一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R7:岩石・鉱物・鉱床 (資源地質学会 との共催 セッション)

2024年9月12日(木) 14:00 〜 17:30 ESホール (東山キャンパス)

座長:秋澤 紀克(東京大学大気海洋研究所)、越後 拓也(秋田大学)

岩石学,鉱物学,鉱床学,地球化学などの分野をはじめとして,地球・惑星物質科学全般にわたる岩石及び鉱物に関する研究発表を広く募集する。地球構成物質についての多様な研究成果の発表の場となることを期待する。

14:55 〜 15:10

[R7-04] 熊本県美里町払川における砂白金鉱床と新鉱物・不知火鉱について

*浜根 大輔1、田中 崇裕、新町 正 (1. 東京大学)

キーワード:白金族元素鉱物、砂白金、不知火鉱

これまで日本では北海道を除き砂白金鉱床は知られていなかったが、熊本県美里町払川において砂白金鉱床を見出した(Nishio-Hamane et al., 2019)。その鉱床は小規模ではあるものの、パラジウム系白金族元素(Pd, Rh, Pt)が主体であり、日本では初めて確認された鉱床であった。また、この鉱床から二つの新鉱物、皆川鉱(Minakawaite):RhSbと三千年鉱(Michitoshiite-(Cu)):Rh(Cu1-xGex)を発見し、さらにチオスピネル族の未詳鉱物を見いだした。この未詳鉱物を、熊本県の古称「火の国」の伝承にちなんで不知火鉱(Shiranuiite)と命名し、新鉱物・鉱物・命名委員会から新鉱物として承認を受けた(IMA2023-072a)。ここでは払川の砂白金鉱床と、新鉱物・不知火鉱の特徴について報告したい。

払川には透輝石が主体の単斜輝石岩が分布しており、2005年には5万分の1地質図(砥用)にも記された。超苦鉄質の集積岩である単斜輝石岩は白金族元素鉱物(PGM)探査において重要な指標であり、払川においても岩体を横切る小河川でやはり砂白金の堆積が確認された。砂白金はイソフェロプラチナ鉱:Pt3Feを主体とする銀白色の粒子がほとんどで、それ以外(例えば自然オスミウム)の粒子は極めて少ない。また、一般にイソフェロプラチナ鉱は一つの地域で得られる粒子であっても、それぞれの組成はばらつくことが多いが、払川ではいずれも端成分に非常に近い。ただし、茶褐色の砂白金粒子については外縁部(数~数百μm)がトラミーン鉱:Pt2CuFeやテトラフェロプラチナ鉱:PtFeへ変化しているように、一部の砂白金には後マグマ過程における変質作用の影響が認められる。

砂白金粒子は微細ながらも多様な白金族元素鉱物(PGM)を包有し、現時点で確認できたPGMは全体で約40種となる(図1)。これらのPGM包有物はコブのように粒子表面に露出することもあるが、ラウラ鉱:RuS2やエルリッチマン鉱:OsS2を除き、PGM包有物の大半は変質作用にさらされる環境では安定ではないため、包有物として二番目に多いバウィー鉱:Rh2S3でさえ、粒子表面で観察されることは稀である。また、バウィー鉱が観察される場合でも硫銅ロジウム鉱:(Cu+0.5Fe3+0.5)Rh3+2S4や不知火鉱:Cu+(Rh3+Rh4+)S4を伴うことが多い(図1)。不知火鉱は硫銅ロジウム鉱集合に生じた亀裂に沿って生じることがある。

得られた分析値からRhの価数分布を見積もると、不知火鉱の平均化学組成は(Cu+0.95Fe3+0.04Ni0.01)(Rh3+1.19Rh4+0.77Ir4+0.06)S3.99となり、Cu+(Rh3+Rh4+)S4の理想化学式が導かれた。微小部XRDにより得られた格子定数は空間群Fd-3mにおいてa = 9.757Åであり、Cuおよび白金族元素を含むチオスピネルの中で不知火鉱は最も小さな体積を示した。これはイオン半径の小さいRh4+が主成分ということと調和的である。

スピネル超族の命名規約の成立に伴い、銅と白金族元素を含むチオスピネルは、実質的にはCu内容によってリンネ鉱亜族とカーロール鉱亜族を分け、それぞれについてRh-Ir-Pt内容を検討することで種が決定されるようになっている。そこで、払川から産出するチオスピネル鉱物の分類を行った(図1)。組成はリンネ鉱亜族とカーロール鉱亜族に不連続に分布することが判明した。それぞれのRh-Ir-Ptを検討すると、リンネ鉱亜族についてはすべて硫銅ロジウム鉱に、カーロール鉱亜族についてはすべて不知火鉱に分類された。一方で、硫銅ロジウム鉱と不知火鉱のRh-Ir-Pt分布は完全に一致しており、起源が共通であることが示唆される。そして、払川で産出するロジウム硫化鉱物、バウィー鉱:Rh2S3、キングストン鉱:Rh3S4、ミアス鉱:Rh17S15の組成を比較すると、バウィー鉱の組成分布だけが硫銅ロジウム鉱や不知火鉱と一致した(図1)。バウィー鉱の、包有物および外部での出現頻度の違い、外部に出現した際の共生関係、組成分布を考慮すると、硫銅ロジウム鉱や不知火鉱がバウィー鉱の変質によって生じたことは明白である。一方で、硫銅ロジウム鉱と不知火鉱のCu内容の不連続性や、不知火鉱が硫銅ロジウム鉱を横切る産状があることから、硫銅ロジウム鉱と不知火鉱の生成ステージは異なると考えられる (Nishio-Hamane et al., in press)。

Nishio-Hamane et al. (2019) JMPS, 114, 252-262.
Nishio-Hamane et al. (in press) JMPS, 119.
R7-04