[1520] 在宅高齢大腿切断者の身体機能および動作能力の特徴
キーワード:高齢者, 大腿切断, アンケート
【はじめに,目的】
高齢者の身体機能は,生理的な衰え,加齢に伴う各種併存疾患の増加,さらにこれまでの生活習慣といった様々な要因によって左右され,個人差が大きい。先行研究では高齢下腿切断者の義足歩行獲得率は約70%と高いが,大腿切断者では約50%と低く,高齢大腿切断者のリハビリは困難であることは事実である。したがって,義足歩行練習を展開する上で地域社会生活を踏まえ,到達目標とする具体的な指標のもと効率的な介入が重要となる。そこで本研究では,在宅大腿切断者の生活実態調査から,年齢による比較を行うことで60歳以上切断者(以下,高齢切断者)の身体機能および動作能力の特徴を明確にすることを目的とした。
【方法】
過去10年間に当院で義足歩行練習を受け,退院した片側大腿切断者92名を対象に郵送質問紙法にて生活実態調査を実施した。調査項目は,①皮膚トラブルに起因する断端痛の有無,②非切断側下肢での片脚立位時に必要な支持物の有無,③椅子からの起立動作時に必要な支持物の有無,④義足装着動作能力(自立,要監視・介助),⑤義足使用頻度(週6日以上,週3~5日,週1~2日,月1~2日),⑥一日当たりの義足装着時間(11時間以上,8~10時間,5~7時間,2~4時間,2時間未満),⑦屋内義足歩行能力および⑧屋外義足歩行能力(独歩にて自立,1本杖にて自立,2本杖や歩行器にて自立,要監視・介助),⑨同年代の健常者の歩行速度についていけるか否か,⑩連続歩行距離(1km以上,数百m,100m,数十m,数m)とした。現在の年齢(60歳未満,60歳以上)と①~⑩の各調査項目との関連性を明確にするためにFisherの正確確率検定を行い,有意水準は5%未満とし,解析にはR 2.13.0を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者に研究の目的と方法,データの管理方法等を文書にて説明し同意を得た。なお,本研究は当センターの倫理委員会の審査,承認を受けて実施した。
【結果】
アンケート回収率は64.1%,死亡者を除く有効回答数は53名。このうち義足使用例48名を対象とした。60歳未満切断者は22名(男性19名,女性3名),年齢は39.2±11.8歳。高齢切断者は26名(男性20名,女性6名),年齢は71.0±6.2歳。解析結果より年齢と調査項目間で有意に関連を示し,高齢切断者の特徴とした項目は非切断側下肢での片脚立位時に支持物が必要(p<0.05),椅子からの起立動作時に支持物が必要(p<0.01),義足使用頻度は週3~5日以下(p<0.05),一日当たりの義足装着時間は11時間未満(p<0.05),屋外歩行時に2本杖や歩行器が必要(p<0.05),同年代の健常者の歩行速度についていけない(p<0.01),連続歩行距離は数百m以下(p<0.01)であった。断端痛の有無,義足装着動作能力,屋内歩行能力では有意な関連は認めなかった。
【考察】
高齢切断者は非切断側下肢での片脚立位や起立動作時に支持物が必要であることから非切断側下肢機能が低下していることが示唆された。屋内歩行能力では両群に差は認めなかった。また,屋外では60歳未満切断者の90%以上が独歩や1本杖にて自立していたが,高齢切断者では約68%に留まり,2本杖や歩行器,監視や介助を要する者の割合が増加した。さらに,高齢切断者では歩行速度や連続歩行距離も低値を示した。下肢筋力やバランス能力は歩行能力に密接に関連していることから,高齢切断者の歩行能力が60歳未満切断者に比べ低値を示した原因として非切断側下肢機能の低下が考えられる。
義足使用頻度に関しては60歳未満切断者の約95%が週6日以上使用し,高齢切断者では約70%であった。また,60歳未満切断者の約55%が一日に11時間以上義足を装着しているのに対し,高齢切断者では24%と少なく,義足装着時間にばらつきも認めた。これは,高齢切断者の歩行能力が低いことから,家事動作に必要な立位保持やリハビリ目的とした歩行練習などを主な目的として義足を生活場面の所々で使用している者が多いことが予想される。
歩行能力や義足使用状況の結果から,高齢切断者の理学療法介入を行う上で,切断前の生活スタイルや環境,切断者や家族のニーズを把握し,より詳細な目標設定が必要である。さらに,退院後も義足を継続して使用するには片手支持での片脚立位や起立動作能力を維持することが必要で,我々理学療法士だけでなく地域支援スタッフもこれらを理解し退院後のフォローへ連携することが重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により高齢切断者に対して入院中に理学療法介入を行う上で必要な評価指標の構築ができた。これらの指標を踏まえて退院後の支援も行うことは,義足を継続的に使用し,高齢切断者の地域社会生活におけるQOL維持・向上を図る一助となると考える。
高齢者の身体機能は,生理的な衰え,加齢に伴う各種併存疾患の増加,さらにこれまでの生活習慣といった様々な要因によって左右され,個人差が大きい。先行研究では高齢下腿切断者の義足歩行獲得率は約70%と高いが,大腿切断者では約50%と低く,高齢大腿切断者のリハビリは困難であることは事実である。したがって,義足歩行練習を展開する上で地域社会生活を踏まえ,到達目標とする具体的な指標のもと効率的な介入が重要となる。そこで本研究では,在宅大腿切断者の生活実態調査から,年齢による比較を行うことで60歳以上切断者(以下,高齢切断者)の身体機能および動作能力の特徴を明確にすることを目的とした。
【方法】
過去10年間に当院で義足歩行練習を受け,退院した片側大腿切断者92名を対象に郵送質問紙法にて生活実態調査を実施した。調査項目は,①皮膚トラブルに起因する断端痛の有無,②非切断側下肢での片脚立位時に必要な支持物の有無,③椅子からの起立動作時に必要な支持物の有無,④義足装着動作能力(自立,要監視・介助),⑤義足使用頻度(週6日以上,週3~5日,週1~2日,月1~2日),⑥一日当たりの義足装着時間(11時間以上,8~10時間,5~7時間,2~4時間,2時間未満),⑦屋内義足歩行能力および⑧屋外義足歩行能力(独歩にて自立,1本杖にて自立,2本杖や歩行器にて自立,要監視・介助),⑨同年代の健常者の歩行速度についていけるか否か,⑩連続歩行距離(1km以上,数百m,100m,数十m,数m)とした。現在の年齢(60歳未満,60歳以上)と①~⑩の各調査項目との関連性を明確にするためにFisherの正確確率検定を行い,有意水準は5%未満とし,解析にはR 2.13.0を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者に研究の目的と方法,データの管理方法等を文書にて説明し同意を得た。なお,本研究は当センターの倫理委員会の審査,承認を受けて実施した。
【結果】
アンケート回収率は64.1%,死亡者を除く有効回答数は53名。このうち義足使用例48名を対象とした。60歳未満切断者は22名(男性19名,女性3名),年齢は39.2±11.8歳。高齢切断者は26名(男性20名,女性6名),年齢は71.0±6.2歳。解析結果より年齢と調査項目間で有意に関連を示し,高齢切断者の特徴とした項目は非切断側下肢での片脚立位時に支持物が必要(p<0.05),椅子からの起立動作時に支持物が必要(p<0.01),義足使用頻度は週3~5日以下(p<0.05),一日当たりの義足装着時間は11時間未満(p<0.05),屋外歩行時に2本杖や歩行器が必要(p<0.05),同年代の健常者の歩行速度についていけない(p<0.01),連続歩行距離は数百m以下(p<0.01)であった。断端痛の有無,義足装着動作能力,屋内歩行能力では有意な関連は認めなかった。
【考察】
高齢切断者は非切断側下肢での片脚立位や起立動作時に支持物が必要であることから非切断側下肢機能が低下していることが示唆された。屋内歩行能力では両群に差は認めなかった。また,屋外では60歳未満切断者の90%以上が独歩や1本杖にて自立していたが,高齢切断者では約68%に留まり,2本杖や歩行器,監視や介助を要する者の割合が増加した。さらに,高齢切断者では歩行速度や連続歩行距離も低値を示した。下肢筋力やバランス能力は歩行能力に密接に関連していることから,高齢切断者の歩行能力が60歳未満切断者に比べ低値を示した原因として非切断側下肢機能の低下が考えられる。
義足使用頻度に関しては60歳未満切断者の約95%が週6日以上使用し,高齢切断者では約70%であった。また,60歳未満切断者の約55%が一日に11時間以上義足を装着しているのに対し,高齢切断者では24%と少なく,義足装着時間にばらつきも認めた。これは,高齢切断者の歩行能力が低いことから,家事動作に必要な立位保持やリハビリ目的とした歩行練習などを主な目的として義足を生活場面の所々で使用している者が多いことが予想される。
歩行能力や義足使用状況の結果から,高齢切断者の理学療法介入を行う上で,切断前の生活スタイルや環境,切断者や家族のニーズを把握し,より詳細な目標設定が必要である。さらに,退院後も義足を継続して使用するには片手支持での片脚立位や起立動作能力を維持することが必要で,我々理学療法士だけでなく地域支援スタッフもこれらを理解し退院後のフォローへ連携することが重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により高齢切断者に対して入院中に理学療法介入を行う上で必要な評価指標の構築ができた。これらの指標を踏まえて退院後の支援も行うことは,義足を継続的に使用し,高齢切断者の地域社会生活におけるQOL維持・向上を図る一助となると考える。