第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

ポスター

ポスター2

運動制御・運動学習2

Sat. Jun 6, 2015 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0483] 運動イメージ想起による鎮痛効果の検証

―筋感覚的または視覚的運動イメージの比較―

牧野七々美1, 服部貴文1, 倉知朋代1, 高沢百香1, 岩佐麻未1, 城由起子2, 松原貴子1 (1.日本福祉大学健康科学部, 2.名古屋学院大学リハビリテーション学部)

Keywords:疼痛緩和, 筋感覚的運動イメージ, 視覚的運動イメージ

【はじめに,目的】近年,様々な運動による鎮痛効果が報告されており,また臨床では経頭蓋磁気刺激等を用い運動野を賦活させることによる疼痛緩和が試みられている。このように,一次運動野や運動前野などの活動は疼痛関連領域を賦活することで疼痛を緩和させると考えられている(Ahmed 2011)。一方,麻痺や疼痛のために運動の実施が困難な症例は少なくないが,我々は実運動でなく視覚情報をもとにした運動イメージ想起により鎮痛効果を確認し,その際に運動時と類似した交感神経活動の賦活も認めることを報告した(城2013)。運動イメージは自分が運動をしているような筋感覚(一人称)的運動イメージと,他人や物体が動くのを見ているような視覚(三人称)的運動イメージに分類され,特に筋感覚的運動イメージ想起は実運動に類似した運動関連脳領域の活動を示す(Jackson 2001)。したがって,運動野の活動が鎮痛に影響するのであれば,実運動を伴わない運動イメージ想起であっても鎮痛効果が得られ,その効果は筋感覚的運動イメージ想起の方が大きくなる可能性が考えられる。そこで本研究では,実運動と運動イメージ,さらに運動イメージを筋感覚的と視覚的運動イメージに明確に分類し,その鎮痛効果と交感神経反応を比較した。
【方法】対象は,健常成人16名(男女各8名,年齢21.8±0.9歳)とし,すべての対象にトレッドミル歩行を行う実運動(W)課題,閉眼座位でWの筋感覚的運動イメージ(KI)想起を行うKI課題,閉眼座位でトレッドミル上を転がるボールを想起する視覚的運動イメージ(VI)課題を各10分間,課題順は無作為に3日間以上の間隔をあけて行わせた。評価項目は,イメージ能力(kinesthetic and visual imagery questionnaire-10:KVIQ),イメージ想起の程度(verbal rating scale:1~5),脳波,圧痛閾値,心拍変動とした。脳波(Polymate II,TEAC)はイメージ想起への注意の指標として両イメージ課題中の周波数解析から国際10-20法のFzのθ波(4.0~8.0 Hz)とO1,O2のα波(7.5~12.5 Hz)のパワー値を算出した。圧痛閾値(RX-20,AIKOH)は,下腿と前腕で課題前,終了直後および5分後に測定し,課題前の値で除した変化率を測定値とした。心拍変動(AC-301A,GMS)は,心電図を経時的に記録し,心拍数および心電図R-R間隔の周波数解析から交感神経活動指標として低周波数成分(LF:0.04~0.15 Hz)と高周波数成分(HF:0.15~0.40 Hz)の比(LF/HF)を算出し,得られた値から課題前,課題10分目(課題中)および終了5分後(5分後)の各前1分間の平均値を算出した。統計学的解析は,Friedman検定およびTukey-typeの多重比較検定またはWilcoxonの符号付き順位検定を用い,有意水準は5%とした。
【結果】KVIQ,イメージ想起の程度ともに両イメージ課題間に差はなく,脳波も両イメージ課題で課題中にFzのθ波が増大,O1,O2のα波が減衰した。圧痛閾値は課題前に比べ下腿では3課題とも終了直後に上昇し,前腕ではW課題とKI課題で終了直後と5分後に上昇した。心拍数はW課題のみ,LF/HFはW課題とKI課題で課題中に増大し,KI課題のみ5分後もLF/HFの増大を認めた。
【考察】両運動イメージの能力と程度および脳波の結果から運動イメージに対する注意の程度に差はなかった。実運動のみならず両イメージ想起によっても鎮痛効果が得られ,特に筋感覚的運動イメージ想起により実運動同様に広範かつ持続的な鎮痛効果を示し,さらに交感神経活動の賦活も認めた。運動イメージ想起は,筋感覚的,視覚的のいずれも運動関連脳領域を賦活することが知られているが,筋感覚的運動イメージの方がより実運動に類似した脳部位が賦活するとされている。また,我々はこれまでに,運動により鎮痛効果の得られない者では交感神経の生理的反応が減弱していることを報告した(城2012)。これらのことから,運動関連脳領域ならびに交感神経の活動・賦活は,運動による鎮痛メカニズムにおいて重要な因子であるとともに,実運動だけでなく筋感覚的運動イメージによっても誘導されることから,筋感覚的運動イメージ想起は実運動同様,疼痛の運動療法として高い有用性が期待できる。
【理学療法学研究としての意義】実運動だけでなく運動イメージ想起でも鎮痛効果が得られ,特に筋感覚的運動イメージ想起は,視覚的運動イメージよりも効果が高く,実運動が難しい症例でも疼痛マネジメントとして活用でき,今後の疼痛理学療法の開発・確立につながる点で意義深い。