日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 O (パブリック) » パブリック

[O-08] 高校生ポスター発表

2024年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球惑星科学系 岩石鉱物学研究室)、久利 美和(文部科学省)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構)

13:45 〜 15:15

[O08-P70] 潮汐流と海山の作用から考える、深層海流の湧昇について ー拡散係数を用いた定量的解析ー

*田口 翔陽1、*近藤 寛人1、*宮川 陽輝1、*萬谷 龍1、井川 一美1 (1.神奈川県逗子開成高等学校)

キーワード:海洋、環境

昨今の地球温暖化についての議論において、あらゆる自然現象の相互的な関連性が指摘されている。その中で海洋現象は、中長期的な地球環境の変動と相互に関係を持つ自然現象である。人類はこれまで、海に関わる現象を把握し、生活への利用や仕組みの解明を行ってきた。その最たる例が、海流現象だろう。巨視的にみた海水の流れを分析することによって、その背後にある地形や風流、温度等の要素との因果関係の考察が得られることは言うまでもない。本研究では、海洋全体を取り巻く海水の大循環である深層海流にスポットを当て、それらを引き起こす要因についての議論を行った。深層海流とは熱塩循環の一種で、地球全体のエネルギーや塩分濃度のバランスを取ろうとする作用である。北大西洋沖から、南極、さらには北太平洋にかけての、数千年に及ぶ移流現象である。深層海流を駆動する仕組みとして、北大西洋沖で表層水の凍結により高密度化した海水が沈降することは分かっている。一方で、沈降した海水の量に相当する湧昇を引き起こす要因については海洋物理学において問題(Missing Mixing)とされてきたが、近年の研究において、その問題を解決する鍵として潮汐力があることが分かってきた。潮汐力とは、地球と月の回転系による円運動を考えて示されるように、地球の質量分布の非一様性から生じる力である。その力によって引き起こされる水の流れが潮汐流であり、その流れが海山に衝突することで乱流が発生し、深層海流の湧昇が起こるという説が提唱されている。しかしながら、この説をもとに算出された湧昇量は実際の湧昇量に及ばず、Missing Mixing問題の解決には至っていない。そこで本研究では、潮汐流と海山の作用による乱流に着目し、湧昇の起こりやすい地形環境について考察することを目指し、乱流の発生度合いが海山の傾斜に依存するか否かを調べる実験を行った。この上で、実験モデルとして、海山に衝突する潮汐流を、水槽の中で海山を移動させて相対的に作り出すという方法を取り入れた。そして、海山から一定の高さにインク層を設置し、海山移動後のインク層の拡散を乱流拡散係数として測定した。次に、この実験における乱流拡散の算出方法について具体的に述べていきたい。拡散係数とは、偏微分形で表される拡散方程式における比例係数である。この係数にはSI単位系において[m2/s]の単位が付き、単位時間辺りに通過する物質の量として表される。すなわち、この係数を実験の中で算出していくことで、海山の移動によって拡散された物質の量、すなわち乱流発生の度合いを比較できるだろう。本研究の実験では、始めに1cmの青インクで着色された層が、海山を移動させた後に単位時間辺り鉛直方向にどのくらい変位したかを画像解析ソフトフェア(ImageJ)を用いて調べ、数値化した。これらの実験を、高さを固定し、傾斜角度をそれぞれ30度、45度、60度などに設定した模擬海山ごとに、インク着色層ごとに行った。また、この実験モデルにおいて、水槽の壁による反射やインク層の粘性など、実際の深層海流において発生しない要素による影響についても考慮する必要がある。実験データを蓄積した上で対照実験を実施し、実験の再現性や精度を向上させることも視野に入れる。今後の展望として、実験モデルの改良を考えていきたい。本研究の実験モデルでは、海山の移動という方法を用いて、相対的に水の流れを作り出したが、これと実際の潮汐流にどのくらい性質的な違いがあるのかについては非常に興味深い。例えば、潮汐流の波動的な性質や海山との衝突など、これまでに考慮されていなかった要素があるならば、それらを加味しなければいけない。さらに、潮汐流や乱流の持つ運動エネルギーに着目するといった新たな視点でも考えていきたい。今回の深層海流の研究を通じて、単なる知識を得ることだけでなく、明確な答えの存在しない問いに対するアプローチを体験でき、大学以降の学びへと活かしていきたいと感じた。今後の、海洋物理学のさらなる発展を願っている。