10:45 〜 11:10
[SGL40-01] 南海トラフ泥火山の熱・物質輸送から地震発生帯の状態を推定する試み
★招待講演
キーワード:南海トラフ地震発生帯、泥火山、熱流量異常
泥火山は、海溝陸側斜面から前弧海盆にかけて見られる円錐状の構造体である。その頂部に泥が噴出したような形状が見られたり、地下にはdiapir状の構造が水平地層を切っている。深部からの水と、それに伴う堆積物が噴出している。世界の泥火山に関する調査は、地中海、北極海、黒海等中央アジア、バイカル湖、台湾・東シナ海・日本周辺、カスカディア~中米海溝・バルバドスまで多岐にわたる。いずれも、周囲の堆積層よりも密度の小さい泥が、何らかの力で押されることで海底に噴出する。その中で、大陸斜面からの海底地すべりや河川のデルタの外縁などにみられるものは、急激な堆積作用の結果として大量の有機物が非排水・非圧密状態となり、過剰間隙水圧が原動力であろう。一方、南海トラフや中米海溝・台湾などは、プレート沈み込みに伴い海溝陸側の堆積層が水平圧縮されることに加え、間隙水のみならず堆積物の脱水等による新たな自由水の発生により、地層中に過剰圧が生じることで、地中の泥質堆積物が海底に噴出していると考えられる。
南海トラフには、熊野海盆上にいくつか顕著な泥火山が存在する。地震探査記録によれば、diapir状の構造が地下深部から海底まで連続している。泥火山噴出物の起源を知る鍵は、ホウ素、リチウム、メタン中の炭素同位体などの化学的トレーサが有用である。中でもLiは岩石ー水系の温度が250~300℃に達すると流体中のLiの濃度が急激に上昇し、その後冷却しても沈殿せず流体相にとどまることが知られている。このことを利用した熊野泥火山堆積物中の間隙水のLi同位体異常から、その間隙水が経験した最高被熱温度が300℃程度だったと分かった(Nishio et al., 2015)。熊野海盆の平均地温勾配が40mK/m程度であるので、単純計算で300℃の環境は地下7~8㎞に対応するようだ。実際には深度とともに温度勾配は減少するし、そもそも温度分布はプレートの沈み込みやプレート境界面で発生する巨大地震、あるいは地質時間スケールで発達する付加体といった活動により時間とともに変動するであろう。地下温度の時空分布を推定するために、海底での熱流量分布(BSR深度からの推定や、海底での計測による)を知った上で、プレート沈み込みとそれに伴う堆積物の移動や圧密等を考慮に入れたモデル計算が必要となる。例えばHarris et al. (2011 G3)によると、300℃に達するのは地下約20㎞である。
一方、泥火山の成長に関わる流体排出速度の指標としては、コア試料中の間隙水化学組成(塩素や硫酸イオン濃度等)や熱流量プローブによる地温勾配の非線形分布、ハイドレート安定領域下限としてのBSR深度の異常、などが重要である。熊野沖の第4泥火山(KK4)における熱流量測定の結果、泥火山の頂部地形効果により頂部が泥火山の裾野(~70 mW?m2)に比べてかなり熱流量が低い(~20 mW/m2) ことが分かった。Goto et al. (2007 AGU)は、この異常を地形効果とdiapir内部の流体上昇の相乗効果で説明した。それに必要なだるしー速度は1mm/yrarの程度であると推定した。なお黒海や北極海のHakon Mosby泥火山頂部では、10-40K/mとという、極めて高い表層地温勾配が観測され、10-30cm/yearというダルシー速度が推定されている。おそらくは熊野泥火山でもある時期にはこのような活発な湧出活動はあり得るであろう。そのような上昇を生じるための原動力として、上述のような地下深部における間隙水圧異常を仮定することができる。もしそれが巨大地震の震源断層上で起きているならば、断層の有効強度が推定できることになり、南海トラフ地震発生の切迫度評価に重要な貢献をなすことが期待できる。
なお、最近、熊野海盆の南端、外縁隆起帯付近で、海底泥火山活動および巨大路頭が存在することが、AUV観測により確認された(浅田ほか、本大会)。この部分は地震断層深度が海底下3㎞程度と浅く、推定温度も100℃程度と低い。陸側の泥火山との関係など、今後さらに調査・考察が必要である。
南海トラフには、熊野海盆上にいくつか顕著な泥火山が存在する。地震探査記録によれば、diapir状の構造が地下深部から海底まで連続している。泥火山噴出物の起源を知る鍵は、ホウ素、リチウム、メタン中の炭素同位体などの化学的トレーサが有用である。中でもLiは岩石ー水系の温度が250~300℃に達すると流体中のLiの濃度が急激に上昇し、その後冷却しても沈殿せず流体相にとどまることが知られている。このことを利用した熊野泥火山堆積物中の間隙水のLi同位体異常から、その間隙水が経験した最高被熱温度が300℃程度だったと分かった(Nishio et al., 2015)。熊野海盆の平均地温勾配が40mK/m程度であるので、単純計算で300℃の環境は地下7~8㎞に対応するようだ。実際には深度とともに温度勾配は減少するし、そもそも温度分布はプレートの沈み込みやプレート境界面で発生する巨大地震、あるいは地質時間スケールで発達する付加体といった活動により時間とともに変動するであろう。地下温度の時空分布を推定するために、海底での熱流量分布(BSR深度からの推定や、海底での計測による)を知った上で、プレート沈み込みとそれに伴う堆積物の移動や圧密等を考慮に入れたモデル計算が必要となる。例えばHarris et al. (2011 G3)によると、300℃に達するのは地下約20㎞である。
一方、泥火山の成長に関わる流体排出速度の指標としては、コア試料中の間隙水化学組成(塩素や硫酸イオン濃度等)や熱流量プローブによる地温勾配の非線形分布、ハイドレート安定領域下限としてのBSR深度の異常、などが重要である。熊野沖の第4泥火山(KK4)における熱流量測定の結果、泥火山の頂部地形効果により頂部が泥火山の裾野(~70 mW?m2)に比べてかなり熱流量が低い(~20 mW/m2) ことが分かった。Goto et al. (2007 AGU)は、この異常を地形効果とdiapir内部の流体上昇の相乗効果で説明した。それに必要なだるしー速度は1mm/yrarの程度であると推定した。なお黒海や北極海のHakon Mosby泥火山頂部では、10-40K/mとという、極めて高い表層地温勾配が観測され、10-30cm/yearというダルシー速度が推定されている。おそらくは熊野泥火山でもある時期にはこのような活発な湧出活動はあり得るであろう。そのような上昇を生じるための原動力として、上述のような地下深部における間隙水圧異常を仮定することができる。もしそれが巨大地震の震源断層上で起きているならば、断層の有効強度が推定できることになり、南海トラフ地震発生の切迫度評価に重要な貢献をなすことが期待できる。
なお、最近、熊野海盆の南端、外縁隆起帯付近で、海底泥火山活動および巨大路頭が存在することが、AUV観測により確認された(浅田ほか、本大会)。この部分は地震断層深度が海底下3㎞程度と浅く、推定温度も100℃程度と低い。陸側の泥火山との関係など、今後さらに調査・考察が必要である。