日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC29] 火山の熱水系

2021年6月6日(日) 17:15 〜 18:30 Ch.13

コンビーナ:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、神田 径(東京工業大学理学院火山流体研究センター)、大場 武(東海大学理学部化学科)

17:15 〜 18:30

[SVC29-P01] 阿蘇カルデラ周辺の地下水組成:多変量統計解析による独立変量と空間変化の検出

*岩森 光1、中村 仁美2、森川 徳敏2、高橋 正明2、稲村 明彦2、原口 悟1、西澤 達治3、坂田 周平1 (1.東京大学・地震研究所、2.産業技術総合研究所、3.東京工業大学)

キーワード:地下水、組成、火山、深部流体、統計解析

地下水(温泉水、鉱泉水、湧水等)の組成とその多様性は、流体のソース、水-岩石反応、流量や滞留時間など、地下水の起源と循環過程を反映している。例えば、水素-酸素同位体比による流体ソースの識別(Matsubaya et al., 1973)、Sr同位体比による基盤岩との反応(Notsu et al., 1991)、ヘリウム同位体比に基づく深部湧水の滞留時間評価(Morikawa et al., 2005)などである。したがって、地下水の複数の組成項目に関する分析結果を統合することにより、流体の起源や循環プロセスをより包括的にとらえることが可能である。Kusuda et al.(2014)は、水素-酸素-Sr同位体比と主要溶存元素の相関関係および沈み込むプレートの脱水シミュレーションを組み合わせ、有馬温泉水が沈み込んだフィリピン海プレートに由来する可能性を定量的に示した。また、Nakamura et al.(2016)およびIwamori et al.(2020)は、希土類元素組成を含む組成多変量解析により、有馬-紀伊半島に分布する有馬型塩水がプレート起源である可能性を確かめるとともに、上昇途中での複数の過程を識別した。

本研究では、九州中央部、阿蘇カルデラ内および阿蘇火山をとりまくおよそ東西120㎞、南北80kmの地域に分布する地下水(温泉水・鉱泉水・湧水等)の既存の組成データセット(高橋ほか, 2018)に基づき、地下水組成に記録されているソースや移動過程でのプロセスを同定することを目的とする。特に、表層付近の天水およびその循環に伴う成分と、火山性由来および深部由来の流体成分とを識別し、(1)阿蘇火山下のマグマ活動にともなう流体循環、(2)より広域的(阿蘇・九重火山を含む)かつ深部(沈み込むスラブにまでさかのぼる)におよぶ領域での流体循環とアクティブテクトニクスとの関連を明らかにすることを目指している。

本発表は、このためのパイロットスタディーとして、主要溶存元素12項目(Na, K, Mg, Ca, Li, Cl, SO4, HCO3, F, NO3, Br, Total Carbon)を含む590試料のデータ統計解析を行い、この高次元組成データセットから独立なソースやプロセスの情報が引き出せるかどうかの検討を行った。用いた統計解析手法は、「白色化データに関するk-meansクラスタ分析(KCA)」および「独立成分分析(ICA)」(Iwamori et al., 2017)である。標準的な多変量解析である「主成分分析(PCA)」は、データが(高次元)正規分布を示す場合にのみ、独立なソースやプロセスに対応する情報を引き出すことが可能であるが、非正規分布を示すデータの場合、上記のKCAおよびICAを用いる必要がある。今回用いたデータセットは、明瞭な非正規性を示し、KCA/ICAが適する。そこで、データセットの固有値解析に基づき、クラスタ・独立成分の数を8つに設定し、その組成空間および地理的分布における統計的に独立な特徴の検出を試みた。

その結果、阿蘇カルデラ内および阿蘇火山をとりまく地域の両方において、同心円状の空間構造(8つのクラスタ)が存在し、その外側に向かっておおまかにはNa, Li, Cl, HCO3, Br, Total Carbonが減少する(それぞれの元素の、クラスタ毎の平均値が減少する)ことが分かった。カルデラ内だけに注目した場合にも、主に4つのクラスタが同心円状に分布し、そのうちの2つは、玄武岩および珪長質の岩体・溶岩をとりまくように分布していることが分かった。この火山岩にともなう2つのクラスタは、阿蘇カルデラ以外では久住山付近を中心とする九重火山に特徴的に出現することも分かり、マグマ活動に伴うものであると考えられる。

これらのクラスタの分布および組成上の特徴は、KCA/ICA解析が、地下水の起源と循環に関わる独立なソース・プロセス、特に火山性成分の検出・識別に有効であることを示唆している。今後、個々のクラスタの特徴を、より多くの溶存元素や同位体組成を用いてキャラクタリゼーションするとともに、他の火山地域への適用を進める予定である。本研究はJSPS科研費JP18H03747、JPJSBP120204804、JP17KK0018、JPJSBP120194830の助成を受けた。また、本研究の一部は、原子力規制委員会原子力規制庁「令和2年度原子力施設等防災対策等委託費(巨大噴火プロセス等の知見整備に係る研究)」として実施したものである。