日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI29] 計算科学が拓く宇宙惑星地球科学

2024年5月29日(水) 09:00 〜 10:30 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:大淵 済(神戸大学)、牧野 淳一郎(国立大学法人神戸大学)、亀山 真典(国立大学法人愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、堀田 英之(名古屋大学)、座長:大淵 済(神戸大学)

09:45 〜 10:00

[MGI29-04] 高速回転する球殻内の非弾性熱対流と木星型惑星大気の表面帯状構造

*佐々木 洋平1竹広 真一2、石岡 圭一3榎本 剛4中島 健介5林 祥介6 (1.北海道情報大学情報メディア学部、2.京都大学数理解析研究所、3.京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻、4.京都大学防災研究所、5.九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門、6.神戸大学理学研究科惑星学専攻/CPS)

キーワード:木星型惑星、非弾性系、平均帯状流、縞状構造

木星型惑星(木星・土星)表層大気の力学的な特色である縞状パターンはこれまでに多くの大気科学研究者の関心を引いてきたが,これらの特徴を矛盾なく整合的に説明できる満足な力学的描像と理解は得られてはいない.本研究は,スーパーコンピュータを用いて全球規模から微細規模対流までにわたる空間スケールを統一的にあつかう大規模数値計算を実行することで,従来の数値モデルでは表現できなかった微細規模の対流や乱流の構造を解像し,木星型惑星大気に見られる表面流の大規模構造の力学的成因を解明することを目指している.

木星型惑星大気の縞状パターンを説明する有力なモデルカテゴリーの一つは流体層の厚さが惑星半径に匹敵する一連の「深い」モデルである.高速回転する球殻中の熱対流が引き起こす帯状流により表層の縞状構造を説明することを試みるこのモデルでは, 赤道域の順行するジェットは容易に生成されるものの, 中高緯度の交互に表われるジェットの生成が困難であった.「深い」モデルのこの問題に対して Heimpel and Aurnou (2007) (以下,HA2007)は,球殻の厚さを従来の研究で用いられて来たよりも薄くした数値実験を行い,レイリー数が十分大きく内球接円筒での対流活動が活発な場合に赤道域の順行流と中高緯度の交互に現われる狭いジェットが共存して発現できることを示した.HA2007 ではブシネスク流体を用いていたが,より現実的と思われる非弾性近似を用いての同様な研究が縞状構造生成を説明するべく現在に至るまで続けられている(例えば, Heimpel et al, 2015 など).

しかしながら, これら一連の研究では経度方向に対称性を仮定しており全球の一部のセクター領域の運動しか解いていない.加えて,高速回転中の熱対流を解像するための計算資源の節約のために超粘性を導入し,水平高解像成分の散逸を人工的に高めている.散逸過程の性質の意図的な変更は生成される流れ場に大きく影響していることが予想されるが,その検証はきちんとなされていない.そこで我々は,HA2007 の設定のもとでの薄い回転球殻内のブシネスク熱対流の長時間数値計算を全球領域で遂行してきた.その結果,時間とともに中高緯度において複数の東西ジェットが融合して 1 本の順行ジェットとなり,中高緯度の縞状構造が消失してしまうことを見出した.

本研究では,非弾性系でもブシネスク系と同様な長期時間発展が起こるのではないかと想定し,非弾性系での最も高解像な計算である Heimpel et al.(2015) の設定での薄い回転球殻内の熱対流の全球領域での長時間数値計算を試みた.中高緯度において複数ジェットが長時間後に融合し縞状構造が消失していくのか否かが注目点である.比較のため,Heimpel et al.(2015) と同様の経度方向 4 回対称性を課した計算も並行して実行した.いずれの場合も初期に赤道域の強い幅広の順行ジェットと中高緯度に交互に向きが入れ換わる複数の幅狭のジェットが出現し,木星型大気の表層パターンに似た縞状の帯状風分布が観察された.時間とともに中高緯度のジェットが融合し,20000 回転時間において 2 本の順行ジェットと 1 本の逆行ジェットにまで減少した.しかしながら運動エネルギーはまだ増加しており,統計的平衡状態に達していない.引き続き時間積分を遂行し, 縞状構造の遷移や性質を観察していく予定である.