果・考察】
本調査地域では蛇紋岩が最も多く見られ,輝岩,ロジン岩,緑色片岩が共存している.蛇紋岩は片状と塊状のものが見られ,透輝石脈,灰鉄ザクロ石脈,炭酸塩鉱物脈,クロム鉄鉱脈を含む.輝岩は塊状~片状を呈しており,断面では粗粒な結晶の劈開が発達していた.輝岩の一部に灰鉄ザクロ石脈を含んでいた.蛇紋岩や透輝石脈は比較的全域に分布しているが,ロジン岩や緑色片岩,灰鉄ザクロ石脈は北部,輝岩,炭酸塩鉱物脈やクロム鉄鉱脈は南部で特に多く見られた.蛇紋岩試料を蛇紋石・苦土かんらん石・透輝石の含有量から3タイプに分類した.いずれのタイプでも蛇紋石のほとんどはアンチゴライトであり,一部の試料でクリノクリソタイルが見られた.タイプAは主にアンチゴライトから構成され,苦土かんらん石や透輝石を含まない.アンチゴライトは主に短冊状結晶として産し,タイプAのものが他の2タイプに比べ粗粒であった(図).タイプADは主にアンチゴライトと少量の透輝石から構成される.透輝石は0.5mm~1.0mmの粗粒な結晶として産する.タイプADと輝岩は透輝石と蛇紋石の量比で区別しているが,両者の間には大きなギャップがあり中間的なものは見られなかった.タイプAFは主にアンチゴライトと苦土かんらん石から構成され,一部の試料は少量の透輝石を含む.苦土かんらん石は0.2mm~0.6mmの粗粒な結晶と細粒な再結晶かんらん石が見られた.本調査地域ではタイプA,タイプADは普遍的に分布しており,タイプAFは南部に分布していた.蛇紋岩はタイプごとに蛇紋石のFeの含有量や磁鉄鉱・クロム鉄鉱のコア部分のCrやAlの含有量に差が見られ,タイプAF,タイプAD,タイプAの順に蛇紋石中のFeが増加していた(0.03-0.06 apfu, 0.08-0.12 apfu, 0.22-0.28 apfu).透輝石脈,炭酸塩鉱物脈は全てのタイプの蛇紋岩で観察され,灰鉄ザクロ石脈はタイプAとタイプAD,一部の輝岩,クロム鉄鉱脈はタイプAFでのみ見られた.透輝石脈と炭酸塩鉱物脈は比較的直線的な亀裂を充填するような産状を示したが,灰鉄ザクロ石脈は破砕された蛇紋岩の角礫の間を埋めるような産状であった.一部の試料にて炭酸塩鉱物脈が透輝石脈や灰鉄ザクロ石脈を切っている様子が見られた.
タイプごとの蛇紋石の割合やその化学組成の傾向からタイプAFが最も変質の程度が弱く,タイプAとタイプADは強い変質を受けていると考えられる.タイプADと輝岩の蛇紋石の割合に大きなギャップがあることからタイプADは輝岩ではなくタイプAFのうち少量の透輝石を含むものが変質して形成された可能性が高い.これらのことから,調査地域における蛇紋岩と輝岩の原岩はダナイト~ダナイトよりのウェールライトと単斜輝石岩であり,透輝石よりも苦土かんらん石の方が優先的に蛇紋石へと変化したと考えられる.また脈の前後関係を示す組織などから,超苦鉄質岩が蛇紋岩化作用を受けたのちにCaに富む(あるいはロジン岩のようにCaの活動度が高い)流体によって透輝石脈,灰鉄ザクロ石脈が形成され,その後,CO₂に富む流体によって炭酸塩鉱物脈が形成されたと考えられる.