13:45 〜 15:15
[O08-P101] 微小重力時間1秒を目指す!ドラッグシールド式落下実験装置の開発
キーワード:微小重力、ドラッグシールド、gクオリティ、空気抵抗
1. 背景
1-1. 動機
私たちは「10年後の宇宙生活を豊かに」を目標に掲げ、宇宙生活を豊かにすることにつながる基礎実験を行っている。この基礎実験とは実験装置を校舎の3階から落下させて、自由落下中に重力と慣性力がつり合うことを利用した微小重力実験である。これまで実験装置を段ボール箱に入れて落下させる実験を行ってきたが、この方法では空気抵抗力の影響で良質な微小重力状態にすることができず、また、装置の落下中の振動が大きかったり水平が保てなかったりするため、正確な微小重力実験を行うことができない。
本研究では微小重力の質(gクオリティ)を「重力レベルに加えて振動や装置の水平などについても考慮した、微小重力実験の質を評価するという観点」と定義して、その向上のためのドラッグシールド式落下実験装置(以下、TGμ-DS1と呼ぶこととする)を開発した。なお、重力レベル[G]は[(重力-慣性力)/重力]と定義する。TGμ-DS1により、大学などに設置されるような特別な設備等を必要とせずに高校内で高水準のgクオリティ下での微小重力実験を行えるようになると考えられる。
1-2. 本研究の独創性
本研究には、落下塔実験を行う上で大規模な実験設備が不要、校内で安全かつ質の高い実験が繰り返し実施可能で、比較的安価な材料を用いており、実験の再現が容易であるという特色がある。
高校における微小重力実験としては、野村らによる研究(野村ら, 2011)がある。野村らによる研究では、室内実験によっておよそ0.45秒間、0.002±0.004[G]の環境を作った。一方で日本大学の落下塔は約1.1秒間、10-3[G]の環境を保つことができる。そこで本研究では実験装置を約10mの高さから落下させることで、微小重力持続時間を約1秒間まで延長することを目指している。
2. 方法
落下に従いTGμ-DS1は空気抵抗力を受けて、落下の瞬間に微小重力状態だったドラッグシールド内にはわずかな加速度が残ってしまう。しかしTGμ-DS1は二重構造となっており、内カプセルと内カプセルの中の実験装置はドラッグシールドの内部で独立して動く仕組みになっているため、実験装置では空気抵抗による影響をほぼ受けずにゼロに近い重力レベルを保つことができる。なお、カプセルを二重構造にすることは、日本大学生産工学部の落下実験塔を参考にした。
TGμ-DS1の各機構の詳細な説明は、表1に示した。
本実験では製作した実験装置のgクオリティを測定することを目的とし、校舎の3階から約10m落下させた。ワイヤレス加速度センサGDX-ACC(GoDirect)を内カプセルに取り付けた。
3. 結果
本実験では落下開始から0.2秒後からの0.55秒間において-0.004[G]±0.018(sd) [G]の環境を作ることに成功した。0.75秒後にグラフの比較的大きな乱れが見られ、gクオリティが下がっている。
4. 考察
上記の結果からドラッグシールドよりも内カプセルの方が空気抵抗力を受けにくく、空気抵抗力による加速度の減少を抑えることができると考えられる。よって二重構造によりgクオリティが向上したといえる。
そして従来の段ボールの実験装置は平均0.1[G]の環境であったため、約10mの落下実験によっても実際に高いgクオリティの環境を作ることができたと考えられる。
また落下開始0.75秒後にgクオリティが下がっているのは、内カプセルの中を撮影した動画より、内カプセルがドラッグシールドに接触したためであると考える。これは、ドラッグシールドの空気抵抗が想定より大きかったためだと考えられる。
5. 結論
校舎の三階からの落下実験で二重構造のカプセルを用いたTGμ-DS1により、0.55秒間の高gクオリティの環境(-0.004[G]±0.018(sd))を作る示唆が得られた。
6. 今後の課題
実験回数が足りず、実験操作をより円滑に行う必要がある。加えて保持ワイヤーとTGμ-DS1の接続を切るときに振動を加えてしまうという問題がある。これら二つの問題を解決するために落下装置の制作を計画している。
ドラッグシールドが想定よりも早く内カプセルに接触してしまい、本研究の独創性であった、微小重力持続時間を1秒間にするという目標を達成できなかった。ノーズコーンや上部エアロパーツの形状を見直し、ドラッグシールドが受ける空気抵抗力を小さくして良質なgクオリティが続く時間の延長を目指したい。
参考文献
大阪府立春日丘高等学校 野村悠祐,太田靖次郎,藤丸祐樹. 〜室内で利用できる小型微小重力発生装置の製作と改良〜. 2011
日本大学生産工学部 野村浩司. 小型落下塔を利用した超臨界雰囲気中の燃料液滴蒸発に関する研究. 2006
1-1. 動機
私たちは「10年後の宇宙生活を豊かに」を目標に掲げ、宇宙生活を豊かにすることにつながる基礎実験を行っている。この基礎実験とは実験装置を校舎の3階から落下させて、自由落下中に重力と慣性力がつり合うことを利用した微小重力実験である。これまで実験装置を段ボール箱に入れて落下させる実験を行ってきたが、この方法では空気抵抗力の影響で良質な微小重力状態にすることができず、また、装置の落下中の振動が大きかったり水平が保てなかったりするため、正確な微小重力実験を行うことができない。
本研究では微小重力の質(gクオリティ)を「重力レベルに加えて振動や装置の水平などについても考慮した、微小重力実験の質を評価するという観点」と定義して、その向上のためのドラッグシールド式落下実験装置(以下、TGμ-DS1と呼ぶこととする)を開発した。なお、重力レベル[G]は[(重力-慣性力)/重力]と定義する。TGμ-DS1により、大学などに設置されるような特別な設備等を必要とせずに高校内で高水準のgクオリティ下での微小重力実験を行えるようになると考えられる。
1-2. 本研究の独創性
本研究には、落下塔実験を行う上で大規模な実験設備が不要、校内で安全かつ質の高い実験が繰り返し実施可能で、比較的安価な材料を用いており、実験の再現が容易であるという特色がある。
高校における微小重力実験としては、野村らによる研究(野村ら, 2011)がある。野村らによる研究では、室内実験によっておよそ0.45秒間、0.002±0.004[G]の環境を作った。一方で日本大学の落下塔は約1.1秒間、10-3[G]の環境を保つことができる。そこで本研究では実験装置を約10mの高さから落下させることで、微小重力持続時間を約1秒間まで延長することを目指している。
2. 方法
落下に従いTGμ-DS1は空気抵抗力を受けて、落下の瞬間に微小重力状態だったドラッグシールド内にはわずかな加速度が残ってしまう。しかしTGμ-DS1は二重構造となっており、内カプセルと内カプセルの中の実験装置はドラッグシールドの内部で独立して動く仕組みになっているため、実験装置では空気抵抗による影響をほぼ受けずにゼロに近い重力レベルを保つことができる。なお、カプセルを二重構造にすることは、日本大学生産工学部の落下実験塔を参考にした。
TGμ-DS1の各機構の詳細な説明は、表1に示した。
本実験では製作した実験装置のgクオリティを測定することを目的とし、校舎の3階から約10m落下させた。ワイヤレス加速度センサGDX-ACC(GoDirect)を内カプセルに取り付けた。
3. 結果
本実験では落下開始から0.2秒後からの0.55秒間において-0.004[G]±0.018(sd) [G]の環境を作ることに成功した。0.75秒後にグラフの比較的大きな乱れが見られ、gクオリティが下がっている。
4. 考察
上記の結果からドラッグシールドよりも内カプセルの方が空気抵抗力を受けにくく、空気抵抗力による加速度の減少を抑えることができると考えられる。よって二重構造によりgクオリティが向上したといえる。
そして従来の段ボールの実験装置は平均0.1[G]の環境であったため、約10mの落下実験によっても実際に高いgクオリティの環境を作ることができたと考えられる。
また落下開始0.75秒後にgクオリティが下がっているのは、内カプセルの中を撮影した動画より、内カプセルがドラッグシールドに接触したためであると考える。これは、ドラッグシールドの空気抵抗が想定より大きかったためだと考えられる。
5. 結論
校舎の三階からの落下実験で二重構造のカプセルを用いたTGμ-DS1により、0.55秒間の高gクオリティの環境(-0.004[G]±0.018(sd))を作る示唆が得られた。
6. 今後の課題
実験回数が足りず、実験操作をより円滑に行う必要がある。加えて保持ワイヤーとTGμ-DS1の接続を切るときに振動を加えてしまうという問題がある。これら二つの問題を解決するために落下装置の制作を計画している。
ドラッグシールドが想定よりも早く内カプセルに接触してしまい、本研究の独創性であった、微小重力持続時間を1秒間にするという目標を達成できなかった。ノーズコーンや上部エアロパーツの形状を見直し、ドラッグシールドが受ける空気抵抗力を小さくして良質なgクオリティが続く時間の延長を目指したい。
参考文献
大阪府立春日丘高等学校 野村悠祐,太田靖次郎,藤丸祐樹. 〜室内で利用できる小型微小重力発生装置の製作と改良〜. 2011
日本大学生産工学部 野村浩司. 小型落下塔を利用した超臨界雰囲気中の燃料液滴蒸発に関する研究. 2006