一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

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R7:岩石・鉱物・鉱床 (資源地質学会 との共催 セッション)

2024年9月13日(金) 12:30 〜 14:00 エントランスホール (東山キャンパス)

12:30 〜 14:00

[R7-P-01] 北海道北西部の砂白金鉱床と新鉱物・蝦夷地鉱について

*浜根 大輔1、斎藤 勝幸 (1. 東京大学)

キーワード:白金族元素鉱物、砂白金、蝦夷地鉱

明治期に北海道で砂白金が発見されて以降、北海道中軸に分布するかんらん岩体(蛇紋岩体)に沿って産地が開拓されてきた。当初、採掘は小規模な個人事業であったが、第二次大戦中には砂白金を軍事物質として確保するために数十万人を動員した乱獲が行われた。その結果、北海道中軸沿いの砂白金は姿を消し、今ではほとんど採集できない状態になっている。一方で、北海道中軸の北部にそびえる天塩山地から供給された土砂が基盤岩となった北海道北西部にも、砂白金鉱床が分布することが判明した。本研究では北海道北西部の砂白金鉱床と、そこから発見されたチオスピネル族の新鉱物・蝦夷地鉱(Ezochiite:IMA2022-101)について報告したい(Nishio-Hamane and Saito, 2024)。

北海道北西部、特に留萌管内を中心として南北に70km、東西に30kmにまたがった範囲で現地調査と採集を行い、計9カ所(茂初山別川、初山別川、アイヌ沢川、苫前町海岸、小平町海岸、上記念別沢川、小平蘂川、沼田ポン川、雨竜川)から砂白金を得た。いずれの砂白金もイリジウム系白金族元素(IPGE: Ir,Os,Ru)を主体とした粒子が大半で、それらはルテニイリドスミン、自然オスミウム、自然ルテニウム、自然イリジウムからなり、ひとつの粒子に複数が混合することも多い。パラジウム系白金族元素(PPGE: Pd,Pt,Rh)を主体とした粒子の産出量は少なく、それらはイソフェロプラチナ鉱を主体とする。そのイソフェロプラチナ鉱を主体とする粒子は多様な白金族元素鉱物(PGM)の包有物に富むことが特徴で、蝦夷地鉱も包有物として伴われる。砂白金粒子、粒子の外縁、包有物のすべての産状を総合して、現時点で70種ほどのPGMの産出を確認している(図1)。

蝦夷地鉱は苫前町海岸(模式地)から見出されたのち、初山別川、アイヌ沢川、小平町海岸からも見出された。いずこでも蝦夷地鉱は別の硫化鉱物と共に球形から楕円球形集合となって、イソフェロプラチナ鉱に包有される。この産状は、イソフェロプラチナ鉱が結晶成長する際に硫化物メルトを捕獲し、その捕獲されたメルトから蝦夷地鉱が結晶化したことを示唆しており、包有されるメルトごとに組成や共生鉱物が異なる。模式標本において、蝦夷地鉱の化学組成は(Cu+0.85Fe3+0.15)(Rh3+1.09Pt4+0.78Ir3+0.08Pt2+0.05)S4.00であり、理想化学組成はCu+(Rh3+Pt4+)S4となる。解析的にPt2+を見積もっているが、それがスピネル構造中で実在するかは今後の検討課題になろう。微小部粉末XRDでは空間群Fd-3mにおいてa = 9.8559(14)Åの格子定数が得られた。

スピネル超族の命名規約の成立に伴い、銅と白金族元素を含むチオスピネルは、実質的にはCu内容によってリンネ鉱亜族とカーロール鉱亜族を分け、それぞれについてRh-Ir-Pt内容を検討することで種が決定されるようになっている。そこで組成分布をプロットすると、本調査地域からのチオスピネルは硫銅ロジウムと蝦夷地鉱に分類され、Cu-Pt間に直線的な正相関が認められた。そのため、蝦夷地鉱:Cu+(Rh3+Pt4+)S4と硫銅ロジウム鉱:(Cu+0.5Fe3+0.5)Rh3+2S4は、Cu+0.5Pt4+-Fe3+0.5Rh3+の置換関係にもとづく連続固溶体が存在すると考えられる。また、命名規約の変更によって、かつての硫銅ロジウム鉱は、①今の硫銅ロジウム鉱、②蝦夷地鉱、③不知火鉱、④未命名RhIr鉱物のいずれかに再分類される。そこで世界各国から報告された硫銅ロジウム鉱を今の分類法で再確認したところ、オフィオライト、ウラル-アラスカ型岩体、正マグマ鉱床のすべての産状で、蝦夷地鉱が確認された。蝦夷地鉱は新鉱物として承認されたばかりの鉱物だが、普遍的なPGMの一つであろう。

Nishio-Hamane and Saito (2024), JMPS, 119, 008.
R7-P-01