日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

関連学会合同シンポジウム

関連学会合同シンポジウム24 経穴刺激による脳・脊髄機能への影響  (全日本鍼灸学会)

2020年11月28日(土) 15:20 〜 16:50 第6会場 (2F I)

座長:坂口 俊二(関西医療大学)、木村 研一(関西医療大学)

[CSP24-3] 誘発電位の変化からみた経穴

二本松明, 川浪勝弘, 工藤匡, 笠井正晴 (北海道鍼灸専門学校)

【背景】鍼灸治療では、治療部位として体表の特殊な部位である経穴(所謂ツボ)に対し、鍼治療は針を皮膚に穿刺、刺入し、灸治療は艾を皮膚上で燃焼することで有効な生体反応を引き起こし、治療を行う方法である。このため治療部位である経穴の実体の解明は鍼灸治療に携わるものにとって永遠のテーマである。経穴の成り立ちは様々な疾患や症状に対しての効果の集積や経験により培われた側面が強く、経穴刺激による様々な生体反応を指標に経穴の実体を解明使用とする試みがこれまでにも行われている。鍼灸治療の臨床的な知見については他の演者の発表に譲るとして、ここでは演者らがこれまでに行ってきた特定の経穴への鍼刺激による誘発筋電図の変化から経穴の存在について検討する。演者らは代表的な経穴である合谷穴(第2中手骨の中点、第一背側骨間筋上にある)への鍼刺激が第一背側骨間筋のF波に及ぼす影響と、瞬目反射(Blink refrex)への影響を検討した。その結果鍼刺激では第一背側骨間筋のF波出現頻度、振幅F/M比の増加と、瞬目反射の後期成分(R2)の振幅の減少が認められた。合谷穴は顔面部に経絡の流れを有する(東洋医学では流注という)経穴であり、顔面部の疾患に用いる。このような経穴の概念を示したものと考えられる。また顔面部の経穴(地倉穴:口角の外側)への鍼刺激が第一背側骨間筋の振幅F/M比の減少を起こすが、同じく顔面部の翳風穴(乳様突起と下顎の間)では瞬目反射に大きな変化を認めないこともわかり、手部と顔面部においては、刺激部位より遠隔部の筋に誘発される電位を抑制し、刺激局所の筋に誘発される電位については促通を起こす可能性が示唆された。しかしながら合谷穴への鍼刺激は合谷穴が所属する経絡と異なる部位にある筋である短母指外転筋のF波出現頻度、振幅F/M比の増加や、母指対立筋に誘発された長潜時反射(振幅LLR/M比)の低下を起こすことがわかった。また下腿部にある経穴(足三里穴:下腿前面)への鍼刺激でも第一背側骨間筋のF波出現頻度、振幅F/M比の増加を起こすこともわかり、これは前述した経絡・経穴への刺激の効果とは異なるように感じられるが、合谷穴は手陽明大腸経という経絡に所属し、その表裏経(経絡同士が接続する経絡)には短母指外転筋や母指対立筋の上にある手太陰肺経がある。また足三里穴は足陽明胃経という経絡に所属し、合谷穴が所属する手陽明大腸経と接続している。このような関係を示せたものと考えられるが、経絡と異なる部位にある筋での結果を検討する必要がある。【結語】以上のことから鍼刺激を行う経穴により誘発電位に異なる影響を与える可能性があるが、それが経穴の特異的な作用なのか、四肢や顔面部などの部位の違いで起こる作用なのかははっきりとしていない。この点について議論を深めたいと考えている。