[S5-2] 臨床現場から見えてくるレンサ球菌の特異な一面
レンサ球菌はブドウ球菌とならび,その発見以来,ヒトに感染症を起こすグラム陽性球菌の代表として,対峙し,研究対象となってきた.感染症は時代と共に大きく変遷する.感染性心内膜炎の100年前の文献をみると,起因菌のトップには肺炎球菌やS. pyogenesの名前が挙がる.当時の同定技術の問題は多少あるにせよ,両者とも,今ではほとんど心内膜炎の起因菌となることはない.ペニシリン耐性は1980年代まではレンサ球菌には存在しないと信じられていた.その一方で,急速に耐性化が進んだ肺炎球菌に比べ,未だにS. pyogenes, S. dysgalactiae, S. anginosus groupでは耐性は見つかっていない.ちなみに口腔内細菌叢から分離されるS. mitis groupにはペニシリン耐性はしばしば見つかるが,感染性心内膜炎から分離された菌でみかけるのは極めて稀である.今は慢性炎症が様々な疾患のキーワードだが,レンサ球菌はある時は常在菌叢として生体防御に深く関わる一方で,自己免疫疾患などの原因にもなる.私は長年,臨床現場で数々のレンサ球菌感染症に関わってきて,ここには科学の普遍性を強く感じる.そんな症例から若い細菌学を目指す研究者に重要なメッセージを送りたいと思う.