[0296] 感覚フィードバックの違いが動的バランスの学習効果に与える影響
キーワード:運動学習, フィードバック, 動的バランス
【はじめに,目的】
立位バランスの改善を目的とする練習方法として感覚フィードバックを用いた練習が一般的に行われている。感覚フィードバックには主として視覚・聴覚・体性感覚が使用されており,その効果は多くの先行研究で示されている。しかし,その効果は姿勢動揺を減少させるための静的バランスを課題としており,随意的に体重心を移動させるための動的バランスについての報告は極めて少ない。加えて,用いられている感覚は視覚が多く,聴覚など他の感覚フィードバックによる学習効果と比較検討した立位バランスに関する研究は筆者らが知る限り見当たらない。従って,本研究はフィードバック練習に用いる感覚の違いが動的バランスの学習効果に与える影響について明らかにすることを目的とした。
【方法】
被験者は,健常若年者18名(平均年齢22.3±1.9歳,平均身長165.8±7.5cm,平均体重56.4±7.9kg)であり,無作為に聴覚刺激をフィードバックに用いた9名(聴覚群)と視覚刺激をフィードバックに用いた9名(視覚群)に割り当てられた。被験者には,床反力計上に裸足で立ち,前方に設置したモニター画面上に表示された前後方向に移動するターゲットに自身の足圧中心(COP)を一致させるように指示した(動的バランス課題)。ターゲットは被験者のCOP最大移動距離の前方80%から後方70%を周波数0.23Hzで移動するようにLabVIEWソフトウェアを用いて作成した。練習課題ではターゲットの他にCOP最大移動距離の前方70~80%,後方60~70%の範囲に被験者のCOPが位置したときに各群に合わせたフィードバックを与えた(聴覚群:スピーカーからの音,視覚群:モニター画面上に赤い点)。課題は1施行30秒とし,1日目には練習前と練習後に動的バランス課題を5施行ずつと練習課題を20施行で合わせて30施行を行い,1日介入のない日を設けて,3日目に動的バランス課題5施行を行った。また,動作開始時の影響を取り除くために,1施行の7周期から最初の1周期を除外した6周期を解析対象とした。動作の正確性の指標として,床反力計から算出された被験者のCOPとターゲットとの間の距離の二乗平均平方根(RMS)を使用した。フィードバック練習の適応および学習効果について調べるために,練習前・練習後・3日目の3群間比較には一元配置分散分析および多重比較を行った。また,両群間(視覚,聴覚)の比較をするために,練習前のRMS値,練習前と練習後のRMS値の差および練習後と3日目のRMS値の差による変化量を算出し,対応のないt検定を行った。検定の有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
被験者には事前に口頭と書面で本研究の目的や実験手順,考えられる危険性などを十分に説明し,書面にて同意を得た。本研究は,当大学院倫理委員会の承認を得て行った。
【結果】
課題間での比較については,聴覚群は練習前と比較して練習後および3日目で有意な低下を示した(p<0.01)。一方,視覚群では練習前と比較して練習後に有意な低下を示したが(p<0.05),3日目は有意差がみられなかった。群間の比較では,練習前のRMS値に有意差はみられなかった。変化量の比較では,練習前後で両群間に有意差はみられなかったが,練習後から3日目を引いた値では視覚群(-4.19±3.62)は聴覚群(0.78±2.38)と比較して有意に小さい値を示した(p<0.01)。
【考察】
練習前の群間比較でRMS値に有意差がみられず,練習前後では両群ともに有意な低下が示された。さらに,その変化量には有意差がみられなかった。従って,動的バランスにおいて聴覚および視覚のフィードバック練習によって同程度の適応効果が示されたと考えられる。しかしながら,聴覚群では3日目においてもその効果の保続が示されたが,視覚群では一日あけることによって練習前の正確性に戻り,変化量の群間比較においても有意差が示された。従って,聴覚フィードバック練習によって学習効果が示されたが,視覚フィードバック練習では学習されにくいことが示唆される。Ronsseらは,両手の協調運動を用いて視覚フィードバック練習では視覚刺激に頼りがちになるが,聴覚フィードバックを用いた場合は刺激に頼らない神経回路が構築されやすいことを明らかにした。よって,随意運動を伴う動的バランス練習においても聴覚刺激の方が運動学習には有効であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
立位バランスにおいて,異なる感覚フィードバックによる学習効果の違いを初めて明らかにした。本研究成果は,視覚に頼らない有効な感覚フィードバック練習を提案するための科学的根拠となる。
立位バランスの改善を目的とする練習方法として感覚フィードバックを用いた練習が一般的に行われている。感覚フィードバックには主として視覚・聴覚・体性感覚が使用されており,その効果は多くの先行研究で示されている。しかし,その効果は姿勢動揺を減少させるための静的バランスを課題としており,随意的に体重心を移動させるための動的バランスについての報告は極めて少ない。加えて,用いられている感覚は視覚が多く,聴覚など他の感覚フィードバックによる学習効果と比較検討した立位バランスに関する研究は筆者らが知る限り見当たらない。従って,本研究はフィードバック練習に用いる感覚の違いが動的バランスの学習効果に与える影響について明らかにすることを目的とした。
【方法】
被験者は,健常若年者18名(平均年齢22.3±1.9歳,平均身長165.8±7.5cm,平均体重56.4±7.9kg)であり,無作為に聴覚刺激をフィードバックに用いた9名(聴覚群)と視覚刺激をフィードバックに用いた9名(視覚群)に割り当てられた。被験者には,床反力計上に裸足で立ち,前方に設置したモニター画面上に表示された前後方向に移動するターゲットに自身の足圧中心(COP)を一致させるように指示した(動的バランス課題)。ターゲットは被験者のCOP最大移動距離の前方80%から後方70%を周波数0.23Hzで移動するようにLabVIEWソフトウェアを用いて作成した。練習課題ではターゲットの他にCOP最大移動距離の前方70~80%,後方60~70%の範囲に被験者のCOPが位置したときに各群に合わせたフィードバックを与えた(聴覚群:スピーカーからの音,視覚群:モニター画面上に赤い点)。課題は1施行30秒とし,1日目には練習前と練習後に動的バランス課題を5施行ずつと練習課題を20施行で合わせて30施行を行い,1日介入のない日を設けて,3日目に動的バランス課題5施行を行った。また,動作開始時の影響を取り除くために,1施行の7周期から最初の1周期を除外した6周期を解析対象とした。動作の正確性の指標として,床反力計から算出された被験者のCOPとターゲットとの間の距離の二乗平均平方根(RMS)を使用した。フィードバック練習の適応および学習効果について調べるために,練習前・練習後・3日目の3群間比較には一元配置分散分析および多重比較を行った。また,両群間(視覚,聴覚)の比較をするために,練習前のRMS値,練習前と練習後のRMS値の差および練習後と3日目のRMS値の差による変化量を算出し,対応のないt検定を行った。検定の有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
被験者には事前に口頭と書面で本研究の目的や実験手順,考えられる危険性などを十分に説明し,書面にて同意を得た。本研究は,当大学院倫理委員会の承認を得て行った。
【結果】
課題間での比較については,聴覚群は練習前と比較して練習後および3日目で有意な低下を示した(p<0.01)。一方,視覚群では練習前と比較して練習後に有意な低下を示したが(p<0.05),3日目は有意差がみられなかった。群間の比較では,練習前のRMS値に有意差はみられなかった。変化量の比較では,練習前後で両群間に有意差はみられなかったが,練習後から3日目を引いた値では視覚群(-4.19±3.62)は聴覚群(0.78±2.38)と比較して有意に小さい値を示した(p<0.01)。
【考察】
練習前の群間比較でRMS値に有意差がみられず,練習前後では両群ともに有意な低下が示された。さらに,その変化量には有意差がみられなかった。従って,動的バランスにおいて聴覚および視覚のフィードバック練習によって同程度の適応効果が示されたと考えられる。しかしながら,聴覚群では3日目においてもその効果の保続が示されたが,視覚群では一日あけることによって練習前の正確性に戻り,変化量の群間比較においても有意差が示された。従って,聴覚フィードバック練習によって学習効果が示されたが,視覚フィードバック練習では学習されにくいことが示唆される。Ronsseらは,両手の協調運動を用いて視覚フィードバック練習では視覚刺激に頼りがちになるが,聴覚フィードバックを用いた場合は刺激に頼らない神経回路が構築されやすいことを明らかにした。よって,随意運動を伴う動的バランス練習においても聴覚刺激の方が運動学習には有効であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
立位バランスにおいて,異なる感覚フィードバックによる学習効果の違いを初めて明らかにした。本研究成果は,視覚に頼らない有効な感覚フィードバック練習を提案するための科学的根拠となる。