16:15 〜 16:30
[R7-08] オーストラリア産鉄鉱石中のゲーサイトに見られるリンの濃集と微細組織の関係
キーワード:鉄鉱石、ゲーサイト、リン、微細組織
はじめに:オーストラリアは、日本が鉄鉱石を輸入する最主要国であるが、近年、その鉱石中に含まれるリン濃度の上昇が問題となっている。そこで、本研究では、オーストラリア産鉄鉱石試料において主要な鉄資源鉱物になっているゲーサイトに注目して、含まれるリン濃度とその微細組織との関係について、主にFE-EPMAによる観察・分析を通じて検証を行った。
結果と考察:分析に使用したのは、2種類のオーストラリア産鉄鉱石試料(“Ore A”と“Ore B”)の研磨片で、合計144粒子(粒度1~3 ミリメートル)のゲーサイト粒子をFE-EPMA(JEOL JXA-8530F:東大・理・地球惑星科学専攻に設置)を用いて、元素マッピング分析と定量分析を行った。
Ore A、Bともにゲーサイトが主要な構成鉱物で、その次にヘマタイト(“マータイト”)が多く、脈石成分であるカオリナイトや石英などを少量含んでいる粒子がほとんどであった。Ore AはOre Bに比べ、ややゲーサイト量が少なく、その分、ヘマタイト量が相対的に多く含まれていた。リンはゲーサイトに最も多く入っており、含有量は、最大4.6 wt% P2O5であった。ただし、Ore Aに含まれるリン量の方が、Ore Bに含まれるリン量よりも多い傾向があった。ヘマタイトにはリンがほとんど含まれておらず(<0.5 wt% P2O5)、その結果、バルク組成的にはOre AとBのリン量はほぼ同等であった。
ゲーサイトにリンが少量含まれていることは、吸着によるメカニズムが考えられていることから、本研究では、特にゲーサイトの微細組織とリン量の関係に注目することとした。FE-EPMAによる観察の結果、Ore A、Bの両試料ともゲーサイトは微細組織の違いにより、①繊維状・羽毛状、②板状・柱状、③塊状・層状、④その他の大きく4つに分けることができた。ただし、①と②は漸移的な組織関係となっている。これらの微細組織での分類によると、ゲーサイトのうちで、有意にリン含有量が高いものは、①と②、特に①の微細組織を持つものであり、Ore Aにおいては、①を主体とするゲーサイト粒子の最大P2O5量の平均値は2.87 wt%であった。この数値は、②の平均値1.43 wt%、③の平均値1.40 wt%、④の平均値0.52 wt%より明らかに高かった。一方で、Ore Bでは、Ore Aに比べて、①の繊維状・羽毛状と②の板状・柱状のような微細組織を持つゲーサイトの数は少なかったが、①のゲーサイトがやはり高いリン濃度を持っており、①のゲーサイトの最大P2O5量の平均値が1.55 wt%であるのに対して、②のものは1.38 wt%、③のものは0.60 wt%、④のものは0.81 wt%であった。また、①と②の微細組織を持つゲーサイトにおいては、結晶サイズが主に20マイクロメートル以下のことが普通であるが、ゲーサイトの平均結晶サイズに注目した結果、Ore A、Bともに粒子サイズが小さいゲーサイトの方が高いリン量を持っていることが示された。①と②のような微細組織を持つゲーサイトでは、サブミクロンスケールでの微小空隙がゲーサイトの結晶粒間に富むような多孔質組織を持っていることが多い。このことは、このような特に微細なゲーサイトが効率的にリンを吸着している可能性を示唆している。そこで、このような微結晶粒間を持つゲーサイトと持たないゲーサイトに分けて、リン含有量を比較してみたところ、やはり明らかに微結晶粒間のあるゲーサイトの方が無いものよりもリン含有量が高かった(Ore A:粒間ありは平均2.33 wt% P2O5で、無しは平均1.29 wt% P2O5、Ore B:粒間ありは平均1.53 wt% P2O5で、無しは平均0.56 wt% P2O5)。
結論:FE-EPMAを用いて、オーストラリア産ゲーサイトの観察・分析を行った結果、繊維状・羽毛状の微細組織を持つゲーサイトは、微小結晶粒間の空隙を介することで効率的にリンが吸着しており、このことが、鉱石のP濃度の上昇を引き起こしている最大の要因と考察された。
謝辞:この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)の助成事業(JPNP12004)の結果得られたもので、ここに感謝を示す。
結果と考察:分析に使用したのは、2種類のオーストラリア産鉄鉱石試料(“Ore A”と“Ore B”)の研磨片で、合計144粒子(粒度1~3 ミリメートル)のゲーサイト粒子をFE-EPMA(JEOL JXA-8530F:東大・理・地球惑星科学専攻に設置)を用いて、元素マッピング分析と定量分析を行った。
Ore A、Bともにゲーサイトが主要な構成鉱物で、その次にヘマタイト(“マータイト”)が多く、脈石成分であるカオリナイトや石英などを少量含んでいる粒子がほとんどであった。Ore AはOre Bに比べ、ややゲーサイト量が少なく、その分、ヘマタイト量が相対的に多く含まれていた。リンはゲーサイトに最も多く入っており、含有量は、最大4.6 wt% P2O5であった。ただし、Ore Aに含まれるリン量の方が、Ore Bに含まれるリン量よりも多い傾向があった。ヘマタイトにはリンがほとんど含まれておらず(<0.5 wt% P2O5)、その結果、バルク組成的にはOre AとBのリン量はほぼ同等であった。
ゲーサイトにリンが少量含まれていることは、吸着によるメカニズムが考えられていることから、本研究では、特にゲーサイトの微細組織とリン量の関係に注目することとした。FE-EPMAによる観察の結果、Ore A、Bの両試料ともゲーサイトは微細組織の違いにより、①繊維状・羽毛状、②板状・柱状、③塊状・層状、④その他の大きく4つに分けることができた。ただし、①と②は漸移的な組織関係となっている。これらの微細組織での分類によると、ゲーサイトのうちで、有意にリン含有量が高いものは、①と②、特に①の微細組織を持つものであり、Ore Aにおいては、①を主体とするゲーサイト粒子の最大P2O5量の平均値は2.87 wt%であった。この数値は、②の平均値1.43 wt%、③の平均値1.40 wt%、④の平均値0.52 wt%より明らかに高かった。一方で、Ore Bでは、Ore Aに比べて、①の繊維状・羽毛状と②の板状・柱状のような微細組織を持つゲーサイトの数は少なかったが、①のゲーサイトがやはり高いリン濃度を持っており、①のゲーサイトの最大P2O5量の平均値が1.55 wt%であるのに対して、②のものは1.38 wt%、③のものは0.60 wt%、④のものは0.81 wt%であった。また、①と②の微細組織を持つゲーサイトにおいては、結晶サイズが主に20マイクロメートル以下のことが普通であるが、ゲーサイトの平均結晶サイズに注目した結果、Ore A、Bともに粒子サイズが小さいゲーサイトの方が高いリン量を持っていることが示された。①と②のような微細組織を持つゲーサイトでは、サブミクロンスケールでの微小空隙がゲーサイトの結晶粒間に富むような多孔質組織を持っていることが多い。このことは、このような特に微細なゲーサイトが効率的にリンを吸着している可能性を示唆している。そこで、このような微結晶粒間を持つゲーサイトと持たないゲーサイトに分けて、リン含有量を比較してみたところ、やはり明らかに微結晶粒間のあるゲーサイトの方が無いものよりもリン含有量が高かった(Ore A:粒間ありは平均2.33 wt% P2O5で、無しは平均1.29 wt% P2O5、Ore B:粒間ありは平均1.53 wt% P2O5で、無しは平均0.56 wt% P2O5)。
結論:FE-EPMAを用いて、オーストラリア産ゲーサイトの観察・分析を行った結果、繊維状・羽毛状の微細組織を持つゲーサイトは、微小結晶粒間の空隙を介することで効率的にリンが吸着しており、このことが、鉱石のP濃度の上昇を引き起こしている最大の要因と考察された。
謝辞:この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)の助成事業(JPNP12004)の結果得られたもので、ここに感謝を示す。