16:00 〜 17:30
[S02P-05] 地震観測網が捉えた新型コロナウィルス感染症の拡大に伴う社会活動の変化
新型コロナウィルス感染症拡大防止を目的として社会活動が制限されたことに伴い,世界各地の地震観測点でのノイズレベル低減が報告されている(例えば,Lecocq et al., 2020).日本国内において,Yabe et al. (2020)は首都圏地震観測網MeSO-netのデータを解析し,3月上旬頃と3月下旬~4月上旬頃の2段階のノイズレベル低減があることを確認するとともに,それぞれ学校の臨時休校,都の活動自粛要請ならびに国の緊急事態宣言発令と関係するとした.本稿では,日本全国に設置された防災科研Hi-netとF-netの観測データを概観し,新型コロナウィルス感染症拡大に伴う影響の有無について,ノイズレベルならびに砕石発破による人工地震数の観点から確認を行った.
Hi-netやF-netでは,社会活動等によるノイズを避けるため,観測井の底や山間部に地震計を設置している.多くの観測点では,ノイズレベルは冬季に高く,夏季に低くなる季節変化の影響が大きいが,日単位や週単位といった社会活動に関連するノイズレベル変化を記録する観測点も存在する.このような観測点のうち,住環境に近い地域に設置されている観測点では,MeSO-netの事例同様,3月下旬から5月中旬にかけてRMS値が小さくなる傾向が見られた.日別の変化を確認すると,昼夜のRMS値の差が小さくなる,すなわち昼間の社会活動レベルの低下と関連する変化が明瞭であった.一方,山間地や感染者がほぼ報告されていない地域では,RMS値の日あるいは週単位の変動に大きな変化は見られない点もあった.日本で発令された「緊急事態宣言」は法的に社会活動制限するものではなく,交通サービスや流通網は通常レベルが維持されたため,このような地域性が生じたものと考えられる.
一方,感染の拡大に伴う経済活動の停滞も話題となっている.岡田(1996)は,景気動向指数と砕石発破に関連する人工地震数に強い関連があることを報告した.防災科研ではリアルタイムで流通する高感度地震観測データを用いて独自にイベント検出ならびに自動震源決定を行っており,発破が頻発する地域・時間に震源が決まった場合は「発破」フラグを付与してデータベースに格納している(汐見,2017).ただし,自動震源カタログでは,精度の悪い震源情報に対してフラグが適切に振られているとは限らない.まず,活動状況変化の概観を把握することを目的として,自動処理カタログに登録された震源深さが浅いイベント数の推移に着目した.通常の地震は昼夜の差なく発生しているのに対し,発破は主に7時から19時までの12時間に集中する.2016年4月から2020年7月末までを対象に,上記12時間にトリガーしたイベントが同日24時間で検出した総イベント数に占める割合の変化を調べた.その結果,2020年3月以前はおおむね60%程度で推移していたが,同年4月初旬に50%台前半に低下したことを確認した.この変化は国内の観測網で見られるノイズレベルの変化傾向と一致するほか,内閣府が公表する景気動向指数の変化とも対応しているように見える.自然地震のみを収録している気象庁一元化震源カタログで同様の処理を行ったところ,全期間を通じておおむね45%~50%程度で一定であり,このような変化は見えない.このことから,この変化は砕石発破等の人工地震によるイベント数の変化を反映していると考えられる.本調査では広域を対象にイベント数の比のみを評価したため地域の平均的な特徴を捉えたに過ぎない.また,2016年熊本地震のように通常の地震活動数が極端に増加した場合,必然的に割合は50%に近づくため検知は困難になる.そこで,一部の発破クラスタについて、その活動状況を個別に確認したところ,変化の有無を含めクラスタごとに異なる特徴が見られた.ただし,それぞれのクラスタで検知されるイベント数のゆらぎも大きく,客観的な判断は困難であった.経済活動状況モニタリングのための指標とするためには,発破頻発地域を対象としたイベント検出状況の精査を行うとともに,イベントの自動検知能力の向上と安定運用が不可欠である.
謝辞:本研究の実施に際し,気象庁,北海道大学,弘前大学,東北大学,東京大学,名古屋大学,京都大学,高知大学,九州大学,鹿児島大学,産業技術総合研究所,国土地理院,海洋研究開発機構,地震予知総合研究振興会,青森県,東京都,静岡県,神奈川県温泉地学研究所の観測波形データならびに気象庁・文部科学省が協力してデータを処理した結果を使用しました.
Hi-netやF-netでは,社会活動等によるノイズを避けるため,観測井の底や山間部に地震計を設置している.多くの観測点では,ノイズレベルは冬季に高く,夏季に低くなる季節変化の影響が大きいが,日単位や週単位といった社会活動に関連するノイズレベル変化を記録する観測点も存在する.このような観測点のうち,住環境に近い地域に設置されている観測点では,MeSO-netの事例同様,3月下旬から5月中旬にかけてRMS値が小さくなる傾向が見られた.日別の変化を確認すると,昼夜のRMS値の差が小さくなる,すなわち昼間の社会活動レベルの低下と関連する変化が明瞭であった.一方,山間地や感染者がほぼ報告されていない地域では,RMS値の日あるいは週単位の変動に大きな変化は見られない点もあった.日本で発令された「緊急事態宣言」は法的に社会活動制限するものではなく,交通サービスや流通網は通常レベルが維持されたため,このような地域性が生じたものと考えられる.
一方,感染の拡大に伴う経済活動の停滞も話題となっている.岡田(1996)は,景気動向指数と砕石発破に関連する人工地震数に強い関連があることを報告した.防災科研ではリアルタイムで流通する高感度地震観測データを用いて独自にイベント検出ならびに自動震源決定を行っており,発破が頻発する地域・時間に震源が決まった場合は「発破」フラグを付与してデータベースに格納している(汐見,2017).ただし,自動震源カタログでは,精度の悪い震源情報に対してフラグが適切に振られているとは限らない.まず,活動状況変化の概観を把握することを目的として,自動処理カタログに登録された震源深さが浅いイベント数の推移に着目した.通常の地震は昼夜の差なく発生しているのに対し,発破は主に7時から19時までの12時間に集中する.2016年4月から2020年7月末までを対象に,上記12時間にトリガーしたイベントが同日24時間で検出した総イベント数に占める割合の変化を調べた.その結果,2020年3月以前はおおむね60%程度で推移していたが,同年4月初旬に50%台前半に低下したことを確認した.この変化は国内の観測網で見られるノイズレベルの変化傾向と一致するほか,内閣府が公表する景気動向指数の変化とも対応しているように見える.自然地震のみを収録している気象庁一元化震源カタログで同様の処理を行ったところ,全期間を通じておおむね45%~50%程度で一定であり,このような変化は見えない.このことから,この変化は砕石発破等の人工地震によるイベント数の変化を反映していると考えられる.本調査では広域を対象にイベント数の比のみを評価したため地域の平均的な特徴を捉えたに過ぎない.また,2016年熊本地震のように通常の地震活動数が極端に増加した場合,必然的に割合は50%に近づくため検知は困難になる.そこで,一部の発破クラスタについて、その活動状況を個別に確認したところ,変化の有無を含めクラスタごとに異なる特徴が見られた.ただし,それぞれのクラスタで検知されるイベント数のゆらぎも大きく,客観的な判断は困難であった.経済活動状況モニタリングのための指標とするためには,発破頻発地域を対象としたイベント検出状況の精査を行うとともに,イベントの自動検知能力の向上と安定運用が不可欠である.
謝辞:本研究の実施に際し,気象庁,北海道大学,弘前大学,東北大学,東京大学,名古屋大学,京都大学,高知大学,九州大学,鹿児島大学,産業技術総合研究所,国土地理院,海洋研究開発機構,地震予知総合研究振興会,青森県,東京都,静岡県,神奈川県温泉地学研究所の観測波形データならびに気象庁・文部科学省が協力してデータを処理した結果を使用しました.