[O-NV-12-2] 非典型例のアトピー性脊髄炎により不全対麻痺を呈し車いす介助から歩行自立に至った一症例
キーワード:アトピー性脊髄炎, 非典型例, 不全対麻痺
【はじめに,目的】アトピー性脊髄炎(atopic myelitis:以下AM)はアトピー素因を有する患者で見られる脊髄炎で平成27年から難病法の指定難病に選定されている。現在の推定患者数は約1.000人であり本疾患の理学療法の報告はない。今回,この稀な疾患を経験し坐位不能から約1年半の経過で杖歩行自立に至ったので報告する。
【方法】症例は40歳の男性,既往歴は2歳からアトピー性皮膚炎を罹患していた。発症時,腰痛と左下肢のしびれが出現し,腰椎椎間板ヘルニアの診断で手術を行う。術後も左下肢痛や排尿障害,原因不明の眩暈が残存した。前医での加療後,第410病日に当センターへ転院した。転院時,意識晴明で認知機能は正常であった。脊髄MRIでは明らかな異常なし。不全対麻痺を呈しASIA Impairment Scale(以下AIS)はC,ASIA Lower Extremity Motor Score(以下LEMS)3/50,感覚は左L5~S1で軽度鈍麻,両下肢にアロディニアを認めた。Kurtzke Expanded Disability Status Scale(以下EDSS)8.5,FIM運動項目26/91点であった。基本動作は寝返りが自立,坐位は嘔気,不安感が増し困難であった。移乗と移動は車いす全介助であった。以上より車いす移動の自立を目標に介入を行った。練習内容は起居動作練習,特に坐位練習を中心に介入した。介入から2ヵ月半後,リクライニング型車いすを用いて移乗と院内の移動が自立した。第526病日に他院へ転院しAMと確定診断される。第561病日に当センターへ再入院される。再入院時,AISはC,LEMS6/50,左L3以遠で感覚過敏,FIM運動項目29/91点,嘔気や下肢痛に改善がみられ端坐位は自立,起立は歩行器を使用し介助で可能となった。練習内容は標準型車いすへの移乗と駆動練習,ロボットスーツHAL(以下HAL)での練習を11日間のうち5日間実施した。
【結果】退院時,AISはD,LEMS32/50,感覚は正常,EDSS6.5,FIM運動項目73/91点,標準型車いす移動と両側杖歩行が自立となった。第613病日に施設へ退院した。
【結論】AMの確定診断に発症から長期間至った症例である。典型例では脊髄MRIで約6割に病変を認め,感覚障害は約7割に認められる。しかし,本症例は脊髄MRIでは明らかな異常がなく,感覚障害は軽度であった。また,最重症時でもEDSSは平均3.4と軽症に留まるが本症例のEDSS8.5と重症であった。以上より非典型例であったと考えられる。重度の麻痺,排尿障害,痛み,嘔気,眩暈や不安感の影響も強かったが発症から約1年半の経過で杖歩行自立に至った。HAL使用前は大腿四頭筋の収縮がわずかだが出現し始め,感覚機能は保たれていた。このためHALによるアシストにより筋活動パターンを効率的に学習できたことにより短期間で良好な歩行機能の改善を認めたと考えられる。AMの約7割の症例では慢性動揺性の経過を辿ることが多く数ヵ月の期間では目標設定が難しい。今回の経験から歩行レベルの可能性も考えて,目標設定や理学療法を展開する必要があると思われる。
【方法】症例は40歳の男性,既往歴は2歳からアトピー性皮膚炎を罹患していた。発症時,腰痛と左下肢のしびれが出現し,腰椎椎間板ヘルニアの診断で手術を行う。術後も左下肢痛や排尿障害,原因不明の眩暈が残存した。前医での加療後,第410病日に当センターへ転院した。転院時,意識晴明で認知機能は正常であった。脊髄MRIでは明らかな異常なし。不全対麻痺を呈しASIA Impairment Scale(以下AIS)はC,ASIA Lower Extremity Motor Score(以下LEMS)3/50,感覚は左L5~S1で軽度鈍麻,両下肢にアロディニアを認めた。Kurtzke Expanded Disability Status Scale(以下EDSS)8.5,FIM運動項目26/91点であった。基本動作は寝返りが自立,坐位は嘔気,不安感が増し困難であった。移乗と移動は車いす全介助であった。以上より車いす移動の自立を目標に介入を行った。練習内容は起居動作練習,特に坐位練習を中心に介入した。介入から2ヵ月半後,リクライニング型車いすを用いて移乗と院内の移動が自立した。第526病日に他院へ転院しAMと確定診断される。第561病日に当センターへ再入院される。再入院時,AISはC,LEMS6/50,左L3以遠で感覚過敏,FIM運動項目29/91点,嘔気や下肢痛に改善がみられ端坐位は自立,起立は歩行器を使用し介助で可能となった。練習内容は標準型車いすへの移乗と駆動練習,ロボットスーツHAL(以下HAL)での練習を11日間のうち5日間実施した。
【結果】退院時,AISはD,LEMS32/50,感覚は正常,EDSS6.5,FIM運動項目73/91点,標準型車いす移動と両側杖歩行が自立となった。第613病日に施設へ退院した。
【結論】AMの確定診断に発症から長期間至った症例である。典型例では脊髄MRIで約6割に病変を認め,感覚障害は約7割に認められる。しかし,本症例は脊髄MRIでは明らかな異常がなく,感覚障害は軽度であった。また,最重症時でもEDSSは平均3.4と軽症に留まるが本症例のEDSS8.5と重症であった。以上より非典型例であったと考えられる。重度の麻痺,排尿障害,痛み,嘔気,眩暈や不安感の影響も強かったが発症から約1年半の経過で杖歩行自立に至った。HAL使用前は大腿四頭筋の収縮がわずかだが出現し始め,感覚機能は保たれていた。このためHALによるアシストにより筋活動パターンを効率的に学習できたことにより短期間で良好な歩行機能の改善を認めたと考えられる。AMの約7割の症例では慢性動揺性の経過を辿ることが多く数ヵ月の期間では目標設定が難しい。今回の経験から歩行レベルの可能性も考えて,目標設定や理学療法を展開する必要があると思われる。