17:00 〜 18:30
[S06P-20] 地震波干渉法に基づく九州地方のKiK-net観測点における地表付近のS波速度の異方性
1.はじめに
2016年熊本地震では、震源近傍のKiK-net益城(KMMH16)で震度7の記録が得られ、観測点から約700メートル南に位置する県道28号周辺においては甚大な木造家屋の被害が生じた。KMMH16では地表のほかに深さ252mの地中でも記録が得られていることもあり、被害を及ぼす地震動評価の基データとして多くの解析に用いられている(例えば、山田・他、2017)。しかし、KMMH16の地中に対する地表記録の伝達関数が水平成分2方向によって異なっており(例えば、元木・他、2016)、方位による違いが何によるかを明らかにすることは地盤震動の観点からも重要な課題である。方位によって伝達関数が異なる一つの可能性として、地表付近のS波速度の異方性が考えられ、その異方性はKMMH16だけではなく広範囲に広がっている可能性もある。そこで本研究では、九州地方に設置されたKiK-net観測点を対象として、地震波干渉法に基づき地表と地中間のS波速度の伝播速度を、振動方位ごとに調査することによって、地表付近のS波速度の異方性を評価した。
2.方法とデータ
地中から地表までのS波の伝播時間を、地中記録に対する地表記録のデコンボリューションを求め、出力された波形のピーク時間から評価した。デコンボリューション時の0割を防ぐための処理方法や、ピーク時間の抽出方法はNakata and Snieder (2012)を参照した。振動方位10度毎に伝播時間を調査して、伝播速度が最も速くなる軸の方位とそれと直交する軸の比((Vfast-Vslow)/Vfast)を求めた。なお、地中観測点の設置方位はホームページで公開されている値を参照し、地表観測点の設置方位は加藤・他(2001)を参考に、地中観測記録との長周期成分の相関解析から推定した。
解析に用いた観測記録として、各観測点の観測開始から2017年6月までの記録を選定対象とした。最大加速度が1~100Galの弱震記録を抽出し、各記録のS波部分の5秒間をデコンボリューションの解析に用いた。
3.KMMH16における結果
速度が速い軸はN100Eの方向、速い軸の地中観測点から地表観測点へのS波の伝播時間は0.38秒、遅い軸は0.50秒、S波速度の異方性は24%と評価された。方位による伝播速度の違いは、表層付近の地盤の不整形性によって生じている可能性も考えられる。不整形性による場合は地震の到来方向によって、伝播速度が変わると考えられることから、地震の到来方向を45度毎に分割して評価した。到来方向による伝播速度の違いはほとんど見られず、振動方位による違いより顕著に小さい。伝播速度の違いの第一義的な要因は、表層地盤の不整形性よりS波速度の異方性の可能性が高いと判断している。2016年熊本地震の前と後の伝播時間を比較すると、地震後は遅くなり、時間を対数軸上でとると線形に近い形で地震前に近づく傾向がみられる。地震前後の伝播速度の違いは、澤崎(2017)で指摘されている現象と類似していることから、強震時の非線形挙動による表層付近の地盤の剛性が低下し、徐々に回復していると考えられる。しかし、速度比は地震前後で違いがほとんど見られなかった。
4.九州地方の異方性について
KiK-net78観測点中、24観測点で速度比が0.10以上と評価された。最も異方性が高かったのは、NGSH03であり0.33と評価された。S波速度の異方性は主に規則的なクラックの配置によることが知られ、0.1以上の異方性はCrampin (1994)においてheavily fractured rockに分類される。このことから、九州地方はS波速度の異方性が高い地点が多いとみられる。各観測点の速度が速い軸の向きは一様ではなく、観測点によって異なる。九州地方における複雑な地殻の動きが、複雑な異方性を生じていることが考えられる。Nakata and Snieder (2012)と同様に、地殻変動の向きと速度が速くなる軸の方位を比較した。地殻変動量が大きい九州南部地域を見ると、火山フロント周辺では異方性は小さく方位はばらつきが大きくなる。前弧側では異方性の向きは地殻変動の向きに直交し、背弧側では両者は平行に近くなる傾向がみられた。この傾向は本研究と対象としている深さは異なるが、清水・他(2005)による地殻を対象とした東北日本における異方性の傾向と対応している。
伝播時間はPS検層から求められる伝播時間と比べると、速度が速い軸では平均的にPS検層の1.03倍、遅い軸では0.94倍になる結果が得られ、概ねPS検層に対応する結果が得られた。異方性の大きさと2点間の平均伝播速度には正の相関がみられた。それは第四紀の堆積層などではクラックより、鉛直方向の不均質のほうが大きくなり、異方性が現れにくくなるためと考えられる。異方性が大きい観測点では前述のKMMH16と同様に、地表と地中間の伝達関数が方位によって違いが生じることを確認した。このことは地盤の固有周期が方位によって異なることを表しており、地盤震動評価をする際には注意が必要と考えられる。
2016年熊本地震では、震源近傍のKiK-net益城(KMMH16)で震度7の記録が得られ、観測点から約700メートル南に位置する県道28号周辺においては甚大な木造家屋の被害が生じた。KMMH16では地表のほかに深さ252mの地中でも記録が得られていることもあり、被害を及ぼす地震動評価の基データとして多くの解析に用いられている(例えば、山田・他、2017)。しかし、KMMH16の地中に対する地表記録の伝達関数が水平成分2方向によって異なっており(例えば、元木・他、2016)、方位による違いが何によるかを明らかにすることは地盤震動の観点からも重要な課題である。方位によって伝達関数が異なる一つの可能性として、地表付近のS波速度の異方性が考えられ、その異方性はKMMH16だけではなく広範囲に広がっている可能性もある。そこで本研究では、九州地方に設置されたKiK-net観測点を対象として、地震波干渉法に基づき地表と地中間のS波速度の伝播速度を、振動方位ごとに調査することによって、地表付近のS波速度の異方性を評価した。
2.方法とデータ
地中から地表までのS波の伝播時間を、地中記録に対する地表記録のデコンボリューションを求め、出力された波形のピーク時間から評価した。デコンボリューション時の0割を防ぐための処理方法や、ピーク時間の抽出方法はNakata and Snieder (2012)を参照した。振動方位10度毎に伝播時間を調査して、伝播速度が最も速くなる軸の方位とそれと直交する軸の比((Vfast-Vslow)/Vfast)を求めた。なお、地中観測点の設置方位はホームページで公開されている値を参照し、地表観測点の設置方位は加藤・他(2001)を参考に、地中観測記録との長周期成分の相関解析から推定した。
解析に用いた観測記録として、各観測点の観測開始から2017年6月までの記録を選定対象とした。最大加速度が1~100Galの弱震記録を抽出し、各記録のS波部分の5秒間をデコンボリューションの解析に用いた。
3.KMMH16における結果
速度が速い軸はN100Eの方向、速い軸の地中観測点から地表観測点へのS波の伝播時間は0.38秒、遅い軸は0.50秒、S波速度の異方性は24%と評価された。方位による伝播速度の違いは、表層付近の地盤の不整形性によって生じている可能性も考えられる。不整形性による場合は地震の到来方向によって、伝播速度が変わると考えられることから、地震の到来方向を45度毎に分割して評価した。到来方向による伝播速度の違いはほとんど見られず、振動方位による違いより顕著に小さい。伝播速度の違いの第一義的な要因は、表層地盤の不整形性よりS波速度の異方性の可能性が高いと判断している。2016年熊本地震の前と後の伝播時間を比較すると、地震後は遅くなり、時間を対数軸上でとると線形に近い形で地震前に近づく傾向がみられる。地震前後の伝播速度の違いは、澤崎(2017)で指摘されている現象と類似していることから、強震時の非線形挙動による表層付近の地盤の剛性が低下し、徐々に回復していると考えられる。しかし、速度比は地震前後で違いがほとんど見られなかった。
4.九州地方の異方性について
KiK-net78観測点中、24観測点で速度比が0.10以上と評価された。最も異方性が高かったのは、NGSH03であり0.33と評価された。S波速度の異方性は主に規則的なクラックの配置によることが知られ、0.1以上の異方性はCrampin (1994)においてheavily fractured rockに分類される。このことから、九州地方はS波速度の異方性が高い地点が多いとみられる。各観測点の速度が速い軸の向きは一様ではなく、観測点によって異なる。九州地方における複雑な地殻の動きが、複雑な異方性を生じていることが考えられる。Nakata and Snieder (2012)と同様に、地殻変動の向きと速度が速くなる軸の方位を比較した。地殻変動量が大きい九州南部地域を見ると、火山フロント周辺では異方性は小さく方位はばらつきが大きくなる。前弧側では異方性の向きは地殻変動の向きに直交し、背弧側では両者は平行に近くなる傾向がみられた。この傾向は本研究と対象としている深さは異なるが、清水・他(2005)による地殻を対象とした東北日本における異方性の傾向と対応している。
伝播時間はPS検層から求められる伝播時間と比べると、速度が速い軸では平均的にPS検層の1.03倍、遅い軸では0.94倍になる結果が得られ、概ねPS検層に対応する結果が得られた。異方性の大きさと2点間の平均伝播速度には正の相関がみられた。それは第四紀の堆積層などではクラックより、鉛直方向の不均質のほうが大きくなり、異方性が現れにくくなるためと考えられる。異方性が大きい観測点では前述のKMMH16と同様に、地表と地中間の伝達関数が方位によって違いが生じることを確認した。このことは地盤の固有周期が方位によって異なることを表しており、地盤震動評価をする際には注意が必要と考えられる。