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[R2-07] ウルトラナノライトの結晶化前駆現象:火山ガラス中に見られる液相不混和
キーワード:液相不混和、ウルトラナノライト、ナノ結晶、火山ガラス
近年,高数密度で晶出する30nmより小さいナノ結晶が安山岩質の火山岩の岩片中に見つかり[1],石基中のマイクロライト,ナノライトとは区別をしてウルトラナノライトと定義がされた[2].マグマだまり内での冷却により晶出する斑晶とは異なり,石基中のマイクロライトの結晶化の駆動力は,マグマが火道を上昇する際に減圧脱水し,鉱物のリキダス温度が上昇することで,実効的な過冷却が生じることによるものだと考えられ,1990年代以降,記載的な研究とともに減圧結晶化実験も精力的に進められた.つまり,火山岩中の結晶化の駆動力としては,温度が低下することによる「冷却」と「減圧脱水」による2種類が主に考えられている.ウルトラナノライトも同じ枠組みで考えられる結晶化なのかどうか,結晶化メカニズムはよくわかっていない.
高数密度のナノ結晶の結晶化メカニズムに関して,ソフトマターの分野において,亜リン酸トリフェニルという液液相転移をする物質を使った実験的な研究で,一度スピノーダル温度付近に条件をおいた後に結晶化温度で保持すると,核形成頻度が増大したという論文が報告された[3].古くから特に玄武岩の溶岩において,液相不混和の存在は知られている[4].最近,海底溶岩中にナノスケールの液相不混和が観察され,そこにナノ結晶が生じているという論文が報告された[5].しかし,火山岩中のナノ結晶と液相不混和の関係性について報告された論文は,この論文のみで事例が少なく,普遍性や結晶化メカニズムとの関係についてはよくわかっていない.液相不混和がよく観察される溶岩は,一般的には冷却速度が遅く,液相不混和と冷却の効果を区別することは難しい.そこで本研究では冷却速度が速いと考えられる火砕物を対象に,ウルトラナノライトの結晶化と液相不混和との関係について調べた.火砕物は,富士山の宝永噴火のスコリア32粒子,三宅島の新鼻新山のスコリア6粒,阿蘇山の2014年11月27日と12月10日のスコリア3粒子を用いた.電解放出型-走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて全体をよく観察した上で,ラマン分光分析および透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて,結晶とガラスの有無を確かめた.
富士山のスコリアの中には,マイクロライトが高結晶度で晶出し,その粒間にバイノーダル型で分解したと考えられる液滴が存在するものもあったが,多くのスコリアは,マイクロライトが低~中結晶度でガラス部分が残っていた.以下ではマイクロライトが低~中結晶度のスコリアの観察,分析結果をまとめる.FE-SEMの反射電子像において,斜長石マイクロライトと石基の界面で,輝度の高い膜や50nmより小さな斑点をよく観察することができた.これらは輝石との界面では見られなかった.STEM-EDS(走査透過電子顕微鏡に装着したエネルギー分散型X線分析装置)を用いた分析より,輝度の高い膜や斑点は比較的Feに富むものであることがわかった.阿蘇のスコリアの斜長石の周囲の斑点は,三宅島や富士山のそれよりも大きかった.阿蘇ではラマン分光分析やTEMを用いた分析でナノ結晶の晶出が確認されず,これらの膜や斑点は組成の異なるガラスであることがわかった.一方で,富士山や三宅島の場合,ナノ結晶が晶出している領域もみられ,Fe-richな層から晶出しているように見えた.
斜長石周囲で見られたこと,斜長石から遠くなるにつれて斑点が小さく見えにくくなることから,膜や斑点は,Honourら[6]が提案したものと同様に,斜長石の組成境界層で生じた液相不混和によるものだと考えられる.この場合,実験的に考えられている液相不混和がおこる温度よりも高温で液相不混和が生じる可能性があることが示唆されている.ナノ結晶の晶出は,Fe-richな層が構造や組成的に結晶を作りやすいためだと考えられ,液相不混和がウルトラナノライトの結晶化の前駆現象であった可能性がある.液相不混和がおこることで,想定される過冷却度よりも小さい過冷却度でウルトラナノライトの結晶化が生じている可能性がある.一方で,阿蘇のように,スピノーダル分解型の液相不混和の波長が大きくても,ナノ結晶が晶出しない場合もあった.ウルトラナノライトの結晶化には液相不混和に加えて結晶化を引き起こすきっかけが必要だと考えられる.
参考文献
[1] Mujin and Nakamura, (2014)Geology, [2] Mujin et al., (2017) Am. Mineral., [3] Kurita and Tanaka (2019) PNAS, [4] Fujii et al., (1980) Jour. Geol. Soc. Japan, [5] Thivet et al (2023) Commun. Earth & Environ., [6] Honour, V. et al., (2019) Nat. Commun.
高数密度のナノ結晶の結晶化メカニズムに関して,ソフトマターの分野において,亜リン酸トリフェニルという液液相転移をする物質を使った実験的な研究で,一度スピノーダル温度付近に条件をおいた後に結晶化温度で保持すると,核形成頻度が増大したという論文が報告された[3].古くから特に玄武岩の溶岩において,液相不混和の存在は知られている[4].最近,海底溶岩中にナノスケールの液相不混和が観察され,そこにナノ結晶が生じているという論文が報告された[5].しかし,火山岩中のナノ結晶と液相不混和の関係性について報告された論文は,この論文のみで事例が少なく,普遍性や結晶化メカニズムとの関係についてはよくわかっていない.液相不混和がよく観察される溶岩は,一般的には冷却速度が遅く,液相不混和と冷却の効果を区別することは難しい.そこで本研究では冷却速度が速いと考えられる火砕物を対象に,ウルトラナノライトの結晶化と液相不混和との関係について調べた.火砕物は,富士山の宝永噴火のスコリア32粒子,三宅島の新鼻新山のスコリア6粒,阿蘇山の2014年11月27日と12月10日のスコリア3粒子を用いた.電解放出型-走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて全体をよく観察した上で,ラマン分光分析および透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて,結晶とガラスの有無を確かめた.
富士山のスコリアの中には,マイクロライトが高結晶度で晶出し,その粒間にバイノーダル型で分解したと考えられる液滴が存在するものもあったが,多くのスコリアは,マイクロライトが低~中結晶度でガラス部分が残っていた.以下ではマイクロライトが低~中結晶度のスコリアの観察,分析結果をまとめる.FE-SEMの反射電子像において,斜長石マイクロライトと石基の界面で,輝度の高い膜や50nmより小さな斑点をよく観察することができた.これらは輝石との界面では見られなかった.STEM-EDS(走査透過電子顕微鏡に装着したエネルギー分散型X線分析装置)を用いた分析より,輝度の高い膜や斑点は比較的Feに富むものであることがわかった.阿蘇のスコリアの斜長石の周囲の斑点は,三宅島や富士山のそれよりも大きかった.阿蘇ではラマン分光分析やTEMを用いた分析でナノ結晶の晶出が確認されず,これらの膜や斑点は組成の異なるガラスであることがわかった.一方で,富士山や三宅島の場合,ナノ結晶が晶出している領域もみられ,Fe-richな層から晶出しているように見えた.
斜長石周囲で見られたこと,斜長石から遠くなるにつれて斑点が小さく見えにくくなることから,膜や斑点は,Honourら[6]が提案したものと同様に,斜長石の組成境界層で生じた液相不混和によるものだと考えられる.この場合,実験的に考えられている液相不混和がおこる温度よりも高温で液相不混和が生じる可能性があることが示唆されている.ナノ結晶の晶出は,Fe-richな層が構造や組成的に結晶を作りやすいためだと考えられ,液相不混和がウルトラナノライトの結晶化の前駆現象であった可能性がある.液相不混和がおこることで,想定される過冷却度よりも小さい過冷却度でウルトラナノライトの結晶化が生じている可能性がある.一方で,阿蘇のように,スピノーダル分解型の液相不混和の波長が大きくても,ナノ結晶が晶出しない場合もあった.ウルトラナノライトの結晶化には液相不混和に加えて結晶化を引き起こすきっかけが必要だと考えられる.
参考文献
[1] Mujin and Nakamura, (2014)Geology, [2] Mujin et al., (2017) Am. Mineral., [3] Kurita and Tanaka (2019) PNAS, [4] Fujii et al., (1980) Jour. Geol. Soc. Japan, [5] Thivet et al (2023) Commun. Earth & Environ., [6] Honour, V. et al., (2019) Nat. Commun.