第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本神経理学療法学会 一般演題口述
(神経)10

2016年5月28日(土) 13:40 〜 14:40 第8会場 (札幌コンベンションセンター 2階 206)

座長:大槻利夫(上伊那生協病院 リハビリテーション課)

[O-NV-10-4] 頭部MRIと臨床症状からみた延髄背外側部梗塞患者の早期歩行自立度の検討

増子潤, 大竹政充, 蔵品利江 ((一財)脳神経疾患研究所附属総合南東北病院)

キーワード:頭部MRI, 延髄背外側部梗塞, 下小脳脚

【はじめに,目的】

延髄背外側部梗塞(Lateral medullary infarctions:以下LMIs)では,損傷と同側の顔面と対側体幹と上下肢の感覚解離(温痛覚障害),同側の運動失調,構音障害,嚥下障害,嗄声,眩暈,吐気,側方突進現象など多彩な症状を来すWallenberg症候群が出現する。急性期の臨床場面では,症例によって出現する症状や歩行自立度にバラツキが認められることをよく経験する。今回,頭部MRIにて責任病巣を確認し,臨床症状と歩行能力について検討した。

【方法】

2012年4月から2015年8月まで当院に入院し頭部MRIで責任病変を同定することが出来た急性期LMIs患者16例を対象とした。臨床症状として感覚障害の有無,運動失調の有無,眩暈の有無,側方突進現象の有無を,歩行能力として発症から2週間後の歩行自立度を後方視的に検証した。

【結果】

16例のうち,臨床症状に関して,感覚障害を呈したのは13例,運動失調を呈したのは11例,眩暈を呈したのは9例,側方突進現象を呈したのは10例であった。歩行機能に関して7例が歩行自立,9例が歩行非自立であった。歩行自立群のうち感覚障害を呈したのは6例,運動失調を呈したのは3例,眩暈を呈したのは2例,側方突進現象を呈したのは3例であった。歩行非自立群のうち感覚障害を呈したのは7例,運動失調を呈したのは8例,眩暈を呈したのは7例,側方突進現象を呈したのは7例であった。頭部MRIの特徴として歩行自立群は責任病巣が外側部に集中し,歩行非自立群は責任病巣が外側部からやや前方に及ぶ傾向が認められた。

【結論】

本研究において,歩行自立群・非自立群ともに感覚障害を呈した症例が多かったことから,早期の歩行獲得にそれほど感覚障害は影響しないことが示唆された。歩行非自立群において運動失調,眩暈,側方突進現象を呈した症例がほとんどであった。運動失調に関しては延髄外側部に位置する下小脳脚及び脊髄小脳路の損傷により生じるとされている。眩暈に関しては延髄背外側後部に位置する前庭神経下核の損傷により生じるとされている。側方突進現象の責任病巣に関しては様々な研究がなされているが,その一つに下小脳脚が挙げられている。脳解剖学的な位置関係より,下小脳脚及び脊髄小脳路は延髄背外側部において前後方向に長い位置取りをとる。また,前庭神経下核は下小脳脚と隣接している。頭部MRIにおいて,歩行非自立群は責任病巣が背外側部からやや前方の縦長に及んでいた。病巣が下小脳脚及び脊髄小脳路,前庭神経下核に広がることで,これらの神経連絡路が広範に障害され,運動失調及び眩暈や側方突進現象が出現したと推察された。よって,LMIsにおいて病巣が延髄背外側部から前方の縦長に及び,臨床症状として運動失調及び眩暈や側方突進現象を呈することが,早期の歩行獲得を阻害する要因となることが示唆された。