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[SVC27-P08] 高密度電気探査による地下構造に基づいた水蒸気噴火の給源火口候補の検証
キーワード:箱根火山、火口地形、高密度電気探査、比抵抗構造、地形判読
航空レーザ計測による詳細な地形データが得られるようになってから、空中写真などでは検出困難な小規模な、しかし、明瞭な火口地形の存在がいくつかの火山で新たに明らかになってきた(例えば、千葉ほか, 2007)。とはいえ、地形のみから火口と認定することは恣意的であるという批判を免れず、本来は火口周辺のトレンチ調査等で対応する噴出物を検出することが望ましい。一方、トレンチ調査で必ずしも対応する噴出物が確認できるわけではなく、特に国立公園や私有地などでは掘削自体に制限がある。
箱根火山では、小林ほか(2022)や及川(2023)により航空レーザ計測データを活用した火口地形の地形判読が実施されているが、国立公園に指定されているため、すべての火口地形でボーリングやトレンチ調査を実施することは困難である。そこで、我々は火口地形の直下で火道などの火口特有の構造を検出することにより、火口認定の確実性を向上させることを目的として、大涌谷北西の人工林内に分布する割れ目火口列で高密度電気探査を実施した。高密度電気探査の測線は、割れ目火口列に直交するLine1と、割れ目火口列の底部を割れ目に平行するLine2の2本を設定した(図1)。いずれも、測線長は160m、電極間隔は4mとした。探査深度は約30mであった。
その結果、Line1(図2)では標高950~960mで安山岩溶岩とみられる高比抵抗域と、その下位に熱水変質堆積物とみられる低比抵抗域が連続的に分布することがわかった。注目すべき点は、火口地形直下(測線100m付近)で、この高比抵抗域の連続性が途切れ、中~低比抵抗域が鉛直方向に分布し、下位の低比抵抗域に接続するように見えることである。この火口地形直下の特異な構造は、噴火により当初あった安山岩溶岩を吹き飛ばし、熱水変質堆積物など低比抵抗を示す堆積物を代わりに充填した、火道と解釈できる。Line2(図3)でも、標高950~960m付近の安山岩溶岩とみられる高比抵抗域と、標高950m以深に中~低比抵抗域が、Line1と同様に確認された。ただし、標高950~960m付近の高比抵抗域は、Line1でみられた厚さ一定の連続的なものでは無く、ところどころ中比抵抗域が挟まれる。この中比抵抗域は、測線上の火道を反映したものかも知れないが、測線に平行する火口地形の両側の高比抵抗域の影響によって生じている可能性もある。そのため、Line1ほど良い解像度とはならなかったものとみられる。
このように我々の試みにより、高密度電気探査は火道を検出することが可能で、火口の認定に一つの重要な根拠を与える可能性が示唆された。さらに、高密度電気探査は、比較的安価かつ、短時間で探査と解析が可能である。こうした特性から、火口認定の一助としてだけでなく、堆積物検出のためのトレンチ調査地点の選定といった、より詳細な地質調査の予備調査として調査を検討すべき手法であると考えられる。火道の検出を目的とする高密度電気探査では、今回得られた知見を踏まえると、火口列と直交する複数の測線を設定して実施したほうが良いと考えられる。
なお、今回の高密度電気探査地点の選定するために、大涌谷北西方向の火口列周辺において火口地形の判読を新たに実施した結果、小林ほか(2022)や及川(2023)では判読されていない新たな火口地形とされる箇所を抽出することができたので、発表では本事項についても報告する。この地形判読に用いた赤色立体地図は、神奈川県が取得した最新の航空レーザ計測データで (平成31年度水源林林況当基礎調査業務委託、神奈川県環境農政局緑政森林再生課長承認、令和5年、森第1306号)、レーザ点群密度0.5mの精度で取得されたデータから作成した。
【引用文献」
千葉達朗・冨田陽子・鈴木雄介・荒井健一・藤井紀綱・宮地直道・小泉市朗・中島幸信 (2007) 航空レーザ計測にもとづく青木ヶ原溶岩の微地形解析.富士火山,山梨県環境科学研究所,p.349-363
小林 淳・萬年一剛・山口珠美・長井雅史(2022) 箱根火山最新期噴火活動に関連した地形と堆積物.月刊地球,Vol.44,No.3
及川輝樹(2023) 箱根火山(箱根山)の火口データ.地質調査総合センター研究資料集, no. 745, 4p.
箱根火山では、小林ほか(2022)や及川(2023)により航空レーザ計測データを活用した火口地形の地形判読が実施されているが、国立公園に指定されているため、すべての火口地形でボーリングやトレンチ調査を実施することは困難である。そこで、我々は火口地形の直下で火道などの火口特有の構造を検出することにより、火口認定の確実性を向上させることを目的として、大涌谷北西の人工林内に分布する割れ目火口列で高密度電気探査を実施した。高密度電気探査の測線は、割れ目火口列に直交するLine1と、割れ目火口列の底部を割れ目に平行するLine2の2本を設定した(図1)。いずれも、測線長は160m、電極間隔は4mとした。探査深度は約30mであった。
その結果、Line1(図2)では標高950~960mで安山岩溶岩とみられる高比抵抗域と、その下位に熱水変質堆積物とみられる低比抵抗域が連続的に分布することがわかった。注目すべき点は、火口地形直下(測線100m付近)で、この高比抵抗域の連続性が途切れ、中~低比抵抗域が鉛直方向に分布し、下位の低比抵抗域に接続するように見えることである。この火口地形直下の特異な構造は、噴火により当初あった安山岩溶岩を吹き飛ばし、熱水変質堆積物など低比抵抗を示す堆積物を代わりに充填した、火道と解釈できる。Line2(図3)でも、標高950~960m付近の安山岩溶岩とみられる高比抵抗域と、標高950m以深に中~低比抵抗域が、Line1と同様に確認された。ただし、標高950~960m付近の高比抵抗域は、Line1でみられた厚さ一定の連続的なものでは無く、ところどころ中比抵抗域が挟まれる。この中比抵抗域は、測線上の火道を反映したものかも知れないが、測線に平行する火口地形の両側の高比抵抗域の影響によって生じている可能性もある。そのため、Line1ほど良い解像度とはならなかったものとみられる。
このように我々の試みにより、高密度電気探査は火道を検出することが可能で、火口の認定に一つの重要な根拠を与える可能性が示唆された。さらに、高密度電気探査は、比較的安価かつ、短時間で探査と解析が可能である。こうした特性から、火口認定の一助としてだけでなく、堆積物検出のためのトレンチ調査地点の選定といった、より詳細な地質調査の予備調査として調査を検討すべき手法であると考えられる。火道の検出を目的とする高密度電気探査では、今回得られた知見を踏まえると、火口列と直交する複数の測線を設定して実施したほうが良いと考えられる。
なお、今回の高密度電気探査地点の選定するために、大涌谷北西方向の火口列周辺において火口地形の判読を新たに実施した結果、小林ほか(2022)や及川(2023)では判読されていない新たな火口地形とされる箇所を抽出することができたので、発表では本事項についても報告する。この地形判読に用いた赤色立体地図は、神奈川県が取得した最新の航空レーザ計測データで (平成31年度水源林林況当基礎調査業務委託、神奈川県環境農政局緑政森林再生課長承認、令和5年、森第1306号)、レーザ点群密度0.5mの精度で取得されたデータから作成した。
【引用文献」
千葉達朗・冨田陽子・鈴木雄介・荒井健一・藤井紀綱・宮地直道・小泉市朗・中島幸信 (2007) 航空レーザ計測にもとづく青木ヶ原溶岩の微地形解析.富士火山,山梨県環境科学研究所,p.349-363
小林 淳・萬年一剛・山口珠美・長井雅史(2022) 箱根火山最新期噴火活動に関連した地形と堆積物.月刊地球,Vol.44,No.3
及川輝樹(2023) 箱根火山(箱根山)の火口データ.地質調査総合センター研究資料集, no. 745, 4p.