第65回歯科基礎医学会学術大会

講演情報

シンポジウム

日本学術会議シンポジウム(市民公開講座)

「臓器再生最前線〜ミニ臓器の作製から応用まで〜」

2023年9月16日(土) 17:30 〜 19:00 A会場 (百周年講堂(本館7F))

座長:美島 健二(昭大 歯 口腔病理)、樋田 京子(北大 院歯 血管生物分子病理)

18:14 〜 18:36

[SCJS-03] 唾液腺オルガノイドの作製とその応用

〇田中 準一1,2 (1. 昭大 歯 口腔病態診断 口腔病理、2. コロンビア大学)

キーワード:オルガノイド、唾液腺、ヒトiPS細胞

頭頸部がん放射線治療後の副作用やシェーグレン症候群などでは唾液腺組織障害による重度の口腔乾燥症が問題となっている。加えて唾液腺組織は再生能力に乏しい組織であり再生医療の開発が望まれている。本研究では過去に我々が開発したマウス唾液腺オルガノイドの誘導方法を改変することでヒトiPS細胞からの唾液腺オルガノイド誘導を試みた。
 唾液腺発生については胎生期の原始口腔粘膜の肥厚により発生が開始し、上皮細胞の枝分かれによって唾液腺組織が形成される。我々はこの発生過程を模倣した分化誘導を行った。まずヒトiPS細胞から低分子化合物を用いて誘導12日目に原始口腔粘膜様の上皮細胞が効率よく分化誘導されることを見出した。この原始口腔粘膜様組織をFGF7、FGF10添加培地で誘導を継続すると約60日で唾液腺に類似した構造体の発生が確認された。組織学的な解析、およびsingle cell RNA-seqの結果、このiPS細胞由来の組織は胎生期唾液腺と酷似していた。さらに、このヒト唾液腺オルガノイドは唾液腺を切除した免疫不全マウスに同所的に移植することが可能で、移植後一ヶ月には成熟した唾液腺の組織構造を示した。
 次にヒト唾液腺オルガノイドの応用可能性として疾患モデルとしての検証を行った。COVID19患者の剖検例の解析より唾液腺からSARS-CoV-2が検出されたことが報告されたため、ヒト唾液腺オルガノイドに感染可能かについて解析した。解析の結果、唾液腺オルガノイドにはSARS-CoV-2が感染可能で導管上皮細胞においてウイルスの複製が起き培養液中にウイルス粒子を放出していることが明らかとなった。これらの結果はヒト唾液腺オルガノイドの利用によってSARS-CoV-2唾液腺感染の一部をin vitroで再現したものと考えられる。