1:15 PM - 1:30 PM
[S16-05] Characteristics of teleseismic S-wave response of the Kanto sedimentary basin: Analysis of teleseismic earthquakes with different size and azimuth
はじめに
大規模な堆積盆地では,地震の発生に伴って周期数秒以上のやや長周期地震動(以下,長周期地震動)が発生することが知られている.これまで関東堆積盆地については,その周囲で発生した浅発地震を解析対象として長周期地震動の発生メカニズムに関する研究が行われてきた[例えば,Koketsu and Kikuchi (2000)].一方で,首都圏にはMeSO-netが稠密に敷設され,その連続記録が利用可能であり,遠地地震の実体波を用いた関東堆積盆地のS波応答を解析することが可能と考えられる.試験的解析としてアラスカ沖で発生したMw7.9の地震などのS波およびその直後の後続相の解析を実施したところ,地震基盤深度に対応して地震動が大きくなる特徴が確認され[中川・他(JpGU-AGU 2020)],堆積盆地構造の解析に有用であることが期待される.本研究では,遠地地震を用いた関東堆積盆地の構造解析を目指し,地震規模と方位角の異なる地震を追加で解析し,堆積盆地のS波応答の規模と方位変化を調べた.
データと解析手法
MeSO-netおよびF-netで記録された,関東堆積盆地から震央距離30°〜80°で発生した遠地地震の波形を解析した.先行的に解析したアラスカ沖,パプアニューギニア,イラクで発生した地震に加え,アラスカ,ハワイ,ニュージーランドで発生した地震を追加で解析した.それぞれのモーメントマグニチュードは7.1,6.9,7.3である.ただし,ニュージーランドで発生した地震の波形については地震規模は十分であると期待されたが,都市部でのノイズレベルが高かったため,解析結果から除外することにした.観測波形記録に加え,平面波入射シミュレーションによる計算波形も解析に使用した.全国1次地下構造モデル [Koketsu et al. (2012)] を仮定し,地震波伝播の評価にはOpenSWPC [Maeda et al. (2017)] を用いた.解析の周期帯域は5〜20秒とした.中川・他(JpGU-AGU 2020)と同様に速度波形の振幅を2乗して時間積分し,S波と後続相のエネルギーを評価した.地震波エネルギーについて,堆積盆地外のF-net観測点の平均値に対する堆積盆地内のMeSO-net観測点の値の比率(以下,増幅率)を求め,堆積盆地内における増幅率の空間変化の特徴について調べた.
解析結果
アラスカとハワイで発生した地震について,地震動の水平成分では,S波とその後続波が堆積盆地内において5〜20倍程度増幅されることが確認できた.この解析結果は先行で解析した規模の大きな地震と整合するものであり,地震の規模や方位角に依らず,関東堆積盆地内では遠地地震のS波とその後続波部分において,堆積盆地外と比べて大きな地震動が発現することが明らかになった.また,地震基盤深度が3 kmより深い地点において後続波の振幅が大きくなる傾向が見られることを確認した.
平面波入射シミュレーションから評価した増幅率と観測された増幅率を比較したところ,水平成分のS波の後続波の増幅率が堆積盆地内で大きくなる傾向を概ね再現できた.モデルシミュレーションにより,入射した遠地地震のS波に関東堆積盆地が作用して後続波が励起され,その波群が同盆地内にトラップされる現象であることを確認した.すなわち,遠地地震の実体波を利用することで堆積盆地のS波応答を安定的に評価できる可能性があり,より詳細な評価を進める必要がある.
謝辞
防災科学技術研究所のF-netおよびMeSO-netの地震波形記録を使用しました.地震動シミュレーションには東京大学情報基盤センターの富士通PRIMERGY CX600M1/CX1640M1(Oakforest-PACS)を利用しました.本研究は,ERI JURP <2020-S-04>の支援を受けて実施しました.
大規模な堆積盆地では,地震の発生に伴って周期数秒以上のやや長周期地震動(以下,長周期地震動)が発生することが知られている.これまで関東堆積盆地については,その周囲で発生した浅発地震を解析対象として長周期地震動の発生メカニズムに関する研究が行われてきた[例えば,Koketsu and Kikuchi (2000)].一方で,首都圏にはMeSO-netが稠密に敷設され,その連続記録が利用可能であり,遠地地震の実体波を用いた関東堆積盆地のS波応答を解析することが可能と考えられる.試験的解析としてアラスカ沖で発生したMw7.9の地震などのS波およびその直後の後続相の解析を実施したところ,地震基盤深度に対応して地震動が大きくなる特徴が確認され[中川・他(JpGU-AGU 2020)],堆積盆地構造の解析に有用であることが期待される.本研究では,遠地地震を用いた関東堆積盆地の構造解析を目指し,地震規模と方位角の異なる地震を追加で解析し,堆積盆地のS波応答の規模と方位変化を調べた.
データと解析手法
MeSO-netおよびF-netで記録された,関東堆積盆地から震央距離30°〜80°で発生した遠地地震の波形を解析した.先行的に解析したアラスカ沖,パプアニューギニア,イラクで発生した地震に加え,アラスカ,ハワイ,ニュージーランドで発生した地震を追加で解析した.それぞれのモーメントマグニチュードは7.1,6.9,7.3である.ただし,ニュージーランドで発生した地震の波形については地震規模は十分であると期待されたが,都市部でのノイズレベルが高かったため,解析結果から除外することにした.観測波形記録に加え,平面波入射シミュレーションによる計算波形も解析に使用した.全国1次地下構造モデル [Koketsu et al. (2012)] を仮定し,地震波伝播の評価にはOpenSWPC [Maeda et al. (2017)] を用いた.解析の周期帯域は5〜20秒とした.中川・他(JpGU-AGU 2020)と同様に速度波形の振幅を2乗して時間積分し,S波と後続相のエネルギーを評価した.地震波エネルギーについて,堆積盆地外のF-net観測点の平均値に対する堆積盆地内のMeSO-net観測点の値の比率(以下,増幅率)を求め,堆積盆地内における増幅率の空間変化の特徴について調べた.
解析結果
アラスカとハワイで発生した地震について,地震動の水平成分では,S波とその後続波が堆積盆地内において5〜20倍程度増幅されることが確認できた.この解析結果は先行で解析した規模の大きな地震と整合するものであり,地震の規模や方位角に依らず,関東堆積盆地内では遠地地震のS波とその後続波部分において,堆積盆地外と比べて大きな地震動が発現することが明らかになった.また,地震基盤深度が3 kmより深い地点において後続波の振幅が大きくなる傾向が見られることを確認した.
平面波入射シミュレーションから評価した増幅率と観測された増幅率を比較したところ,水平成分のS波の後続波の増幅率が堆積盆地内で大きくなる傾向を概ね再現できた.モデルシミュレーションにより,入射した遠地地震のS波に関東堆積盆地が作用して後続波が励起され,その波群が同盆地内にトラップされる現象であることを確認した.すなわち,遠地地震の実体波を利用することで堆積盆地のS波応答を安定的に評価できる可能性があり,より詳細な評価を進める必要がある.
謝辞
防災科学技術研究所のF-netおよびMeSO-netの地震波形記録を使用しました.地震動シミュレーションには東京大学情報基盤センターの富士通PRIMERGY CX600M1/CX1640M1(Oakforest-PACS)を利用しました.本研究は,ERI JURP <2020-S-04>の支援を受けて実施しました.