第23回認知神経リハビリテーション学会学術集会

講演情報

一般演題

ポスター発表

[P3] 神経系(下肢・体幹)

[P3-07] 脳卒中後の屋外歩行の獲得に向けて足底に対する認知課題の有効性
‐歩行速度が低下している右片麻痺患者の症例‐

*高見 宏祥1 (1. 医療法人中山会 新札幌パウロ病院)

【はじめに】
 生活期脳卒中片麻痺患者の屋外歩行は社会参加の重要な因子であり,脳卒中後における屋外歩行のカットオフ値は快適歩行速度が0.61m/秒と示されている(田代,2014).今回,訪問リハビリテーションを利用する歩行速度が低下している右片麻痺患者に対して,屋外歩行自立に向けて,足底の認知課題を実施した有効性について検討した.

【症例】
 左視床出血により右片麻痺を呈し,15ヶ月が経過した50代男性.講演会の参加の為,屋外歩行の自立を目標に下肢機能練習や屋外歩行練習を実施していた.認知機能は良好,表在・深部感覚軽度鈍麻.FMA下肢項目27/34点,BBS42点,2ステップ値0.23,快適歩行速度0.44m/秒(T字杖).自宅内はT字杖歩行自立,身辺動作自立も屋外歩行は恐怖感があり一人では困難であった.

【観察】
 歩行は非麻痺側依存性が強く,非麻痺側の歩幅の短縮がみられた.内部観察では麻痺側足底の触圧覚の認識に誤差があり,足底圧と歩行イメージの関連付けが曖昧であった.評価訓練で麻痺側前足部に「マメがある感じ.体重を乗せると潰れてしまいそう」と語った.

【病態解釈】
 歩行速度低下の要因として,麻痺側足底の認識や運動予測の低下により,立脚後期の前方への推進力が低下していると仮説立てた.

【介入・結果】
 足底の左右比較による触圧覚の認知課題から,損傷以前に足底で探索した経験から,運動イメージを想起した接触空間課題へ移行した.週1回60分2ヶ月間介入後,FMA下肢項目とBBSに変化はなく,2ステップ値0.40,快適歩行速度0.60m/秒(T字杖)となり, 麻痺側前足部の違和感が軽減し,一人での屋外歩行を獲得した.

【考察】
 歩行速度の向上には麻痺側下肢の推進力が大きく影響しており,立脚後期の各下肢の角度に依存した足関節底屈筋群の相対的な活動が重要とされる (Hsiao,2015).本症例は前述の前段階として,麻痺側足底の知覚情報や歩行の運動予測を再学習する必要があると考えた.本症例のような認知機能が保たれており,恐怖感があり歩行速度が低下している症例に対して,麻痺側足底に対する内部観察の評価や認知課題は,一定の歩行速度の向上や屋外歩行自立に向けて有用である可能性がある.

【倫理的配慮(説明と同意)】
 本人に本発表の趣旨と内容について口頭と書面にて説明し,同意を得た.