[学校保健体育-SC-1] 心身機能とその科学的背景
<演者略歴>
1998年東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系修了、博士(学術)。1998年東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系助手。2002-2003年米国コネチカット大学知覚と行為の生態学研究センター客員研究員。2011年より東京大学大学院総合文化研究科准教授。
1998年東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系修了、博士(学術)。1998年東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系助手。2002-2003年米国コネチカット大学知覚と行為の生態学研究センター客員研究員。2011年より東京大学大学院総合文化研究科准教授。
「心(こころ)」は「身体(からだ)」なくして存在しえない。その意味において両者は等価ではなく、心はあくまで身体を前提として存在する。心の働きを身体とは独立した記号処理として扱う古典的認知科学に代わり近年注目されている「身体性認知」(embodied cognition)や、知覚・注意・思考・意思決定・情動を包括的に説明しうる脳活動の統一理論として提唱されている「自由エネルギー原理」の立場も、身体の運動を認知や思考プロセスそのものとして捉えており、運動と感覚/知覚/認知との一体性が強調されている。また、身体性を基盤として知覚行為の学習・発達・進化をつなぐ「階層的動作構築理論」の立場においても、姿勢や呼吸を整え、からだをほぐし、バランスを保つという基底階層が、より高次の複雑な認知・行為を支えると考える。さらに、哲学者のメルロ=ポンティが「他者の心は…身体化されたものとしてのみ与えられる」と主張したように、社会的認知の基盤も身体に求められる。これらの立場はいずれも知覚行為基盤としての身体の重要性を強調するものであり、ひいては基盤的教育科目としての保健体育の存立を支えるものとなる。