16:20 〜 16:30
[S17P-11] 津波データベースを用いた回帰モデルよる津波浸水予測
日本では沖合を伝播する津波は海底水圧計やGPS波浪計で海岸に到達する前に観測可能である。エネルギー保存則より得られるグリーンの法則を用いれば、沖合津波高から沿岸津波高を簡単に推定できる。さらに発展した手法として、多数の津波シミュレーション結果に基づいて回帰するモデル(以降、回帰モデル)が知られており、Baba et al. (2014)やYoshikawa et al. (2019)などがある。これらはシンプルであるが実用的で、処理速度の割に高精度な予測が可能である。しかし、回帰モデルは海岸の任意の1点のみの高さを予測するだけで、最大浸水深分布のような面的な分布を求めるに至っていない。津波災害発災後の応急対応などを考えた場合、沿岸津波高だけでなく、浸水深分布も予測できることが望ましい。既存の回帰モデルで浸水深分布を求めるには、単純には空間上のすべての点について予測を実施すればよいわけだが、予測点が膨大となるため処理時間が長くなるという問題がある。解決策として、津波による浸水深が常に類似しているエリアを予めグループ化して予測点を減らすことが挙げられる。本研究ではこの実現を目的とする。津波による浸水深が常に類似しているエリアを予めグループ化するために、ここではクラスタリング解析の非階層的手法の代表例であるk-means法を用いた。解析対象は、徳島県阿南市周辺地域とし、浸水深データは内閣府シナリオの11ケースによるものを使った。k-means法はクラスタ分割数をあらかじめ分析者が設定する必要があり、恣意性が残る。このため、分割数を変えて何回か解析し、あるひとつのクラスタの浸水深データの平均値で規格化した標準偏差(NSD)を調査した。ここで任意ながらNSDが0.2未満を目安とした。分割数を9とした場合、NSDが0.2未満を満たしたクラスタは全体の55.6%であった。分割数を18とした場合では63.6%、クラスタ数を27とした場合では64.6%であった。分割数18と27の場合であまり違いが見られなかったので、分割数18を最終的に採用した。重回帰分析により浸水エリアの浸水深を予測する手法として、べき乗の回帰モデル(Yoshikawa et al., 2019)を用いた。回帰モデルを構築するクラスタは、NSDが0.177であった分割数18の第17クラスタとした。回帰モデルの構築に利用したデータは、津波浸水データベース(武田,2019)の3967ケース中、予測エリアでの最大浸水深が高いシナリオを順に100個用いた。目的変数として当該クラスタ内の浸水深データの平均値、最大値、標準偏差を、説明変数としてDONET(地震・津波観測監視システム)の海底水圧計51箇所での最大津波高を利用した。最後に構築した回帰モデルを使って、当該クラスタの内閣府シナリオケース3の浸水深の平均値、最大値、標準偏差を予測した。それぞれ1.76m、4.46m、2.23mとなった。正解は1.58m、3.03m、0.28mであり、必ずしも精度が良いとは言えない。今回、回帰モデルの構築に利用したシナリオの個数は100個であり、かつ、大津波のシナリオに偏っていた。これが低精度の原因かもしれない。引き続き調査する予定である。
謝辞:本研究はJSPS科研費19H02409の助成を受けたものです。記して感謝いたします。
謝辞:本研究はJSPS科研費19H02409の助成を受けたものです。記して感謝いたします。