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[R6-07] 白亜紀北部九州バソリスのマグマ形成過程–Cumulateからのアプローチ–
キーワード:白亜紀北部九州バソリス、北多久苦鉄質複合岩体、集積岩、本源マグマ、Sanukitic高Mg安山岩
【はじめに】北東アジア大陸縁辺部にはイザナギプレートの沈み込みに関連するジュラ紀から白亜紀の火成岩類が広く発達し,火成活動やテクトニクスの研究が精力的に行われている(Kim et al., 2016, Lithos 262, 88–106 ; Yu et al., 2021, Int. Geol. Rev., 1881920).日本列島に産する火成岩類も大陸側(北東中国,韓半島)の火成岩類と同様にイザナギプレートのユーラシア大陸への沈み込み(200–50Ma)に関連することは明確であり(Seton et al., 2015, Geophys. Res. Lett. 42, 1732–1740),日本国土の約30%は花崗岩を代表とする深成岩類が占めている。そして,日本各地にはバソリスと呼ばれる面積100km2以上の大規模な花崗岩複合岩体が露出しており,島弧地殻の主たる部分を構成する.また,日本国土に露出する花崗岩類の約80%は50–130Ma(主に白亜紀から古第三紀)に活動年代が集中している.このような大陸規模の周期的な大規模火成活動はMagmatic flare-upsと呼ばれ,大量の珪長質マグマの発生機構や地殻成長過程の変遷を考える上で非常に重要な火成活動イベントである(Ducea, 2001, GSA Today, 11, 4–10).そこで,本発表では白亜紀北部九州バソリスを対象にマグマ発生機構を含めた包括的な火成活動の解明を目指し,バソリスを構成する花崗岩質岩の本源マグマの形成過程・生成機構を議論する.また,本源マグマの検討には白亜紀北部九州バソリスに付随する北多久苦鉄質複合岩体の集積岩類を使用する.初生的なマグマから晶出・集積した集積鉱物を利用し,初生マグマの特徴を追求することは,同時期の火山岩類の露出が非常に少ない(つまり,火山岩類からメルト組成の検討が難しい)北部九州バソリスにおける最善の手法であると考えている.【北多久苦鉄質複合岩体の地質概要】北多久苦鉄質複合岩体が露出する佐賀県多久市天山周辺の地質は,角閃岩と蛇紋岩を母岩とし,それを貫く北多久苦鉄質複合岩体と深江花崗岩および北多久苦鉄質複合岩体を貫く珪長質岩脈と斑状細粒閃緑岩岩脈から構成される.北多久苦鉄質複合岩体は主に斑れい岩類からなり,集積岩相と非集積岩相に分類され,互いに明瞭な境界を持たず,複雑な産状を示す. 【親マグマの性質】 北多久苦鉄質複合岩体中で最も未分化組成に近い岩石のCpxの組成から平衡メルト組成を計算した.その結果,算出された液組成はSanukitic 高Mg安山岩質のマグマに類似する組成を示すことが明らかとなった.また,その初生マグマが共存したマントルかんらん岩の組成はCr#>0.8が推定される.さらに,白亜紀北部九州バソリスに点在するSanukitic 高Mg安山岩マグマ由来の岩石(高Mg閃緑岩)と比較しても類似の組成的特徴を持つ.つまり,このことは,Sanukitic 高Mg安山岩マグマが白亜紀北部九州の広範囲で実質的に活動したことを示唆している.【北部九州バソリスの形成テクトニクス】北多久苦鉄質岩体に産するミグマタイトの産状からは,苦鉄質マグマを熱源とした角閃岩の部分溶融現象が考えられる.微量元素を用いたモデル計算の結果から角閃岩の部分溶融メルトとSanukitic 高Mg安山岩マグマを混合することによって北多久苦鉄質複合岩体周辺に産する花崗岩質マグマの多様性を説明することができる.そして,Sanukitic 高Mg安山岩質マグマの北部九州での空間的な広がりと北部九州花崗岩バソリス構成岩体のモデル計算から,白亜紀北部九州バソリスを構成する花崗岩類の一部は,北多久苦鉄質複合岩体の親マグマであるSanukitic 高Mg安山岩マグマとそれを熱源とした部分溶融によって形成したanatexisメルトとの混合により形成可能である.また,Sanukitic 高Mg安山岩マグマも一般に同化作用や分化作用により高Mg閃緑岩や他の苦鉄質マグマとして上昇している.よって,白亜紀北部九州バソリスの火成活動の熱源はSanukitic 高Mg安山岩を代表としたマグマであった可能性が高い.また,江島(2021, 地質学雑誌127, 605–619)では北部九州から山口県西部に広く露出する関門層群の堆積時に花崗岩質マグマがほぼ同時期に貫入する産状を報告しており,北部九州バソリス火成活動もスラブロールバックによる引張応力場でのイベントであると予想される.つまり,本研究で検討したバソリス火成活動・形成テクトニクスは,同様のプレートモーションに属する白亜紀北東アジア大陸縁辺部のバソリス火成活動,熱源および複雑な地殻成熟過程に新たな知見を与える.