日本昆虫学会第84回大会・第68回日本応用動物昆虫学会大会 合同大会

講演情報

口頭発表

[B] 生態学・行動学

2024年3月31日(日) 09:00 〜 11:15 B会場 (萩)

11:00 〜 11:15

[B-47] 蛾類の捕食者回避行動を活用したコミュニケーションと害虫防除

◯中野 亮1 (1. 農研機構・植防研)

幼虫がトウモロコシ等の重要害虫であるアワノメイガの成虫は、食虫コウモリの発する超音波に対して逃避行動を示す。アワノメイガの既交尾メスは、アブラコウモリ等が昆虫類を探索する際に発する超音波パルスに対し、寄主植物への定位飛翔が阻害されることを突き止めていた。しかしながら、この飛翔阻害率は、ヤガ類のように顕著に高くないため、害虫防除への応用に難があった。そこで、より高い飛翔阻害率をもたらす超音波の時間構造を特定するため、食虫コウモリの超音波パルスに再び着目した。その結果、コウモリが飛翔昆虫に接近する際に発する超音波パルス、すなわち探索期の超音波パルスよりも持続時間が短く、反復率の高いパルスによるアワノメイガの飛翔阻害率が高いことを明らかにした。一方、アワノメイガは配偶行動においてオスがメスの近傍で微弱な超音波パルスを発し、メスに食虫コウモリに対する防衛行動の一つである不動化を引き起こす。ここで、アワノメイガの聴神経が検知可能な音圧以上となるオスの求愛超音波の時間構造を解析したところ、飛翔阻害効果の高い超音波パルスと重複することを見出した。したがって、アワノメイガでは、コウモリの接近期の超音波パルスを高い割合で忌避するとともに、この忌避行動を配偶行動に活用していることが推察された。