日本体育・スポーツ・健康学会第72回大会

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体育史/キーノートレクチャー/比較文学で明治期日本の陸上競技を読む

2022年9月2日(金) 10:00 〜 11:20 第9会場 (2号館2階22教室)

司会:佐々木 浩雄(龍谷大学)

[01史-レクチャー-1] 比較文学で明治期日本の陸上競技を読む

*牛村 圭1,2 (1. 国際日本文化研究センター、2. 総合研究大学院大学)

<演者略歴>
日文研教授、博士(学術、東京大学)。比較文化論、文明論専攻。明星大学青梅校助教授等を経て2005年より日文研。著書に『「文明の裁き」をこえて—対日戦犯裁判読解の試み』(中公叢書、2001年、第10回山本七平賞)、『ストックホルムの旭日—文明としてのオリンピックと明治日本』(中公選書、2021年)など。
かつて森鷗外は洋学(西洋の学問)受容にあたっての3類型を指摘した(「洋学の盛衰を論ず」1902年)。①原書や翻訳の読解 ②お雇い外国人による指導 ③洋行や留学での直接体験、の3種である。明治期に導入された陸上競技(track and field athletics)についても、洋学と同様な受容パターンを看取できる。すなわち、近代日本陸上競技史は、洋学受容史としての特徴を有していると言えよう。本講演では、日本の陸上競技史上での洋学受容の3類型を概観したのち、書籍を通しての移入のパターンを取り上げる。具体的には、明治期の陸上競技の教本として名高い2著作--武田千代三郎『理論実験 競技運動』(博文館、1904年)、大森兵蔵『オリンピック式 陸上運動競技法』(運動世界社、1912年)--を考察の俎上に載せる。ある国の文学作品に見られる他国の文学作品からの影響の痕跡を探索し、それがいかなる効用を生んでいるのかを考察するという比較文学研究の手法を応用し、両著作に影響を与えたと推定される西洋で刊行された先行著作と読み比べ、具体例を引いて異同を比較検討する。日本体育史上における明治期先人の知的格闘の跡を紹介する場としたい。