一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

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S3:マントル・地殻のレオロジーと物質移動(スペシャルセッション)

2024年9月12日(木) 12:30 〜 14:00 エントランスホール (東山キャンパス)

12:30 〜 14:00

[S3-P-03] 部分的に蛇紋化したスラブカンラン岩の深発地震発生領域での脱水プロセスの理解に向けて

*久保 友明1、江崎 武蔵1、藤原 伸匡1、本田 陸人1、後藤 佑太1、辻野 典秀2 (1. 九州大学、2. JASRI)

キーワード:深部スラブ、脱水プロセス、脱水脆性化、加水軟化

部分的に蛇紋化したスラブかんらん岩の沈み込みは、地球深部への水の輸送や深発地震の発生、スラブ軟化現象を理解するうえで極めて重要である。我々は、深部スラブにおける蛇紋石の脱水プロセスと周囲カンラン岩への透水および含水化過程、またそれらが変形の局所化や不安定化、軟化を引き起こす過程を実験的に検討している。本発表では特に前者の蛇紋石脱水とカンラン岩含水化過程について、その予備的結果を報告する。
 実験は、MA型高圧装置を用いて、放射光その場観察法(SPring-8, BL04B1およびBL05XU)および試料急冷法(九州大)を併用して行っている。長崎県野母半島産アンチゴライト(Atg)を円柱状にくり抜いた多結晶体を出発物質として、それをNaCl媒体に埋め込んだ開放系、もしくは幌満産カンラン岩カプセルに入れたカンラン岩反応系の2種類の環境下で脱水実験を行っている。圧力条件は、1)温度誘起のAtg脱水境界が負の勾配となる~4-7GPa, 2)圧力誘起のAtg脱水反応でDHMS相が形成しはじめる~8-10GPa, 3)カンラン岩の相転移が起こる~20GPa、の大きく3つの領域に分けられる。
 圧力領域1)および2)でX線その場観察によりカイネティクスも含めた脱水プロセスを調べたところ、これまで過去研究で報告のあった閉鎖系での結果に対し、本研究の開放系では大きな違いが確認された。圧力領域1)の開放系では、温度上昇とともに Atg => olivine (Ol) + 10Å phase (10Å) + H2O => Ol + enstatite (En) + H2O の反応が起こり、~500-650°Cで起こる部分脱水の方が、~700°C以上で起こる完全脱水よりもフルイド生成率が大きくなる特徴がある。同様に圧力領域2)の開放系では、Atg => Phase E (PhE) + 10Å => Ol + hCEn + H2O の新たな反応プロセスが見出され、600°C以下では脱水せず高圧分解反応が起こる。同様の実験をカンラン岩反応系で行ったところ、まだ予備的解析の段階ではあるが、~4GPaではほぼ閉鎖系に近いプロセスで反応が進行するが、高圧になるにつれ開放系に近い反応挙動をすることが示唆された。
 一方で、圧力領域2)および3)、~500-850°Cのカンラン岩反応系において、試料急冷法による実験を行って回収試料を分析したところ、Atgが複数のDHMS相へ脱水分解してフルイドを放出するとともに、そのAtgと周囲カンラン岩との間に複数のDHMS反応帯が形成することが確認された。そしてさらに外側のカンラン岩領域へも脈状フルイドが貫入し、そこでもDHMS相やカンラン石高圧相が形成されることがわかった。特に圧力領域3)では、時間の経過とともに貫入したフルイド脈の両側に高圧相転移が進行し、カンラン岩カプセル全体の高圧相転移が急速に進行する様子が観察された。
 これらの結果はまだ予備的であり系統的な解釈には至っていないが、部分的に蛇紋化したスラブカンラン岩が地球深部で脱水する際、圧力によって周囲カンラン岩とフルイドとの反応プロセスが変化し、それが局所的な間隙水圧や水のフガシティー、ひいては蛇紋石の脱水プロセスや脱水温度をコントロールしていることが予想される。