[III-OR25-03] 小児期発症心筋症に対する網羅的遺伝子解析の意義
キーワード:心筋症, 次世代シークエンサー, 網羅的遺伝子解析
【背景】次世代シークエンサー(NGS)を用いた網羅的遺伝子解析は心筋症の診断モダリティの一つとして浸透しつつあるが、小児期発症心筋症に対する臨床的意義についてはまだ定まっていない。【方法】2012年から2022年に当院で診療した小児期発症心筋症で遺伝子検査を希望した症例に対し、NGSを用いた網羅的遺伝子解析を行った。解析結果からバリアントのアレル頻度、in silico予測、表現型との共分離および既知の心筋症関連遺伝子を参考に責任遺伝子を同定し、その臨床像とともに解析した。【結果】対象は11家系12症例で、発症年齢の中央値3歳(日齢0~10歳)、家族例7例、孤発例5例であった。臨床診断はDCM 5例、HCM 3例、RCM 1例、LVNC 2例で、転帰は生存7例、死亡2例、移植2例、転帰不明1例であった。検査は11例で全エクソーム解析、1例でターゲットシーケンス解析を行い、7例(58%、うち2例は新規変異)で責任遺伝子(サルコメア関連(MYH7、MYL2、MYBPC3、TNNT2、TTN)、カルシウム代謝(PLN)、RAS/MAPK経路(PTPN11))を同定した。このほかにLVNC症例でVariant of unknown significance(VUS)だが病原性の疑われるTBX20変異を認めた。小児期死亡の2例はMYL2複合ヘテロ(LVNC+ミオパチー)とPTPN11変異(HCM+LEOPARD症候群)の症例で、いずれも心筋症に加えて全身疾患を来す遺伝子異常を有した。【考察】成人領域では心筋症の責任遺伝子から臨床像や予後を推測する試みが進められ、一定の成果が得られている。一方で小児期発症心筋症では、成人発症と同一の心筋症関連遺伝子群に加えて、全身疾患や症候群を基盤とするものも少なからず存在し、より広範な遺伝学的背景を有する。今回の検討では、網羅的遺伝子解析が小児期発症心筋症の遺伝学的背景およびその臨床像との関連の一端を明らかにし、今後症例の蓄積によって治療反応性や予後の予測に資する可能性が示唆された。