日本地震学会2020年度秋季大会

講演情報

D会場

一般セッション » S01. 地震の理論・解析法

[S01]PM-2

2020年10月29日(木) 14:30 〜 15:30 D会場

座長:澤崎 郁(防災科学技術研究所)、座長:土井 一生(京都大学防災研究所)

15:00 〜 15:15

[S01-08] 振幅震源決定法による2017年7月の日田市小野地区における斜面崩壊の震源決定

〇土井 一生1、前田 拓人2、釜井 俊孝1、王 功輝1 (1.京都大学防災研究所、2.弘前大学大学院理工学研究科)

2017年九州北部豪雨によって大分県日田市小野地区において7月6日午前9時45分ごろに大規模な斜面崩壊が発生した。この斜面崩壊によると思われる地震動が、約1分の間隔をおいて2回、定常地震観測網の4-5点の地震観測点において捉えられた。継続時間は40-60秒程度、卓越周波数は0.5-3 Hzであり既往研究(e.g. Dammeier et al., 2011)による斜面崩壊の地震波形記録と矛盾しない特徴を示した。また、崩壊地から約 3 km/sの見かけ速度で伝播していたことからも、本崩壊によって励起された地震動が捉えられたことが窺えた。

このように、比較的規模の小さな斜面崩壊であっても、高感度地震観測網にはその震動が記録されていることがあり、高周波連続地震観測記録が斜面崩壊の監視に重要な役割を果たすと期待される。しかし、それらの記録は一般にS/Nが低く、しかも通常の地震と違い明瞭なP波S波相がみられることはほとんどない。そこで、本研究ではこのような地震動が定常地震観測網で捉えられた際に、斜面崩壊に関する事前情報なしにどの程度震源を推定できるのかを調べた。

Doi and Maeda (2020) は、火山性の低周波微動の震源を観測点間の振幅比から推定した振幅震源決定法(ASL法、Kumagai et al., 2010)を、定常地震観測網で記録された2017年長野県飯山市の斜面崩壊による10観測点以上の地震波形データに適用し、推定精度約5 kmで崩壊斜面の周辺に震源を決定することに成功した。しかし、本研究で対象とする日田市小野地区における斜面崩壊はそれよりも規模が小さい。そのため、この手法をそのまま本研究の波形データにあてはめ震源決定をおこなったところ、高いS/N比を有する地震観測点が4点程度と少なく、そのままでは震源位置の拘束がうまくいかなかった。そこで、本研究では、S/N比が低い観測点におけるデータを有効活用するため、仮想震源位置に応じて利用するデータを動的に変更する2段階法を採用した。まず、グリッドサーチで仮定する仮想震源位置に対し、観測記録のS/N比の高い点のみの記録と振幅の理論予測曲線との比較から、すべての観測点における振幅の予測値を算出する。そして、信号のS/N比が低い観測点であっても、仮定した仮想震源位置からの振幅の理論予測値がノイズレベルの2倍以上であれば、その観測点では仮想震源位置からの地震動をノイズレベルよりも有意に大きな振幅で記録できるはずであると考えデータとして算入し、理論予測曲線と観測振幅との残差を計算する。このようにして得られた残差がもっとも小さな仮想震源位置を斜面崩壊の波源し、その周辺の残差の空間分布から誤差範囲を推定した。その結果、2回の地震動に対して、推定精度5 km程度で崩壊斜面の周辺に震源が求められた。

本研究で扱った小野地区の斜面崩壊は、観測点間隔が平均20-30 km 程度である定常地震観測網に囲まれるような場所で発生した。そのため、一般に日本国内の内陸部で発生する斜面崩壊においても、同様の観測条件が満たされることが予想される。したがって、本研究で採用した観測点選定基準を用いることで、高感度定常地震観測網の観測記録から、国内の多くの地域において同程度の斜面崩壊を事前情報無しに検知できることが期待される。



謝辞:防災科学技術研究所の高感度地震観測網の地震波形データを使用させていただきました。記して感謝いたします。