日本地震学会2019年度秋季大会

講演情報

合同特別セッション

特別セッション » S21. 長周期地震動 —その生成から構造物の応答、社会の対応まで—

[S21]AM-1

2019年9月18日(水) 09:15 〜 10:30 A会場 (百周年記念ホール)

座長:青井 真(防災科学技術研究所)、岡本 國徳(気象庁)

一部講演については後日、講演情報の更新を行います。

10:00 〜 10:15

[S21-04] データ同化に基づく南海トラフの地震の長周期地震動即時予測ー海域観測点のサイト増幅の影響

*大峡 充己1、古村 孝志1、前田 拓人2 (1. 東京大学地震研究所、2. 弘前大学大学院理工学研究科)

1.データ同化に基づく長周期地震動の即時予測とその課題

 南海トラフ沿いの大地震により、震源域近傍の大阪、濃尾平野に限らず、数百キロメートル離れた関東平野でも長周期地震動の発生が心配される。Furumura, Maeda & Oba (2019, GRL)は、強震観測データと3次元差分法シミュレーション結果の同化による長周期地震動の即時予測手法を開発した。しかし、同化波動場に基づいて、数十秒〜数分先の長周期地震動の予測を即座に進めるには高速スパコンが必須である。そこで、大峡・古村。前田(2019, JpGU)は、同化波動場(観測と計算の残差)に対し、事前に計算したグリーン関数をコンボリューションすることで、評価地点の長周期地震動を瞬時に予測する改良を行った。本研究では、これらのデータ同化・長周期地震動予測手法を、南海トラフ沿いの大地震に適用するとともに、DONET等の海底ケーブル強震観測網の利用で課題となる、海域観測点の強いサイト増幅特性の影響を検討する。



2.海域観測点における強いサイト増幅の影響

 波動場のデータ同化は、J-SHIS地下構造モデルを用いた3次元差分法計算の結果と、強震観測データとの差を最適内挿法により空間補間して、計算結果を補正することで進められる。時間経過とともに同化が進展し、計算波動場が実際の波動場に十分近づいた後に、高速計算またはグリーン関数の利用により、遠地の評価地点における長周期地震動の予測を行う。南海トラフ沿いの地震のデータ同化には、三重県〜徳島県沖のDONET1&2、そして高知県沖〜日向灘に設置が計画されているN-net等の海底ケーブル強震観測網の活用が期待できる。しかしながら、震源域近傍での強震観測では、海底の厚い堆積物による強いサイト増幅や(例えば、Guo et al., 2016, BSSA)、今日神事の地盤の非線形応答による負のサイト増幅の影響(例えば、Ikeda and Tsuji, 2018, PEPS)がデータ同化と予測計算に与える影響が心配される。



3.海域観測データを用いたデータ同化と予測実験
 2004年紀伊半島南東沖地震(Mw7.4)のK-NET, KiK-net強震観測データを用いて、関東平野の長周期地震動の即時予測の数値実験を行った。DONET観測点の強震データは存在しないため、F-netによる震源モデルとJ-SHISモデルを用いた3次元差分法計算により合成した。海域観測点の強いサイト増幅の影響を評価するために、熊野トラフ上の2観測点(図b赤三角)の加速度波形の振幅を4倍、その縁の2観測点(オレンジ三角)の振幅を2倍にした。震源ごく近傍の1観測点(黒三角)では、強震動による地盤の非線形応答を考慮して振幅を1/2倍にした。これらのK-NET, KiK-net実波形データと、DONET地点の合成波形データを用いたデータ同化により、関東平野(都心のSK-net; TKY.1120地点)の長周期地震動の予測を行なった。結果、海域観測点の強いサイト増幅により震源域周辺の広範囲にわたって同化波動場が過大評価され、関東平野の長周期地震動予測結果も2倍以上に過大評価となった(図c)。時間経過とともに、陸域での強震観測結果がデータ同化に反映されても、過大な同化波動場の修正は進まないことがわかった。この問題は、データ同化の最適内挿法で観測と計算の誤差を空間補間する際に用いる、観測誤差とシミュレーション誤差の標準偏差の比を表すパラメータρを考慮し、陸域観測点では観測誤差を小さく(ρ=0.4)、海域観測点では逆に大きく(ρ=10)設定することで、改善が確認できた(図d)。本来は、サイト増幅を適切に評価できる、詳細な地下構造モデルの利用が必要だが、不確定性の高いモデルであっても、想定される計算と観測の誤差の差異を評価することで、実用的なデータ同化と予測の実現可能性が示された。