日本畜産学会第130回大会

講演情報

シンポジウム

未来をになうAnimal Scienceの発展と展開

2022年9月17日(土) 13:30 〜 18:00 Zoom会場1 (オンライン)

座長:半澤 惠(東京農業大学農学部)

16:30 〜 16:50

[CPS-09] “ウシの妊娠”は私たちの生活に重要でしょうか?

*白砂 孔明1 (1. 東農大農)

皆さんは「牛・ウシ」にどのようなイメージを持っているでしょうか?かわいい、白黒の大きな動物、牧場などというのどかなものから、牛乳、アイスクリーム、和牛ステーキなど、食べ物を思い浮かべる人も多くいると思います。食べ物を作り出すという点でウシは非常に重要な畜産動物であり、私たちの生活にとって欠かすことができない存在です。ウシから食べ物を安定的・持続的に供給してもらうため、ウシには妊娠して子牛を生んでもらう必要があります。
 動物が子を持つためには雄と雌が必要になります。では、皆さんが牧場などを訪れ、白黒の模様があるウシ(ホルスタインと言います)がたくさん飼育されているのを見たとしましょう。その牧場にいたホルスタインは雄でしょうか、それとも雌でしょうか?このような牧場で飼育しているホルスタインのほとんどが雌だと思います。雌ウシは妊娠して子牛を生むことで初めて牛乳を搾ることができるようになるため、酪農経営では雌が大事にされます。しかし、雄ウシがいなければ、雌ウシは妊娠して子牛を生むことができいのではないでしょうか。実は、ウシが“人為的に”妊娠することができるよう、様々な技術を開発して現代の畜産業が成り立っています。
 重要な繁殖技術として「人工授精」があります。広辞苑では「性交によらず、人為的に受精させること。人の不妊治療として行われるほか、家畜繁殖にも応用」と説明されています。畜産業では、優秀な雄ウシから人為的に精液を採取し、雌ウシの生殖器内に入れることで妊娠を成立する技術として活用されています。なんと、日本ではホルスタイン雌ウシに対する人工授精普及率はほぼ100%です。さらに、雌雄選別精液というものを使えば子牛の雌雄産み分けも可能です。
 「受精卵移植」という技術の活用も広がっています。畜産業では、優秀な雌ウシから受精卵を採取し、別の雌ウシの生殖器内に移植する技術として活用されます。こちらも雌雄をあらかじめ判別して受精卵を移植することができます。さらに、黒毛和種の受精卵をホルスタイン雌ウシに移植することで、肉用の黒毛和種子牛と牛乳生産の機会が一度に得られるという応用も可能です。その他にも、体外受精・顕微授精・体外受精卵の培養・受精卵凍結保存・卵子凍結保存など、繁殖技術は驚くほど進歩し続けています。
 しかし最近では、何度も人工授精や受精卵移植をしてもなかなか妊娠しない“長期不受胎”という状態のウシが増えてきており、大きな問題となっています。私たちの研究チームでは、子宮や腸内の環境など様々な視点から解析を行うことで、なぜ長期不受胎になってしまうのかという原因を明らかにしつつ、繁殖関連技術を駆使して長期不受胎牛の妊娠効率を上げるための研究をしています。この研究で持続的・効率的にウシを妊娠・出産させることができれば、限りあるウシを最大限に活用して安定した食料の供給に貢献できると考えています。
 本発表では、活用されている様々な繁殖関連技術に加え、それらを活用してもなかなか妊娠しない長期不受胎牛をどうしたら妊娠させることができるのかという挑戦(と失敗)についても紹介します。

【略歴】
2014年4月 東京農業大学 農学部 畜産学科 助教
2017年4月 東京農業大学 農学部 畜産学科 准教授
2020年4月 東京農業大学 農学部 動物科学科 教授