日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(2日目)

一般セッション » S02. 地震計測・処理システム

[S02P] PM-P

2023年11月1日(水) 17:00 〜 18:30 P12会場(F203) (アネックスホール)

[S02P-05] 深部超低周波地震を対象とした西南日本における広帯域地震観測

*竹尾 明子1、宮川 幸治1、西本 太郎1、安藤 美和子1、佐伯 綾香1、田中 伸一1、大塚 宏徳2、藤田 親亮1、浜本 未希3、柴田 律也4、加藤 翔太1、加藤 慎也1、増田 滉己5、加納 将行6、武村 俊介1、小原 一成1 (1. 東京大学地震研究所、2. 神戸大学海洋底探査センター、3. 名古屋大学環境学研究科、4. 東京工業大学理学院地球惑星科学系、5. 東京大学理学系研究科、6. 東北大学理学研究科)

西南日本では、多種多様なスロー地震現象が主に定常的な観測網によって発見されてきた。例えば、深さ35km程度で発生する深部超低周波地震についてはF-net広帯域地震観測網やHi-netに付随する高感度加速度計の水平動2成分が大きな役割を果たしてきた。観測点間隔はそれぞれ50kmと20km程度である。しかしながら、深部超低周波地震の微弱なシグナルをより広帯域に捉えてスロー地震の周波数特性を明らかにするためには、震源直上近傍での広帯域地震計3成分、特にノイズレベルが低い傾向にある上下動成分による稠密な地震観測観測が必要である。そこで、本研究では西南日本の合計20点において広帯域地震計を用いた観測を行ってきた。使用した地震計はNanometrics社のTrillium 120PA/QAやTrillium Horizon、もしくはGuralp社のCMG-3Tである。どの観測点においても温度変化や風の影響を避けるために深さ1–1.5m程度の底に地震計を設置している。

2015年および2017年に四国西部と九州において開始した観測は、豊後水道(Bungo Channel)の頭文字を取ってBCシリーズと呼んでいる。合計6観測点において直径1m程度のマンホールを地中に設置し地震計を設置した。記録はWIN形式、商用原電を引き込み、データをリアルタイムに東京大学地震研究所の受信サーバーに送信している。一部有線を用いていたが現在は全てモバイル化している。

2019年から2020年にかけて四国西部・紀伊・東海地方に設置した合計14観測点の観測はBroadband Campaign for Deep Extent of Nankai Slow Earthquakeの頭文字を取ってBC-DENSE観測と呼んでいる。BC-DENSEは2年程度の臨時観測を想定し、地震計を蓋つき塩ビ管で覆った後に周囲を土で埋め戻す形をとった。BCシリーズとは異なり、記録はSTEIM2形式、ソーラーパネルで電源を供給し、モバイルでデータを送信している。受信サーバーはレンタルサーバーに独自に構築している。

この2つの観測網を既存観測網と合わせることで局所的には5–10km間隔の観測網を実現した。データの質に関して地中設置の効果は高く、特に上下動成分の周期20-50秒において定常観測網F-netと遜色のない記録が取れている。予備的な解析では、西南日本全体で年間約400の超低周波地震を検出することができている。一部観測点においては周期50–100秒においてもF-netと同等の記録が取れており、スロー地震の周波数特性解明が期待される。

一方で、長期間の観測では様々な問題も発生している。例えば、地中の電力ノイズを拾ってしまったケースでは、アースの設置に工夫を行った。Trillium 120PA/QAについてはコネクタの浸水対策に試行錯誤が必要であった。CMG-3Tについては故障が相次ぎ、地震計交換を合計9回行った。モバイル電波の強度が不十分なためアンテナ交換を行った観測点や、GPSアンテナの接合部が故障し交換した観測点もある。このような経緯をふまえ、3観測点については2021年に撤収し、現在は17観測点を維持している。

得られたデータについては公開準備を進めているところである。1観測点ではGPSの不調により時刻ズレが生じたため地震波干渉法を利用して時刻補正を行なった。また、地震計交換によって機器特性が変わるため、SEED形式のレスポンスファイルを作成した。今後は時刻補正を適用した上で、オリジナルと同じ100Hzサンプリングの記録と1Hzサンプリングの記録を用意し、東京大学地震研究所の海半球プロジェクトデータセンターにて公開予定である。