15:15 〜 15:30
[S09-06] 2020年5月に焼岳近傍で発生した深部低周波地震の卓越周波数の変化
1.はじめに
火山地域では深部低周波地震と呼ばれる通常の構造性地震に比べて卓越周波数が低い地震が深さ10~50kmで発生する。深部低周波地震は火山深部のマグマの活動と関連して発生すると考えられているが、詳細なメカニズムは明らかになっていない。
飛騨山脈の長野県と岐阜県の境界に位置する焼岳でも深部低周波地震活動が見られる。この地域では2020年5月2日から3日にかけて、20時間以上にわたり、規模の小さい深部低周波地震が連続的に発生した。本研究では、この連続的な深部低周波地震活動のスペクトルの時間変化について述べる。
2.焼岳の深部低周波地震活動の概要
気象庁の一元化震源カタログによると、焼岳近傍では通常の構造性地震が深さ0~10 kmで、また深部低周波地震が深さ10~40 kmで発生している。深部低周波地震は焼岳の北から北西にかけて、東西に10km、南北に5kmの範囲を中心に発生している。この活動は2つの群に分かれて活動し、東側の群は主として深さ20~35 kmで発生、西側の群は主に深さ10~20 kmで発生し、西ほど浅くなる傾向がある。西側の群は東側の群に比べて活動度は低い。
焼岳周辺の深部低周波地震は大見他(2003)で指摘しているように群発的に発生する傾向が強い。2004年以降は、2004年に群発的な深部低周波地震活動が起こって以降、この活動ほど顕著ではないものの、数年に一度続発的な活動が見られ、2019年以降、活動度は高くなっていた。
3.2020年5月の活動
2020年5月2日~3日かけて非常に規模の小さい深部低周波地震が連続的に発生した。気象庁の一元化震源カタログによると、これらの連続的な深部低周波地震のマグニチュードは-0.9~0の範囲で、西側の浅い群に属し、深さは10~20 kmに決められている。国立研究開発法人防災科学技術研究所の高感度地震観測網Hi-net(以後、Hi-netと略す)の観測点の連続地震記録を見ると、この連続的な活動は2020年5月2日の正午ごろに始まっており、2020年5月3日の15時ごろに収束している。
4.2020年5月2日~3日の連続的発生のスペクトル
5月2日~3日の深部低周波地震活動について、鵜川(2020)と同様のウェーブレット解析を適用して、スペクトルの時間変化を調べた。ウェーブレット解析は低周波振動の中に高周波が重畳する場合に有効的である。アナライジング・ウェーブレットとして下記の式で与えられるMorletのウェーブレットを採用した。
Ψ0(η)=π-1/4eiω0ηe-η2/2
ここにηは無次元のパラメーター、ω0は無次元の周波数パラメーターである。計算方法はTorrence and Compo(1998)に従った。本研究では、ウェーブレット解析結果から2秒間のスペクトル強度が最大となる周波数を、時間をずらしながら読み取ることで卓越周波数の時間変化の検出を試みた。地震波形データはHi-netの100Hzサンプリング波形データを使用している。
その結果、図に示すようにHi-net観測点N.KOKH(神岡)では2020年5月2日18時頃から1Hz~2Hz程度の振動が連続的に卓越するようになり、2020年5月3日3時頃に2Hz程度の顕著な振動は見られなくなったが、1Hz程度の振動は2020年5月3日14時頃まで顕著に続いているということがわかった。同様の傾向がHi-net観測点N.KTRH(上宝)でも観測されている。
5.考察とまとめ
深部低周波地震が噴火や火山浅部の群発地震活動と同期して活発化する事例(例えば1991年ピナツボ火山噴火や1998年岩手山)があり、深部低周波地震が火山深部のマグマ活動と関連して発生していることを示していると考えられている。
焼岳近傍では2020年4月22日から地殻浅部の東北東側を中心に群発地震活動が活発化していた。5月2日~3日に発生した深部低周波地震の連続的活動は、この群発地震活動の活発な期間に発生している。浅部の群発地震と深部低周波地震の震央は一致していないが、深部からのマグマなど、火山性流体の移動を示している可能性がある。
本研究では、5月2日~3日に焼岳近傍で深部低周波地震が連続的に発生し、その卓越周波数が1~2Hzから1Hz程度に時間変化したことを明らかにした。今後、震源の精査と卓越周波数が変化するメカニズムを明らかにすることが課題である。
6.謝辞
本研究では、国立研究開発法人防災科学技術研究所の高感度地震観測網Hi-netの地震波形データを使用した。また、図の作成にはGMT6を使用した。記してここに感謝いたします。
火山地域では深部低周波地震と呼ばれる通常の構造性地震に比べて卓越周波数が低い地震が深さ10~50kmで発生する。深部低周波地震は火山深部のマグマの活動と関連して発生すると考えられているが、詳細なメカニズムは明らかになっていない。
飛騨山脈の長野県と岐阜県の境界に位置する焼岳でも深部低周波地震活動が見られる。この地域では2020年5月2日から3日にかけて、20時間以上にわたり、規模の小さい深部低周波地震が連続的に発生した。本研究では、この連続的な深部低周波地震活動のスペクトルの時間変化について述べる。
2.焼岳の深部低周波地震活動の概要
気象庁の一元化震源カタログによると、焼岳近傍では通常の構造性地震が深さ0~10 kmで、また深部低周波地震が深さ10~40 kmで発生している。深部低周波地震は焼岳の北から北西にかけて、東西に10km、南北に5kmの範囲を中心に発生している。この活動は2つの群に分かれて活動し、東側の群は主として深さ20~35 kmで発生、西側の群は主に深さ10~20 kmで発生し、西ほど浅くなる傾向がある。西側の群は東側の群に比べて活動度は低い。
焼岳周辺の深部低周波地震は大見他(2003)で指摘しているように群発的に発生する傾向が強い。2004年以降は、2004年に群発的な深部低周波地震活動が起こって以降、この活動ほど顕著ではないものの、数年に一度続発的な活動が見られ、2019年以降、活動度は高くなっていた。
3.2020年5月の活動
2020年5月2日~3日かけて非常に規模の小さい深部低周波地震が連続的に発生した。気象庁の一元化震源カタログによると、これらの連続的な深部低周波地震のマグニチュードは-0.9~0の範囲で、西側の浅い群に属し、深さは10~20 kmに決められている。国立研究開発法人防災科学技術研究所の高感度地震観測網Hi-net(以後、Hi-netと略す)の観測点の連続地震記録を見ると、この連続的な活動は2020年5月2日の正午ごろに始まっており、2020年5月3日の15時ごろに収束している。
4.2020年5月2日~3日の連続的発生のスペクトル
5月2日~3日の深部低周波地震活動について、鵜川(2020)と同様のウェーブレット解析を適用して、スペクトルの時間変化を調べた。ウェーブレット解析は低周波振動の中に高周波が重畳する場合に有効的である。アナライジング・ウェーブレットとして下記の式で与えられるMorletのウェーブレットを採用した。
Ψ0(η)=π-1/4eiω0ηe-η2/2
ここにηは無次元のパラメーター、ω0は無次元の周波数パラメーターである。計算方法はTorrence and Compo(1998)に従った。本研究では、ウェーブレット解析結果から2秒間のスペクトル強度が最大となる周波数を、時間をずらしながら読み取ることで卓越周波数の時間変化の検出を試みた。地震波形データはHi-netの100Hzサンプリング波形データを使用している。
その結果、図に示すようにHi-net観測点N.KOKH(神岡)では2020年5月2日18時頃から1Hz~2Hz程度の振動が連続的に卓越するようになり、2020年5月3日3時頃に2Hz程度の顕著な振動は見られなくなったが、1Hz程度の振動は2020年5月3日14時頃まで顕著に続いているということがわかった。同様の傾向がHi-net観測点N.KTRH(上宝)でも観測されている。
5.考察とまとめ
深部低周波地震が噴火や火山浅部の群発地震活動と同期して活発化する事例(例えば1991年ピナツボ火山噴火や1998年岩手山)があり、深部低周波地震が火山深部のマグマ活動と関連して発生していることを示していると考えられている。
焼岳近傍では2020年4月22日から地殻浅部の東北東側を中心に群発地震活動が活発化していた。5月2日~3日に発生した深部低周波地震の連続的活動は、この群発地震活動の活発な期間に発生している。浅部の群発地震と深部低周波地震の震央は一致していないが、深部からのマグマなど、火山性流体の移動を示している可能性がある。
本研究では、5月2日~3日に焼岳近傍で深部低周波地震が連続的に発生し、その卓越周波数が1~2Hzから1Hz程度に時間変化したことを明らかにした。今後、震源の精査と卓越周波数が変化するメカニズムを明らかにすることが課題である。
6.謝辞
本研究では、国立研究開発法人防災科学技術研究所の高感度地震観測網Hi-netの地震波形データを使用した。また、図の作成にはGMT6を使用した。記してここに感謝いたします。