日本地震学会2022年度秋季大会

講演情報

C会場

一般セッション » S06. 地殻構造

[S06] PM-2

2022年10月24日(月) 16:00 〜 17:00 C会場 (8階(820研修室))

座長:利根川 貴志(海洋研究開発機構)

16:30 〜 16:45

[S06-11] 箱根カルデラ内の亀裂系構造の空間変化とその原因について

*本多 亮1、安部 祐希1、行竹 洋平2、酒井 慎一3 (1. 神奈川県温泉地学研究所、2. 東京大学地震研究所、3. 東京大学大学院情報学環・学際情報学府)

1.はじめに  箱根火山のカルデラ内には、古い亀裂やダイク、微小亀裂などの多くの割れ目や亀裂が存在する。そのような既存の割れ目系は、マグマや熱水が侵入する経路として利用され、地震活動の活発化や水蒸気噴火の際の地殻変動の原因となっている可能性がある。我々はこれまでも、S波スプリッティングと呼ばれる現象を利用して地下の亀裂系についての研究を行ってきたが(Honda et al., 2014)、本研究ではFuzzy C-means法と呼ばれる手法を用いて地下の亀裂系の方位についてクラスタリングを実施して、箱根火山の亀裂系の特徴を明らかにした。 2. 解析手法  本研究では亀裂系の詳細な空間分布を推定するため、2016年から2017年にかけて箱根火山及びその周辺で実施した機動観測のデータを利用した。まず、S波スプリッティングの解析を行い、各観測点での速いS波の振動方向(LSPD)のデータを集める。この振動方向が観測点直下の亀裂系の方向に相当する。ただし、機動観測点の場合はセンサーの設置方位の誤差が大きいと考えられることから、事前に遠地地震の波形を用いて方位の修正を行った。次に、観測点ごとに異方性の強度などで重みづけしたLSPDの平均を計算し、最後にFuzzy C-means法を用いて平均LSPDのクラスタリングを実施した。 3. 結果  Fuzzy C-means法ではクラスター数を任意で与えるため、クラスターの数を2から7まで変化させて、いくつのクラスターに分けるのが尤もらしいか調べた。その結果、箱根カルデラの亀裂系は2つのクラスター(AおよびB)または4つのクラスター(A1、A2、B1, およびB2)に分類できることが分かった。B1はおおむね中央火口丘付近、B2はカルデラの南北、A1、A2はカルデラ西部もしくはカルデラ周辺に分布する。
 広域応力場の圧縮軸の方向に対応する北西-南東方向の亀裂系が卓越するクラスター(B1)は、広域応力場によって掲載された微小な亀裂系やダイクの存在を示していると考えられ、古い火口の配列方向ともよく一致している。クラスターB2は、箱根カルデラの南北に存在する丹那断層および平山断層の走向に近い方向を持つクラスターであり、これらの断層の断層破砕帯が存在することを示唆している。クラスターA1、A2はB2の共役系(B2と直交する走向をもつ断層)で説明できる可能性があるが、局所的な応力場による微小亀裂の配列や古い火山構造もこのようなクラスターの原因となりえる。例えば、Doke et al (2020)では、箱根の西側における歪の圧縮軸は、北西南東よりもやや東西寄りの方向を向いていることが示されており、このような局所的な応力場によって形成された亀裂系が存在している可能性もある。