2024 Annual Meeting of Japan Association of Mineralogical Sciences (JAMS)

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Poster presentation

R4: Mineral sciences of the Earth surface

Fri. Sep 13, 2024 12:30 PM - 2:00 PM Entrance Hall (Higashiyama Campus)

12:30 PM - 2:00 PM

[R4-P-06] Framboidal pyrite in modern stromatolite from Fukiage-Jigoku, Onikobe Spring, Miyagi, Japan

「発表賞エントリー」

*Tatsuya Kamada1, Hiroaki Ohfuji1 (1. Tohoku Univ. Sci.)

Keywords:Framboidal pyrite, stromatolite

はじめに
 フランボイダルパイライトは,形体とサイズが均一な多数の微結晶(マイクロクリスタル)が集合した微視的な木苺状の黄鉄鉱であり,堆積物中などに普遍的に産する.その起源や形成過程については半世紀以上議論が続いており,無機的形成説(Wilkin and Barnes, 1996など)と生物形成説(Wacey et al., 2015など)が提案されている.生物形成説では,硫酸塩還元菌や微生物の作るバイオフィルムがその生成に関与している可能性が言われているが,その具体的なメカニズムは言及されていない.よって,それらの痕跡を保持している可能性のある,現在進行系で形成されているフランボイダルパイライトを観察することは極めて重要であるが,その報告例は少ない.本研究ではその手がかりを得られる可能性のある試料として,宮城県大崎市の吹上温泉の熱水噴出孔付近に生じている現生ストロマトライト中含まれるフランボイダルパイライトに着目した.
研究試料と手法 
 宮城県大崎市鳴子の吹上温泉の遊歩道沿いには高温のアルカリ性熱水が噴出しており,噴出口周辺には現生のストロマトライトの形成が報告されている(赤井ら,1995).噴出孔から1mほど離れたバイオマットに覆われている地点より表層堆積物(熱水沈殿物が固結したもの)を採取した.採取した試料は,まず光学顕微鏡(デジタルマイクロスコープ)を用いて表面および破断面を観察し,特徴的な部位の写真撮影や研磨加工位置の特定などを行った.その後,紫外線硬化樹脂に試料を包埋して機械研磨およびArイオンビーム(JEOL,クロスセクションポリッシャ)を用いたイオン研磨により断面試料を作成し,SEM-EDSによる微細組織観察と局所化学分析を行った.
結果と考察
 光学顕微鏡観察の結果,表層堆積物は全体として層構造をなし,高い透光性を示す上部(表層部,厚さ~80 μm)と暗緑灰色の層と白色の層の互層よりなる中部,透光性のある白色粒子の集合よりなる底部の3つのユニットに分けられた.透過性を示す表層部を真上から観察すると,内部に黒色~黄黒色で直径7~10 μmの球状~半球状の粒子が多数含まれていた.中部のユニットを構成する暗緑灰色の層中には~数十 μmの金属光沢のある鉱物が多数散在しており,一方,白色の層では緻密な部分とフィラメント状の組織よりなる多孔質な部分が混在し,100 μm以下のオレンジ色の領域も一部、層状に含まれていた.
 イオン研磨断面のSEM-EDS分析を行ったところ,透光性を示す表層部は粘土鉱物を主体とするフレーク状組織の周囲を厚さ1~2 μmほどの緻密なシリカ(オパール)が被覆した構造を示し,直径~3 μmのフランボイダルパイライトも含まれていた. 中部のユニットを構成する白色の層はほぼシリカからなり,径5 μmほどの円形の組織 を部分的に含む緻密な領域と,球状の組織とフィラメント状組織の混在した多孔質な領域が観察された.これらの組織は熱水噴出孔付近のバイオマット中で生息していたシアノバクテリアに由来すると考えられる.一方,暗緑灰色の層はシリカの他にAl,Na,Caの濃集が認められ,白色層に比べて粘土鉱物を多く含んでいると判断される.この層にはパイライトが多く含まれており,立方体を含む単結晶状( <1~40 μm)とフランボイダル状(5~7 μm)の二種類の形態が観察された.前者は普遍的に散在しているのに対して,後者は局所に偏在しており,厚さ1 μmほどのシリカ層で被覆されているケースも認められた .
 以上の産状を踏まえると本地域のストロマトライトの形成には,シアノバクテリアの活動に加えて,硫酸塩還元バクテリアの活動が深く関与している可能性が高いと考えられる.ストロマトライト生成における硫酸塩還元バクテリアの関与については先行研究(Reid et al., 2000)でも指摘されており,微生物の細胞壁やバイオフィルムがシリカの核形成サイトを提供するという報告(Kurt et al. 2001など)もある.フランボイダルパイライトの形成に不可欠な極めて高い結晶化駆動力(=溶液過飽和度)は,バイオマット内部における非常に大きな酸化還元勾配の中で優先的に獲得されるのかもしれない.
参考文献
Wilkin, R.T. and Barnes, H.L. (1996) Geochim. Cosmochim. Acta, 60, 4167–4179.
Wacey, D. et al., (2015) Geology, 43, 27–30.
赤井くるみ他(1995)地球科学, 49, 292–297.
Reid, R.P. et al., (2000) Nature, 406, 989–992.
Kurt, O.K. et al. (2001) Sedimentology, 48, 2, 415–433.
R4-P-06