日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT37] 稠密多点GNSS観測が切り拓く地球科学の新展開

2024年5月29日(水) 13:45 〜 15:00 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:太田 雄策(東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)、西村 卓也(京都大学防災研究所)、大塚 雄一(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、藤田 実季子(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、座長:大園 真子(北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター)、道家 涼介(弘前大学大学院理工学研究科)

14:30 〜 14:45

[MTT37-04] 稠密GNSS観測より推定される箱根火山周辺の非定常地殻変動と新たな活動像

*道家 涼介1本多 亮2萬年 一剛2 (1.弘前大学大学院理工学研究科、2.神奈川県温泉地学研究所)

箱根火山では2001年以降、群発地震活動が数年に1回の頻度で発生しており、それに伴う山体膨張が、傾斜観測やGNSS観測により繰り返し観測されてきた(例えば、代田ほか、2009火山;Kobayashi et al., 2018EPSL;Harada et al., 2018EPSなど)。同火山における山体膨張は、これまで深さ約5〜7 km付近における深部の茂木ソースと、上端が海抜0m付近の浅部の開口クラックにより説明がなされてきた。一方、2008-2009年、2019年イベントなどでは、必ずしも従来モデルでは説明ができない地殻変動も観測されている。本発表では、GEONET観測点に加え、温泉地学研究所、気象庁、ソフトバンクの観測点からなる稠密なGNSS観測網から明らかとなった2023年7月からの地殻変動イベントについて報告を行う。
2023年イベントでは、同年7月に箱根火山の東にある、足柄平野付近の北東方向への変位が顕著になった後、同年8月末までに箱根カルデラ内やその西側で、箱根火山を中心とした膨脹と解釈できるような変位が顕著となるという時間経過が見られた。この経過は、足柄平野下における非定常的な地殻変動の発生が、箱根火山における地殻変動を誘発しているようにみえ、注目される。足柄平野における非定常的な地殻変動の原因は一義的ではないものの、7月時点の顕著な変位は、箱根火山の東側の深さ10km以深に低角なすべりを与えると説明することができる。
Doke et al. (2020GSL) は、伊豆半島の北東部に剪断変形帯の存在を指摘しており、その原因として、中部から下部地殻におけるデタッチメントの存在(Seno, 2005EPS)を仮定している。深部における低角なすべりは、こうした構造との関係を示唆している可能性がある。また、箱根火山の活動は、周辺地域における活断層の活動時期と相関があることから、同火山が周辺テクトニクスにより支配されていることが度々指摘されている(高橋ほか、1999月刊地球;小林ほか、2006火山;道家ほか、2021地学雑誌など)。2023年に観測された事象は、このことを支持する結果と言える。
なお、2019年に箱根火山周辺で観測された地殻変動も足柄平野付近の変位が大きいが、従来モデルではその変位を十分に説明できておらず(道家ほか、2019温地研報告)、今回と同様なメカニズムによる可能性がある。さらに過去のイベントに遡ると、明らかに茂木ソースで説明が可能な2001年や2015年イベントなどは、比較的高速度の東西基線長の伸びが観測されるのに対し、2008-2009年、2017年、2019年、2021年、2023年イベントは相対的に低速度である。このことは、両者のイベントにおけるソースの位置・形状の違いを反映している可能性があり、過去データについての再検討が必要である。加えて、2015年の水蒸気噴火後に低速度のイベントの発生が顕著なのは、水蒸気噴火時にキャップロックおよびシーリング構造が破壊されたことにより、地下で圧力を溜められなくなった(Mannen et al., 2021EPS)ことに起因しているかもしれない。

本研究で使用したGNSSデータの一部は、「ソフトバンク独自基準点データの宇宙地球科学用途利活用コンソーシアム」を通して、ソフトバンク株式会社およびALES株式会社により提供されました。加えて、国土地理院、気象庁によるGNSS観測点のデータも使用させていただきました。